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第8章
第381話 テスト当日②
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「キルナ、教えてくれ。何があったのか全部」
クライスに強く促され、僕はついにこの一週間のことを話した。
「僕は…闇属性で、落ちこぼれで、黒い髪をしているから…王妃にふさわしくないのだって。魔獣が来たのも僕のせいだって。だから…クライスとは、結婚できないかもしれない。……ごめん」
挨拶を無視されたこと。机にひどい言葉を書かれたこと。トイレに水が降ってきたこと。足を引っ掛けられたこと。悪口を言われたこと……。そして、そんな僕はクライスと結婚できないかもしれないということ。
途中、何度も話を止めてしまって話し終えるまですごく時間がかかった。最後らへんは涙が溢れてきて止まらなくなってしまい、きちんと言葉にできていたかも怪しい。けれど、クライスは全部聞いてくれた。
「辛かったな。すまない、すぐに気づいてやれなくて」
「違う…ぼくが…隠してたから」
迷惑をかけたくない。心配をかけたくない。
七海の願いは今も心の奥に残っていて。昨日リリーが気にかけてくれた時もクライスが言えと言った時もその手を握らなかった。
いじめについて誰にも言わないことを選んできたのは僕だ。気づかなかったのはクライスのせいじゃない。
「僕のせいだから……」
「お前のせいじゃない」
抱き締められキスをされると甘い魔力がお腹に流れ、ちくちくした痛みが消えた。
ちゃぷちゃぷちゃぷ
「いい香り……」
お湯の動きに合わせてジーンの花びらが揺れる。掬い取ろうとしたら、ほかほかに温まった体がぐいっと彼の方に引き寄せられ、向かい合わせに座らされた。
「少しは落ち着いたか?」
「ぅん……」
トイレで泣き崩れてしまった僕を、クライスはなぜかそのまま大浴場に連れてきた。まだお風呂には早い気もするけど、ありがたい。顔が涙やらなんやらでドロドロだったし、体も冷たくなってたし、お風呂は大好きだし。
それにここには僕とクライスしかいない。最高に落ち着ける場所だった。クライスの膝の上というのも、今は恥ずかしさより安心感が勝る。
「テストも頑張ったし、たくさん話をして疲れただろう。今はゆっくり休め」
「ごめん、クライスも僕につきあってたせいで魔法史のテスト受けられなかったね」
「欠席者は後日テストが受けられるようになっているから大丈夫だ。三日後にテストがあるからそれを受けよう」
「そうなんだ」
そっか。それなら勉強が無駄にならずにすみそう。何よりクライスが僕のせいでテストを受けられないで終わるって事態にならなくてよかった。
抱え込んでいた悩みを全部吐き出して、テストも無事受けられるとわかってほっとすると、一気に眠気が襲ってきた。うつらうつらしてきた僕の頭を肩にのせ、彼は耳元でそっと囁く。
「寝ていいぞ。ああでもその前に一つ。結婚できないかもという心配は不要だ。俺は何があってもお前と結婚すると決めているから」
「でも僕のことを他の人は認めないんじゃ?」
「お前の良さがわからないクズなんてどうでもいい。心配するな。全部まとめて綺麗にする。大丈夫だ」
クズを…綺麗にする? それってどういうことだろう?
僕はジーンの花の香りがするお湯とクライスの腕の心地よさに、もう半ば夢の中だった。だからクライスが魔王様の顔になっていたことには気づかなかった。
クライスに強く促され、僕はついにこの一週間のことを話した。
「僕は…闇属性で、落ちこぼれで、黒い髪をしているから…王妃にふさわしくないのだって。魔獣が来たのも僕のせいだって。だから…クライスとは、結婚できないかもしれない。……ごめん」
挨拶を無視されたこと。机にひどい言葉を書かれたこと。トイレに水が降ってきたこと。足を引っ掛けられたこと。悪口を言われたこと……。そして、そんな僕はクライスと結婚できないかもしれないということ。
途中、何度も話を止めてしまって話し終えるまですごく時間がかかった。最後らへんは涙が溢れてきて止まらなくなってしまい、きちんと言葉にできていたかも怪しい。けれど、クライスは全部聞いてくれた。
「辛かったな。すまない、すぐに気づいてやれなくて」
「違う…ぼくが…隠してたから」
迷惑をかけたくない。心配をかけたくない。
七海の願いは今も心の奥に残っていて。昨日リリーが気にかけてくれた時もクライスが言えと言った時もその手を握らなかった。
いじめについて誰にも言わないことを選んできたのは僕だ。気づかなかったのはクライスのせいじゃない。
「僕のせいだから……」
「お前のせいじゃない」
抱き締められキスをされると甘い魔力がお腹に流れ、ちくちくした痛みが消えた。
ちゃぷちゃぷちゃぷ
「いい香り……」
お湯の動きに合わせてジーンの花びらが揺れる。掬い取ろうとしたら、ほかほかに温まった体がぐいっと彼の方に引き寄せられ、向かい合わせに座らされた。
「少しは落ち着いたか?」
「ぅん……」
トイレで泣き崩れてしまった僕を、クライスはなぜかそのまま大浴場に連れてきた。まだお風呂には早い気もするけど、ありがたい。顔が涙やらなんやらでドロドロだったし、体も冷たくなってたし、お風呂は大好きだし。
それにここには僕とクライスしかいない。最高に落ち着ける場所だった。クライスの膝の上というのも、今は恥ずかしさより安心感が勝る。
「テストも頑張ったし、たくさん話をして疲れただろう。今はゆっくり休め」
「ごめん、クライスも僕につきあってたせいで魔法史のテスト受けられなかったね」
「欠席者は後日テストが受けられるようになっているから大丈夫だ。三日後にテストがあるからそれを受けよう」
「そうなんだ」
そっか。それなら勉強が無駄にならずにすみそう。何よりクライスが僕のせいでテストを受けられないで終わるって事態にならなくてよかった。
抱え込んでいた悩みを全部吐き出して、テストも無事受けられるとわかってほっとすると、一気に眠気が襲ってきた。うつらうつらしてきた僕の頭を肩にのせ、彼は耳元でそっと囁く。
「寝ていいぞ。ああでもその前に一つ。結婚できないかもという心配は不要だ。俺は何があってもお前と結婚すると決めているから」
「でも僕のことを他の人は認めないんじゃ?」
「お前の良さがわからないクズなんてどうでもいい。心配するな。全部まとめて綺麗にする。大丈夫だ」
クズを…綺麗にする? それってどういうことだろう?
僕はジーンの花の香りがするお湯とクライスの腕の心地よさに、もう半ば夢の中だった。だからクライスが魔王様の顔になっていたことには気づかなかった。
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