234 / 286
第8章
第370話 悪役令息の試験勉強
しおりを挟む
一学期の間、学園はそのまま休みが続き、ひたすら課題をこなす日々が続いた。
長期休暇に入り、いつものように帰省しようとしたら、お父様から『家には帰ってこないように』と手紙が届いた。お父様は今仕事がものすごく忙しくてほとんど家に帰れていないらしく、屋敷の警備だけでは不安だから学園にいて欲しいのだって。
騎士団と魔術師団の働きで魔獣は王都やその周辺の領地から姿を消したものの、まだ警戒体制は続いていて落ち着かない様子だという。
ということで、僕は長期期間中寮に残った。テアとリリーも今年は遠出すると危ないから帰らないと言い、クライスとユジンも寮に残っていたから寂しくはなかった。
ガリガリガリ……
そして今、僕は人生で一番勉強している。『必勝』って書いたハチマキを巻いて、そこら中の壁に『闘魂』って書いた紙と暗記したいことを書いたメモを貼り付けて。まるで受験生のよう。
なぜか気になる? 勉強嫌いなくせに急に何やる気だしてんだこいつ? ってみんな思ってるに違いない。でも誰もそれを口に出しては言わなかった。
わからないところをテアやリリーに聞けば変な顔をしながらも教えてくれる。テアは得意な魔法鉱物学を、リリーは魔法応用学を中心に。
ユジンはなぜかまだ1年生なのに、どんな問題でも難なく解いてしまう。僕が問題につまずいていたら隣に来て一緒に解いてくれた。クライスの学友たちも長期休暇の間は生徒会の仕事がないからと、部屋に来ることが増え、丁寧に教えてくれた。クライスは……早く寝ろってうるさい。
「キルナ、まだやっているのか?」
「今忙しいから話しかけないで」
「もう寝る時間だぞ」
「僕まだ起きてるから先に寝てて」
「おい」
「んもう、なに。僕は今忙しいんだってばぁ!!!」
寝不足なせいかイライラする。もう放っておいて欲しい。
「頑張るのはいいが、寝不足になるまでやっても身につかないから早く寝ろ」
「だって……」
「だってなんだ?」
(だっていっぱい勉強しないと、クライスの手伝いができないから)
彼の言葉を無視し、鉛筆をぎゅっと握りしめて、水魔法の呪文の続きを書いていく。一日100個呪文を覚える予定だからあと28個。長々しい呪文を覚えるために、まだまだ書かなくちゃ。
「キルナ……」
僕はしばらく前からクライスの様子がおかしいことに気づいていた。王宮に行った後くらいからかな? 心配性の症状が悪化してべったべたに僕にひっついて離れなかったり、時折不安げな目で僕を見ていたりする。王宮で何かあったの? と聞いても教えてくれない。
きっと王宮の仕事で何か悩んでるんだろうと思う。6年生になってクライスは王子として国の仕事を任されることが増えてきた。大量の仕事を寮に持ち帰ってこなしている。
何かできることがあればと、彼の見ている資料に目を通してみたものの、難しいものばかりで僕には全然理解できなかった。これじゃあ手伝うこともできない。
(もっと勉強して賢くなって、クライスを支えられる人間にならなくちゃ。せっかく時間があるのだし、まずはこの休み中、死ぬほど勉強しよう)
そう心に決めて、日夜勉強に励んでいるのだけど。なぜかクライスが邪魔をする。
「……俺の言うことが聞けないのか? 昨日も徹夜したくせに今日も徹夜するつもりか?」
厳しい目で睨みつけられ、僕はついに彼を無視できなくなって手を止める。
「だってだって、二学期から授業が再開するって聞いたの。一学期ずっと休園で期末テストができなかった分、二学期の初めにテストをするのだって。いい点数を取りたいの!」
「ああ、そう思うことはいいことだが、無茶をして体を壊せば意味がない。頼むから寝てくれ。心配なんだ」
「しんぱい?」
「ああ」
そう言われてしまうと逆らえない。彼の心配する顔や不安気な顔を減らしたくて頑張ろうとしているのに、心配させてしまっては本末転倒だ。
「ん、わかった……。今日はもう寝る」
時計を見ると、もう午前2時を回っていた。気力だけで起きていた僕は、体力の限界だったらしい。ベッドにたどり着くまでもたず、彼の腕の中で眠りに落ちた。
長期休暇に入り、いつものように帰省しようとしたら、お父様から『家には帰ってこないように』と手紙が届いた。お父様は今仕事がものすごく忙しくてほとんど家に帰れていないらしく、屋敷の警備だけでは不安だから学園にいて欲しいのだって。
騎士団と魔術師団の働きで魔獣は王都やその周辺の領地から姿を消したものの、まだ警戒体制は続いていて落ち着かない様子だという。
ということで、僕は長期期間中寮に残った。テアとリリーも今年は遠出すると危ないから帰らないと言い、クライスとユジンも寮に残っていたから寂しくはなかった。
ガリガリガリ……
そして今、僕は人生で一番勉強している。『必勝』って書いたハチマキを巻いて、そこら中の壁に『闘魂』って書いた紙と暗記したいことを書いたメモを貼り付けて。まるで受験生のよう。
なぜか気になる? 勉強嫌いなくせに急に何やる気だしてんだこいつ? ってみんな思ってるに違いない。でも誰もそれを口に出しては言わなかった。
わからないところをテアやリリーに聞けば変な顔をしながらも教えてくれる。テアは得意な魔法鉱物学を、リリーは魔法応用学を中心に。
ユジンはなぜかまだ1年生なのに、どんな問題でも難なく解いてしまう。僕が問題につまずいていたら隣に来て一緒に解いてくれた。クライスの学友たちも長期休暇の間は生徒会の仕事がないからと、部屋に来ることが増え、丁寧に教えてくれた。クライスは……早く寝ろってうるさい。
「キルナ、まだやっているのか?」
「今忙しいから話しかけないで」
「もう寝る時間だぞ」
「僕まだ起きてるから先に寝てて」
「おい」
「んもう、なに。僕は今忙しいんだってばぁ!!!」
寝不足なせいかイライラする。もう放っておいて欲しい。
「頑張るのはいいが、寝不足になるまでやっても身につかないから早く寝ろ」
「だって……」
「だってなんだ?」
(だっていっぱい勉強しないと、クライスの手伝いができないから)
彼の言葉を無視し、鉛筆をぎゅっと握りしめて、水魔法の呪文の続きを書いていく。一日100個呪文を覚える予定だからあと28個。長々しい呪文を覚えるために、まだまだ書かなくちゃ。
「キルナ……」
僕はしばらく前からクライスの様子がおかしいことに気づいていた。王宮に行った後くらいからかな? 心配性の症状が悪化してべったべたに僕にひっついて離れなかったり、時折不安げな目で僕を見ていたりする。王宮で何かあったの? と聞いても教えてくれない。
きっと王宮の仕事で何か悩んでるんだろうと思う。6年生になってクライスは王子として国の仕事を任されることが増えてきた。大量の仕事を寮に持ち帰ってこなしている。
何かできることがあればと、彼の見ている資料に目を通してみたものの、難しいものばかりで僕には全然理解できなかった。これじゃあ手伝うこともできない。
(もっと勉強して賢くなって、クライスを支えられる人間にならなくちゃ。せっかく時間があるのだし、まずはこの休み中、死ぬほど勉強しよう)
そう心に決めて、日夜勉強に励んでいるのだけど。なぜかクライスが邪魔をする。
「……俺の言うことが聞けないのか? 昨日も徹夜したくせに今日も徹夜するつもりか?」
厳しい目で睨みつけられ、僕はついに彼を無視できなくなって手を止める。
「だってだって、二学期から授業が再開するって聞いたの。一学期ずっと休園で期末テストができなかった分、二学期の初めにテストをするのだって。いい点数を取りたいの!」
「ああ、そう思うことはいいことだが、無茶をして体を壊せば意味がない。頼むから寝てくれ。心配なんだ」
「しんぱい?」
「ああ」
そう言われてしまうと逆らえない。彼の心配する顔や不安気な顔を減らしたくて頑張ろうとしているのに、心配させてしまっては本末転倒だ。
「ん、わかった……。今日はもう寝る」
時計を見ると、もう午前2時を回っていた。気力だけで起きていた僕は、体力の限界だったらしい。ベッドにたどり着くまでもたず、彼の腕の中で眠りに落ちた。
74
お気に入りに追加
10,228
あなたにおすすめの小説
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。