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第7章
第369話 クライスSIDE 厄災(ちょい※)
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「……もう抜いて……」
「おはようキルナ」
いつもの朝、キルナとの幸せな朝だ。「もぅクライスったら」と言いながらもキスに応えてくれる彼が今日も可愛い。
「クライス今日は王宮に行くんだったよね」
「ああ、きもだめしの時の話を聞きたいらしい。帰りは少し遅くなるかもしれない。先に寝ていろ」
「ん、わかった。気をつけて行ってきてね」
「ああ、お前もいい子で待っていろよ。でなければ……」
「い、いい子にしてるよ! だからもぅお仕置きはしなくてだいじょ…ん……んぅ…んん」
深い口づけをし、離れがたい気持ちを封じ込めて部屋を後にした。
王宮の応接間にいくと、父様母様の他に、フェルライト公爵、セントラ理事長、ライン先生、騎士団長のギラ=モーク、魔術師団長のメリダ=ブラークスが円卓を囲んでいる。
すごい面々だなと思いながら席に着くと、正面に座っている父様が口を開いた。
「この度宵闇の洞窟で起きたこと。セントラと教師のライン=ウェローから大体の話は聞いたが、クライス。その場にいたお前の口からも詳細を聞きたい」
「はい、わかりました」
俺は、順を追ってあの日のあったことを説明した。
きもだめしの休憩地点でペアのクーマから魔獣が紛れている聞き、彼と共にキルナの元に向かったこと。とんでもない数の魔獣、ヴォーウルフが洞窟内を徘徊していたこと。交戦中に魔獣が突然一方向に向かって走り出したこと。
それを追いかけると、魔獣たちはすでに黒焦げの死骸になっており、黒い靄と炎の中に瀕死のユジンを抱いたキルナを見つけたこと。
そこまで一気に話し終えると、セントラが補足する。
「黒い靄と炎は、キルナ様の闇の力が暴走して生じたものだと考えられます」
「その黒い炎が魔獣を倒したのか?」
眉を寄せる父にセントラは首を横に振った。
「わかりません。魔獣の死骸やその周辺に火魔法の魔力痕が見られました。黒い炎の前に大きな赤い炎が見えた、という生徒たちの証言もありますので、魔獣を倒したのがユジン様の炎かキルナ様の炎か、どちらかは不明です」
それについては俺もわからなかった。辿り着いた時にはもう魔獣は焼け死んだ後だったから。だがユジンが命懸けで放った炎が魔獣を倒したんだろうと思う。
「クライス」
「何でしょう、母様」
「ユジン君は、お前が助けたんだな? 瀕死だったというがどうやって?」
「ユジンは自分自身の体に光の結界を張り、なんとか生きていました。回復魔法で傷口の応急処置をし、尽きかけた魔力は私の血液を与えて供給しました」
「「「血液!??」」」
「ははっ、それはまた、思い切った補給の仕方だな」
他の大人たちがぎょっとした顔をしている中、母様だけは面白そうに笑う。「緊急事態だったものですから」と言えば、「ああ、いい判断だ」と父様が誉めてくれた。
しかし、母様に笑われ父様に誉められた喜びも、フェルライト公爵が急に立ち上がり、俺に向かって深々と頭をさげた衝撃で吹き飛んだ。
「クライス殿下。ユジンのためにそこまでしていただき、ありがとうございます」
「い、いえ、フェルライト公爵、頭など下げないでください。感謝されるほどのことはしていません。私の婚約者を守ってくれた彼には、私の方が感謝してもしきれないくらいです」
キルナと抱き合っていたことだけは、まだ許せませんが。というのは心のうちに留めた。
「お前も随分人間らしくなったな」
母様に揶揄われながら公爵が座り、空気が落ち着くと父様が話を続けた。
「もう一つ聞きたいのは、あの子の闇の魔力の件だ。呪いの影響を受けたと?」
「私が見た時、瀕死の状態のユジンの体には魔獣による噛み痕がいくつもありました。しかしその中に黒くなった傷はひとつもありませんでした。
ユジンに尋ねると、傷口はたしかに呪いを受けて黒くなり痛みも生じていたはずなのに、キルナに触れられた時に消えた、と。まるでキルナが呪いを吸収したように見えた、と言っていました」
「呪いの力を取り込み、あの子の闇の力がまた増してしまったというわけか。洞窟内でのあの子の魔力暴走もそれが引き金になっているのかもしれないな……」
父様の声がいつになく暗い。
どんな窮地に立たされても泰然と構えている彼がこんな風に沈んだ顔をしているのは珍しく、胸がざわつく。
嫌な予感がする……。
母様の血を引いているせいなのか、よくわからないが、こういう時の自分の予感はよく当たる。
そして今回もその予感は当たった。
王の言葉に、室内の空気が一気に凍りつく。
「黒い靄に黒い炎……か。まるで言い伝えられている『厄災』のようだな」
世界を滅ぼす黒い魔物。
それは黒い靄と黒い炎の中から生まれる。
アステリア王国では、大人から子どもまで知っている古い言い伝えだ。
「父様は……キルナを厄災の魔物だと、お考えなのですか?」
「そんなことを思ってはいない。だが、そう信じる者は少なからずいる。あの子を守るためには、そこから目を背けてはならない」
「はい」
「クライス、あの子を守り抜け」
「…………はい父様。必ず」
「おはようキルナ」
いつもの朝、キルナとの幸せな朝だ。「もぅクライスったら」と言いながらもキスに応えてくれる彼が今日も可愛い。
「クライス今日は王宮に行くんだったよね」
「ああ、きもだめしの時の話を聞きたいらしい。帰りは少し遅くなるかもしれない。先に寝ていろ」
「ん、わかった。気をつけて行ってきてね」
「ああ、お前もいい子で待っていろよ。でなければ……」
「い、いい子にしてるよ! だからもぅお仕置きはしなくてだいじょ…ん……んぅ…んん」
深い口づけをし、離れがたい気持ちを封じ込めて部屋を後にした。
王宮の応接間にいくと、父様母様の他に、フェルライト公爵、セントラ理事長、ライン先生、騎士団長のギラ=モーク、魔術師団長のメリダ=ブラークスが円卓を囲んでいる。
すごい面々だなと思いながら席に着くと、正面に座っている父様が口を開いた。
「この度宵闇の洞窟で起きたこと。セントラと教師のライン=ウェローから大体の話は聞いたが、クライス。その場にいたお前の口からも詳細を聞きたい」
「はい、わかりました」
俺は、順を追ってあの日のあったことを説明した。
きもだめしの休憩地点でペアのクーマから魔獣が紛れている聞き、彼と共にキルナの元に向かったこと。とんでもない数の魔獣、ヴォーウルフが洞窟内を徘徊していたこと。交戦中に魔獣が突然一方向に向かって走り出したこと。
それを追いかけると、魔獣たちはすでに黒焦げの死骸になっており、黒い靄と炎の中に瀕死のユジンを抱いたキルナを見つけたこと。
そこまで一気に話し終えると、セントラが補足する。
「黒い靄と炎は、キルナ様の闇の力が暴走して生じたものだと考えられます」
「その黒い炎が魔獣を倒したのか?」
眉を寄せる父にセントラは首を横に振った。
「わかりません。魔獣の死骸やその周辺に火魔法の魔力痕が見られました。黒い炎の前に大きな赤い炎が見えた、という生徒たちの証言もありますので、魔獣を倒したのがユジン様の炎かキルナ様の炎か、どちらかは不明です」
それについては俺もわからなかった。辿り着いた時にはもう魔獣は焼け死んだ後だったから。だがユジンが命懸けで放った炎が魔獣を倒したんだろうと思う。
「クライス」
「何でしょう、母様」
「ユジン君は、お前が助けたんだな? 瀕死だったというがどうやって?」
「ユジンは自分自身の体に光の結界を張り、なんとか生きていました。回復魔法で傷口の応急処置をし、尽きかけた魔力は私の血液を与えて供給しました」
「「「血液!??」」」
「ははっ、それはまた、思い切った補給の仕方だな」
他の大人たちがぎょっとした顔をしている中、母様だけは面白そうに笑う。「緊急事態だったものですから」と言えば、「ああ、いい判断だ」と父様が誉めてくれた。
しかし、母様に笑われ父様に誉められた喜びも、フェルライト公爵が急に立ち上がり、俺に向かって深々と頭をさげた衝撃で吹き飛んだ。
「クライス殿下。ユジンのためにそこまでしていただき、ありがとうございます」
「い、いえ、フェルライト公爵、頭など下げないでください。感謝されるほどのことはしていません。私の婚約者を守ってくれた彼には、私の方が感謝してもしきれないくらいです」
キルナと抱き合っていたことだけは、まだ許せませんが。というのは心のうちに留めた。
「お前も随分人間らしくなったな」
母様に揶揄われながら公爵が座り、空気が落ち着くと父様が話を続けた。
「もう一つ聞きたいのは、あの子の闇の魔力の件だ。呪いの影響を受けたと?」
「私が見た時、瀕死の状態のユジンの体には魔獣による噛み痕がいくつもありました。しかしその中に黒くなった傷はひとつもありませんでした。
ユジンに尋ねると、傷口はたしかに呪いを受けて黒くなり痛みも生じていたはずなのに、キルナに触れられた時に消えた、と。まるでキルナが呪いを吸収したように見えた、と言っていました」
「呪いの力を取り込み、あの子の闇の力がまた増してしまったというわけか。洞窟内でのあの子の魔力暴走もそれが引き金になっているのかもしれないな……」
父様の声がいつになく暗い。
どんな窮地に立たされても泰然と構えている彼がこんな風に沈んだ顔をしているのは珍しく、胸がざわつく。
嫌な予感がする……。
母様の血を引いているせいなのか、よくわからないが、こういう時の自分の予感はよく当たる。
そして今回もその予感は当たった。
王の言葉に、室内の空気が一気に凍りつく。
「黒い靄に黒い炎……か。まるで言い伝えられている『厄災』のようだな」
世界を滅ぼす黒い魔物。
それは黒い靄と黒い炎の中から生まれる。
アステリア王国では、大人から子どもまで知っている古い言い伝えだ。
「父様は……キルナを厄災の魔物だと、お考えなのですか?」
「そんなことを思ってはいない。だが、そう信じる者は少なからずいる。あの子を守るためには、そこから目を背けてはならない」
「はい」
「クライス、あの子を守り抜け」
「…………はい父様。必ず」
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