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第7章
第362話 医務室SIDE 噂
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「俺とユジンは傷の深い者や出血量の多い者から光魔法で治療していく。軽傷のものは医師たちの方でなんとかしてくれ」
「「「わかりました」」」
きもだめし後の医務室はひどい惨状だった。呪いを受けた傷は痛む上に治りが遅い。通常の薬を使ってもじくじくとし傷は治るどころか時間が経つにつれ悪化する一方だった。
「あああああ痛い痛い……腕から血が、止まらない」
「いてぇよぉ……ううぅ」
そんな時に二人の救世主が現れたのだ。
この国の第一王子クライス=アステリア様と、公爵家次男ユジン=フェルライト様。
彼らが魔法陣を描き、呪文を唱え回復術を使う姿は神々しく、まるで神のようだった。
どす黒く変色した皮膚に手を当てて癒していただいた時には涙が出た。自分でも気持ちが悪いと思い、見ないようにしていた呪われた傷に、躊躇うことなく触れてくださるなんて。
(ああ、この方たちがいてくれてよかった)
心の底からそう思った。
夜になり、人の出入りが少なくなると、動くこともできない彼らは唯一動く口を動かし始めた。
「さっきお二人が顔を見合わせていたぞ」
「ああ、微笑み合っているのを俺も見た」
「もしかしてクライス王子とユジン様は好き合っているのでは? すごくお似合いだし」
たわいも無い噂話だ。別に皆本気で言っているわけでは無い。痛みを紛らわせるためのおしゃべりだった。
「でもクライス殿下にはキルナ様がいらっしゃるし」
「超美人の婚約者がいるもんな。キルナ様とユジン様はご兄弟なんだろう? そろってあれだけの美形とかすごいな」
「でも能力でいえばキルナ様よりユジン様の方が王子の婚約者にふさわしいんじゃないか?」
「ああ、たしかに。一年生で希少な光魔法の上級魔法を使いこなすなんて、常人じゃ無いもんな」
「キルナ様は水属性だっけ?」
「普通だな」
「やった、俺と一緒だ!」「く~俺は氷だし近いよな?」と関係のない感想が聞こえる。
「成績も普通だというし授業も必死でついてってるかんじだもんな。でもそこが可愛いけど」
「わかる。いつも一生懸命で、授業中も困ってると助けてあげたくなるもんな」
「王子の目が怖くてそんなことできないけど」
それに同意のため息をついた男が話し始める。
「俺も、前に魔法応用学の授業でキルナ様の水球が爆発した時、差し出してくれたハンカチ受け取りたかったけど無理だった~。あの時俺に勇気があれば、一生の宝物にできたのになぁ。毎日匂い嗅いで抱きしめて寝たのにぃ~」
「ふはっなんだそれ。きもいぞお前」
笑うと腹の傷が痛むからやめろよ、と泣き笑いをしながら叫ぶ声が四方八方から聞こえる。すると、その笑い声に紛れてぽそりと一人の男が言った。
「実は俺前に、どうしても好きな気持ちを抑えられなくて、こっそりキルナ様にアンクレットとラブレターを贈ったんだ。放課後にあの方の机の中に忍ばせて……」
「ええ!? なんだお前、勇気あるな!!」
すげ~!! で、どうなったんだ? とその先に興味津々の目が集まる。
「王子に突き返されたよ。あれはマジだった。顔は笑ってたけど目が笑ってなかった」
それで済んでよかった。命があってよかったなと慰めの声が飛びかった。元気になったら一緒に遊びに行こう、相手を探しに行こう、と前向きな発言に皆が頷き合った。
「まぁなんてっても王子はキルナ様にメロメロだから他に靡くはずないか」
「だな。どう見ても溺愛してるし、卒業したらすぐ結婚するんだろうなぁ。そうなったらあの妖精のような美貌はそうそう見れなくなるな。今のうちに見溜めしとかないと」
「そうだな!」
「その通りだ」
次第にざわめきが収まり就寝のために明かりが消される。それで話は終わるように思えた。
しかし、暗闇の中。
誰かが呟いた。
「知ってる? キルナ様って実は闇属性らしいよ。髪の色は魔道具で隠しているけど、本当は真っ黒なんだって」
と。
「「「わかりました」」」
きもだめし後の医務室はひどい惨状だった。呪いを受けた傷は痛む上に治りが遅い。通常の薬を使ってもじくじくとし傷は治るどころか時間が経つにつれ悪化する一方だった。
「あああああ痛い痛い……腕から血が、止まらない」
「いてぇよぉ……ううぅ」
そんな時に二人の救世主が現れたのだ。
この国の第一王子クライス=アステリア様と、公爵家次男ユジン=フェルライト様。
彼らが魔法陣を描き、呪文を唱え回復術を使う姿は神々しく、まるで神のようだった。
どす黒く変色した皮膚に手を当てて癒していただいた時には涙が出た。自分でも気持ちが悪いと思い、見ないようにしていた呪われた傷に、躊躇うことなく触れてくださるなんて。
(ああ、この方たちがいてくれてよかった)
心の底からそう思った。
夜になり、人の出入りが少なくなると、動くこともできない彼らは唯一動く口を動かし始めた。
「さっきお二人が顔を見合わせていたぞ」
「ああ、微笑み合っているのを俺も見た」
「もしかしてクライス王子とユジン様は好き合っているのでは? すごくお似合いだし」
たわいも無い噂話だ。別に皆本気で言っているわけでは無い。痛みを紛らわせるためのおしゃべりだった。
「でもクライス殿下にはキルナ様がいらっしゃるし」
「超美人の婚約者がいるもんな。キルナ様とユジン様はご兄弟なんだろう? そろってあれだけの美形とかすごいな」
「でも能力でいえばキルナ様よりユジン様の方が王子の婚約者にふさわしいんじゃないか?」
「ああ、たしかに。一年生で希少な光魔法の上級魔法を使いこなすなんて、常人じゃ無いもんな」
「キルナ様は水属性だっけ?」
「普通だな」
「やった、俺と一緒だ!」「く~俺は氷だし近いよな?」と関係のない感想が聞こえる。
「成績も普通だというし授業も必死でついてってるかんじだもんな。でもそこが可愛いけど」
「わかる。いつも一生懸命で、授業中も困ってると助けてあげたくなるもんな」
「王子の目が怖くてそんなことできないけど」
それに同意のため息をついた男が話し始める。
「俺も、前に魔法応用学の授業でキルナ様の水球が爆発した時、差し出してくれたハンカチ受け取りたかったけど無理だった~。あの時俺に勇気があれば、一生の宝物にできたのになぁ。毎日匂い嗅いで抱きしめて寝たのにぃ~」
「ふはっなんだそれ。きもいぞお前」
笑うと腹の傷が痛むからやめろよ、と泣き笑いをしながら叫ぶ声が四方八方から聞こえる。すると、その笑い声に紛れてぽそりと一人の男が言った。
「実は俺前に、どうしても好きな気持ちを抑えられなくて、こっそりキルナ様にアンクレットとラブレターを贈ったんだ。放課後にあの方の机の中に忍ばせて……」
「ええ!? なんだお前、勇気あるな!!」
すげ~!! で、どうなったんだ? とその先に興味津々の目が集まる。
「王子に突き返されたよ。あれはマジだった。顔は笑ってたけど目が笑ってなかった」
それで済んでよかった。命があってよかったなと慰めの声が飛びかった。元気になったら一緒に遊びに行こう、相手を探しに行こう、と前向きな発言に皆が頷き合った。
「まぁなんてっても王子はキルナ様にメロメロだから他に靡くはずないか」
「だな。どう見ても溺愛してるし、卒業したらすぐ結婚するんだろうなぁ。そうなったらあの妖精のような美貌はそうそう見れなくなるな。今のうちに見溜めしとかないと」
「そうだな!」
「その通りだ」
次第にざわめきが収まり就寝のために明かりが消される。それで話は終わるように思えた。
しかし、暗闇の中。
誰かが呟いた。
「知ってる? キルナ様って実は闇属性らしいよ。髪の色は魔道具で隠しているけど、本当は真っ黒なんだって」
と。
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