いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

文字の大きさ
上 下
220 / 287
第7章

第356話 クライスSIDE 闇の魔力と呪いとマッサージ※

しおりを挟む
「マッサージを代わろう」

俺はマッサージ台から下りて彼をうつ伏せに寝かせた。

この婚約者はまだまだ俺のことがわかっていないらしい。この可愛らしい口から他の男の名がでるだけで俺の心はこんなに荒れ狂うというのに。ユジンと風呂などと……。

「キスマーク、まだ綺麗についているな」
「ん。これ以上増やしちゃダメだよ…恥ずかしいから」
「俺のものだという証拠だ。見えるものがないと心配なんだ」
「そうなの?」

俺の不安が伝わったのか、彼は目を閉じ、大人しくされるがままになっている。いつものように白い肌にオイルを塗り広げながら、俺はきもだめし後のことを思い出していた。



洞窟を出てキルナの治療を終えた後、セントラ理事長にキルナのことを話した。「キルナ様が呪いを吸収したように見えたのはよくない兆候かもしれません」と彼は厳しい顔つきで言った。

その理由は、闇の魔力は呪力と結びつきやすい性質を持っているから。


ただでさえ持て余している闇の魔力が呪いの力を吸収すれば、さらにその力を増していく。抱えきれなくなった力は暴走し、命を縮めることになるかもしれない。

キルナの寿命を縮める、というのは最悪の展開だ。
そうでなくとも彼の寿命はあと一年しかないのに。

ーーキルナを呪いに触れさせてはいけない。


この話はユジンも一緒に聞いていた。気を失ったキルナの容体ようだいが気になり、自分も話を聞きたいと訴えついてきていたのだ。震える拳を握り締める様子は痛々しい。彼は自分の呪いをキルナが吸収してしまったかもしれないと知り、自分を責めているようだった。

気持ちはわかるが今回は仕方がなかったのだと俺にもわかる。ユジンは命を張ってキルナを魔獣から守っていた。自分を責める必要などない。それでも責めてしまうのだろうな。

ピンクの瞳から後悔の涙が流れるのを、俺は見ないふりをした。自分だったら見られたくないから。前を向いたまま彼に言葉をかける。

『キルナを守ろう。絶対に』
『……はい』
『そのためにはまず動けない怪我人たちをなるべく早く治療して、地方の神殿に送ってしまうことだな。キルナの近くから呪いを遠ざけたい』
『そうですね。回復術は得意です。僕も、治療を手伝います』

彼はそう言って、気丈に顔を上げた。


『お二人の応援は助かります。今は手がいくらあっても足りませんから。あと、もう一つわかったことがあります』

理事長の言葉を一言も聞き逃さないように耳を傾ける。魔獣騒動の処理で彼は走り回っている。次はいつこうして向き合って話ができるかわからない。

「今回の魔獣の召喚には、古代魔術の一つであるが使われているようです。ライン先生が洞窟の奥でその魔法陣を発見し、私も確認しに行きました。見たことのない複雑な魔法陣に、おびただしい量の血液のあとにえを使った黒魔法とみて間違いないでしょう」

「黒魔法は、はるか昔に禁術とされて消えたはずでは? 書物も術者も徹底的に処分されたと聞いていますが」

俺がそう言うと、理事長は「その通りです」と頷く。

『もう消えたはずの黒魔法が、の手によって復活しているのです』


詳しいことは調査中だという。犯人の姿はまだ見えない。だが、今までのことや魔獣の動きから考えても、これは青フードの仕業とみて間違いないだろう。そしてその狙いは、

「そいつらの狙いは、キル兄様なのですね……」
「おそらく。キルナ様の体内に眠る、闇の魔力が狙われているのかもしれません」



「クラ…イス…ちょっと……お尻ばっかり触っちゃ……はぁ……ん」

ユジンがいい弟だということはわかっている。キルナのことを一番に考えて、守ろうと必死なことも。いい奴だということも。

だがしかし、それとこれとは別だ。

(キルナと風呂に入るのは許さない)

「やあぁ中にゆび…はぁん……そこらめ…こねこねしないれ……う……もぅ…でる……んん……は…ぁで、でちゃう……やあああああああ」

もちろんこんな卑猥なマッサージを受けるなんて、考えただけで嫉妬の炎に焼き尽くされそうだ。目の前の白い肌にはもうたくさんの印がついていたが、それでも気持ちはおさまらなかった。薬草の香りのする肌に口をつける。

「キルナ。愛してる。絶対に俺が守るから」
「ぼく…も。クライ…スをまもる…よ」
しおりを挟む
感想 687

あなたにおすすめの小説

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。