いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第7章

第354話 勉強会とパンケーキ②(ちょい※)

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コンコン、パカッ

まずは卵黄と卵白を分けてと。

シャカシャカシャカ

卵黄、牛乳、振るった小麦粉をボールにいれて泡立て器でよくかき混ぜてパンケーキの生地を作って。別のボールで冷やしておいた卵白に、砂糖を加えてメレンゲを作る。

メレンゲの三分の一をパンケーキの生地に加えてまぜまぜ。よくなじませてからその生地をメレンゲのボールに流し込んで、さっくり混ぜ合わせれば、生地の完成。

これを焼けば、ふっくら分厚いふわっふわパンケーキができるはず!

「ん、これでよしっ」

中火で熱したフライパンに油を敷いて生地をお山みたいにこんもりのせて、水を加え、蓋をして蒸し焼きに。弱火でじっくりじっくり焼いていく。


こうしてキッチンに立って手を動かしていると、ごちゃついていた思考が整理されていく。

ーーこの世界はゲームとは違うのかもしれない。

僕は魔王のお仕置きを受けて、それを思い知った。今朝もクライスの愛情表現(キスの嵐)がすごすぎて、ベッドの上から動けなかったくらいだし、彼の愛は本物に違いない。

もしこれがゲームなら、そんなことありえない。だって、キルナは主人公がどの攻略対象を選んでも、悪役として邪魔する役目で、嫌われまくって最後には断罪され、婚約は破棄されるはずだから。

ストーリーと違うところは他にもある。悪役仲間ニールとトリムは退学になっていたし、クライスの親衛隊も解散していて、ゲームとは大分状況が変わってきている。

でも

やっぱり同じところもある。入学式の日にユジンと温室で出会うことも、きもだめしの時ユジンとクライスがくじ引きでペアになったことも、ストーリー通りだ。(内容は、全然違うものになったけれど……)と考えると、これからもイベントはゲーム通り発生する確率が高い。


次はどんなものがあったかな?
知っている今後のイベントを整理してみよう。ん~たしか。

・ヒカリビソウの湖で、キルナがクライスにキスをねだって失敗。ルーナの花びらをハーブティーに混ぜ、ユジン毒殺未遂事件を起こす。

・ヒカリビソウの湖で、ユジンとクライスが誓いのキスをして、永遠の愛を誓う。

・卒業パーティーで、キルナが断罪され、婚約破棄される。

(やばい、これだけしかわからない……)

どれもゲーム終盤のイベントばかり。しかもこれは優斗お気に入りのクライスルートの流れであって、他のキャラを攻略するときはどうなるのかさっぱりだし。

僕はこれからどう動けばいいのだろう。クライスは僕と結婚したら幸せになれると言っていたけど、ユジンは? 僕はユジンに幸せになってもらいたい。何か手伝えることがあるといいのだけど。

ーー今世こそはいいお兄ちゃんになる。

そう決めている。前世と同じ後悔はしたくない。大切な弟のために自分にできることを考えなくちゃ。



じゅうじゅうとパンケーキが焼ける音がし、ほんのりと甘く香ばしい香りが漂ってきた。一つずつ慎重にひっくり返すと、よいしょ。ん、いい色に焼けている。

(そうだ。お菓子といえば……)

攻略対象者に手作りのお菓子をプレゼントすると、好感度が上がるのだった。優斗は僕の作ったクッキーを食べながら、

『何コレ、うますぎ!! 七海がゲームの主人公だったら好感度上がりまくって、あっという間に逆ハールートだよな』

とか言っていた。お菓子作りは覚えておいて損はないスキルだし、もしかしたら今後ユジンの役に立つのでは?

 
「ハァ、いい香り~」
「この香りにあらがえる人間はいないよね」

楽しみに待つ二人を見ると笑みがこぼれる。

「もうすぐできるよ。生クリームも作ってるから、たっぷりのせて食べたら美味しいよ」
「はわわわあ~そんな組み合わせを考えちゃうなんて、キルナサマ、スゴイ~!」
「メガネサマ天才~!」
「メガネサマってなに? もうリリーったら、変なの」

くすくす笑いながら、僕はパンケーキの上にたっぷりの生クリームを絞って、トッピングに可愛いハーブとポポの実とスライスした苺をのせた。最後に粉砂糖をまぶして、できあがり。

「どうかな? ちょっと自信作!」
「すっごくオシャレな盛り付け~! 添えられた果物がなんだか宝石みたいにピカピカしててキレイ~」
「生クリームたっぷりのふわふわパンケーキなんて、最高だよ!」
「ふふ。召し上がれ」

美味しそうに食べる二人を見ながら、クライスにも食べさせてあげたいな、と思う。僕はまたそっとため息をついた。

「はぁ……」
「っていうかさぁ、今日のメガネ壮絶に色っぽいよね」
「ふふふ、テアも思ってたぁ。白い肌に赤いキスマークが散っててお花みたいで綺麗だな~って」
「昨日何してたの?」
「ふぇ? それは……」

二人の視線がキスマークに突き刺さる。お仕置きで一日中クライスのアレを入れてました、とは絶対に言えない。僕は頭をいつもの数万倍働かせて二人の意識を逸らす方法を考えた。

「パ、パンケーキ。もっと食べる? 実は紅茶味のも作ったの。これもおすすめだよ」
「「うん、食べる~」」

紅茶味のパンケーキをお皿に載せると、二人は夢中になって食べはじめた。


質問から逃れられたことに一安心した僕は、生クリームたっぷりのパンケーキを口に運ぶ。まったりコクのある甘さと、ふわっふわ食感のハーモニーに、気分もふわふわ~と上がっていく。

「ん~、おいしっ!」

やっぱり甘いものは最強かもしれない。
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