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第7章
第348話 妖精のおひめさまと悪役令息
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「あ、メガネ、起きた?」
「キルナサマ~よかったぁ」
「リリー、テア、大丈夫だった!?」
目が覚めると、リリーとテアが僕の部屋にお見舞いに来てくれていた。医務室は呪いを受けた重症患者でいっぱいで、僕は意識を失ってはいたものの体の傷は少なかったから部屋に戻るよう指示されたという。
「平気だよ。僕は危険を感じてすぐに休憩ポイントに逃げ込んだから。怪我人の手当てをしながら先生が来るのを待ってたんだよ」
「テアも、水の結界を張っていたから大丈夫だったよ」
「そうなんだ、よかった」
二人はこう見えて実はすごく優秀。魔力の量も多いし操作も上手だし、判断力もある。僕が焦る心配はなかったみたい。
「キルナサマのとこには魔獣がいっぱいいたんでしょ~?怖かったねぇ。ゆっくり休んでね」
「ん、ありがと。魔獣は全部ユジンが倒してくれたから…大丈夫だったよ。僕は何もしてないの」
「へぇ、あの弟くんが守ってくれたんだ。甘い顔のイケメンで魔法の腕もあって兄を守るなんてなかなか見どころがあるね」
「そうなの。ユジンは僕の自慢の弟だから」
僕は守られてただけで、ダメな兄だった。ユジンが無事だったからよかったけど、死んでいたらと思うと……。
あの時の気持ちを思い出しそうになってお腹を押さえる。以前からちくちくするような痛みを感じる時があったけど、前よりひどくなってる気がする。二人に心配をかけないように、ぎゅうっとシーツを握って痛みをやり過ごした。
しばらくすると落ち着き、こんな時いつも側にいてくれる彼の姿を探した。
「あれ? クライスは?」
「王子は今医務室の応援に行ってる。怪我人が山ほどいるからその治療を手伝ってるんだよ。弟くんも光魔法が使えるんだってね。王子と一緒に回復魔法を使って怪我人を治してるみたいだよ。まだ一年生なのに、上級の回復魔法が使えるらしくてみんなが騒いでた」
「王子様が帰ってくるまでテアがキルナサマの看病するよ~水飲む? お口であげようか?」
「ふぇ? い、いいよ。自分で飲める。僕はかすり傷しかないし」
こけた時に膝とか肘とかは擦りむいた気がする。どうなってるのかな、と服をめくってみると、傷はひとつもなかった。何もなかったかのようにすべすべした肌がそこにあるだけ。
「メガネの怪我は王子が全部治したって言ってたよ」
「お姫様の怪我は一番に治したんだね。さすが王子様」
「愛されてるね」
「そう、クライスが…治してくれたんだ……」
(愛…されてる…? どうしよう、うれしい)
困ったな。また好きになってしまう。
こうして僕はまた一段と悪役らしく、クライスに執着心を募らせていく。
結局あの後キスはしたのかしら。それをまず確かめないといけない。あそこでキスするかどうかが、クライスルートに入るかどうかの分かれ道だから。
「メガネ…どうしてそんなに不安そうな顔をしてるの?」
「泣かないで~」
「あ…ごめん。なんか無事に帰ってこられて、急に安心して……」
自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、どうしていいかわからない。キスしたほうがいいに決まっているのに、キスしていたら嫌だな、と思っている自分がいる。二人の幸せを願うと決めているのに。
一体僕はどうしたいのだろう。
「まだ疲れているんだよ。眠るといいよ」
「眠るまでテアが絵本を読んであげる~」
テアは、お気に入りの絵本『妖精のおひめさま』を自分のカバンから取り出し、枕元で読んでくれた。
彼の透き通った美しい声を聞いていると、またうとうとと眠たくなる。ぼんやりと溶けていく意識の中に最後の一文が流れ込んできた。
『妖精の花を見つけて、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ』
「キルナサマ~よかったぁ」
「リリー、テア、大丈夫だった!?」
目が覚めると、リリーとテアが僕の部屋にお見舞いに来てくれていた。医務室は呪いを受けた重症患者でいっぱいで、僕は意識を失ってはいたものの体の傷は少なかったから部屋に戻るよう指示されたという。
「平気だよ。僕は危険を感じてすぐに休憩ポイントに逃げ込んだから。怪我人の手当てをしながら先生が来るのを待ってたんだよ」
「テアも、水の結界を張っていたから大丈夫だったよ」
「そうなんだ、よかった」
二人はこう見えて実はすごく優秀。魔力の量も多いし操作も上手だし、判断力もある。僕が焦る心配はなかったみたい。
「キルナサマのとこには魔獣がいっぱいいたんでしょ~?怖かったねぇ。ゆっくり休んでね」
「ん、ありがと。魔獣は全部ユジンが倒してくれたから…大丈夫だったよ。僕は何もしてないの」
「へぇ、あの弟くんが守ってくれたんだ。甘い顔のイケメンで魔法の腕もあって兄を守るなんてなかなか見どころがあるね」
「そうなの。ユジンは僕の自慢の弟だから」
僕は守られてただけで、ダメな兄だった。ユジンが無事だったからよかったけど、死んでいたらと思うと……。
あの時の気持ちを思い出しそうになってお腹を押さえる。以前からちくちくするような痛みを感じる時があったけど、前よりひどくなってる気がする。二人に心配をかけないように、ぎゅうっとシーツを握って痛みをやり過ごした。
しばらくすると落ち着き、こんな時いつも側にいてくれる彼の姿を探した。
「あれ? クライスは?」
「王子は今医務室の応援に行ってる。怪我人が山ほどいるからその治療を手伝ってるんだよ。弟くんも光魔法が使えるんだってね。王子と一緒に回復魔法を使って怪我人を治してるみたいだよ。まだ一年生なのに、上級の回復魔法が使えるらしくてみんなが騒いでた」
「王子様が帰ってくるまでテアがキルナサマの看病するよ~水飲む? お口であげようか?」
「ふぇ? い、いいよ。自分で飲める。僕はかすり傷しかないし」
こけた時に膝とか肘とかは擦りむいた気がする。どうなってるのかな、と服をめくってみると、傷はひとつもなかった。何もなかったかのようにすべすべした肌がそこにあるだけ。
「メガネの怪我は王子が全部治したって言ってたよ」
「お姫様の怪我は一番に治したんだね。さすが王子様」
「愛されてるね」
「そう、クライスが…治してくれたんだ……」
(愛…されてる…? どうしよう、うれしい)
困ったな。また好きになってしまう。
こうして僕はまた一段と悪役らしく、クライスに執着心を募らせていく。
結局あの後キスはしたのかしら。それをまず確かめないといけない。あそこでキスするかどうかが、クライスルートに入るかどうかの分かれ道だから。
「メガネ…どうしてそんなに不安そうな顔をしてるの?」
「泣かないで~」
「あ…ごめん。なんか無事に帰ってこられて、急に安心して……」
自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、どうしていいかわからない。キスしたほうがいいに決まっているのに、キスしていたら嫌だな、と思っている自分がいる。二人の幸せを願うと決めているのに。
一体僕はどうしたいのだろう。
「まだ疲れているんだよ。眠るといいよ」
「眠るまでテアが絵本を読んであげる~」
テアは、お気に入りの絵本『妖精のおひめさま』を自分のカバンから取り出し、枕元で読んでくれた。
彼の透き通った美しい声を聞いていると、またうとうとと眠たくなる。ぼんやりと溶けていく意識の中に最後の一文が流れ込んできた。
『妖精の花を見つけて、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ』
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