上 下
203 / 286
第7章

第339話 悪役令息のきもだめし⑦ 

しおりを挟む
どうしよう。ユジンが死んじゃう。ここから出ないと!!!

嫌だ! 死なないで! ユジン!!!


***

休憩ポイントで腰を治してもらった僕は、ユジンと手をつないで元気に歩いていた。暗闇にもちょっと慣れてきたし、歌でも歌えば怖くないはず。と、油断したのがいけなかったのかな。

ずざぁ……。またしても盛大にこけてしまった。

「いったぁ」
「キル兄様!!」

(何もないところでコケちゃった。恥ずかしっ)

ユジンが慌てて急に隣で転んだ僕を起こしてくれる。擦りむいた傷もあっという間に治してくれた。

「何か、いたんですか? 僕には何も見えず……」
「えっと……」

(どうしよ。何もいなかったよ、一人で転んだだけ。と、ほんとのことを言うのは恥ずかしいような…。いやでも……言わないと何かいたかと不安にさせちゃうよね……)


僕がどうでもいいことに悩んでいると、可愛らしい鳴き声が聞こえた。

「きゅう! きゅうう!!」

ん? ユジンのポケットからみたい。もこもこと動くポケットを見守っていると、ポポが耳をパタパタさせて飛び出し、僕の肩にとまった。

「ポポ、なんかプルプルしてる。何かに怯えてるのかな?」
「変ですね。魔法生物がこんなふうに怯えるなんて。きもだめしの化け物には反応しないはずですが。闇の中に、何かタチの悪い生物が紛れ込んでいるのかもしれません」
「え? 何かって、なに?」

(きもだめしのおばけだけでも怖いのに。他にも何かいるなんて!) 


ビクビクしながら暗闇に注意を向けると、荒い呼吸と足音が聞こえてきた。

「ユジン、あそこ、誰かが追いかけられてる!」

前方から走ってくる男の子とその後ろを走る獣の姿がある。よく見えないけれど、あのシルエットはオオカミ? 

(今にも追いつかれそう。助けないと)

右手に水のナイフを作りオオカミらしきものに向かっていこうとしたら、ぐいっと腕を引かれて止められてしまう。ユジンは僕の体を隠すように前に出て、呪文を唱えた。

「キル兄様の周りに、光の結界を張りました。この中にあれは入ってこれませんから、ここで待っててください」
「え?」

どういうことか尋ねる間も無く、ユジンが走り去って暗闇へと消えていく。

「待って! 僕も一緒に……あいたっ……?」

コツンと何かがおでこにぶつかった。見えない壁があってそこから先に進めない。

(何これ。もしかして僕、結界の中に置いてきぼりにされた?)



「ユジン~~~~!!!」

返事はない。代わりに、火の矢が飛び、何かをザシュッと射抜いたような音と「ギャイイン」と獣の声がし、それ以降静かになった。オオカミを仕留めたのかな? 様子をうかがおうにも暗くてほとんど見えないし、半径一メートルくらいの円から外には出られず、近づくこともできない。

(ああもぅ! どうやったら出られるの?)

なんとか出ようとして見えない壁をぺたぺた触りパントマイム状態になっていると、ユジンが一人の男の子を連れて戻ってきた。

ちょっと地味なかんじの容姿で、青みがかった白い髪の子。魔法が苦手でよく一緒に居残りさせられていた、補習仲間のアレンだ。

「ユジン! アレン!」

(よかったぁ、見たところ、二人とも怪我はないみたい)

「大丈夫? 怪我はない? あ、そだ…えと、水。はいっ」

携帯していた水を差し出すと、まだ呼吸の荒いアレンはぺこぺこ頭を下げ、それを飲んだ。

「はぁ…はぁ…キルナ様も……ご無事で……よかった。ユジン様、危ないところを救ってくださり、ありがとうございます」
「いえ、助けられてよかったです」
「アレンを追いかけてきてたあれって何なの?」

僕の質問に、たぶん…と前置きしてアレンが答える。

「はぁ…はぁ…あれは、魔獣かと。図鑑で…見たことが、あります……」
「ええ、ブォーウルフという黒い大型のオオカミに似た魔獣だと思います」

ユジンもその意見に頷く。


しばらくして息が整ってから、アレンはぽつぽつと、襲われた時の状況を話しはじめた。

「この先の休憩ポイントで一休みし、魔石スタンプを目指して歩いていると、急に横から魔物が襲いかかってきたのです。数も多く逃げるのに必死で、ペアの一年生ともはぐれてしまいました。無事だと良いのですが……」

「奥は危険なようですね。ならば、一度手前の休憩ポイントに戻りましょう。そこで先生の応援を待つのが賢明です」

ユジンの言葉に、僕は頷くのをためらった。その方が安全には違いないけれど、この先にいるみんなが心配だ。クライスは、リリーは、テアは、ベルトは、大丈夫かな? 

彼らを見なかったかと、アレンに聞いてみると驚くべき情報が飛び出した。

「そういえば、リリーさんとテアさんも魔獣と戦ってました。強力な魔法を駆使し、一年生をかばって勇敢に。僕もあんなふうに戦えたらよかったのに……。でも僕の下手くそな魔法では全然歯が立たなくて、こうして逃げることしかできなかったんです。情けない……」

え? リリーたちが戦ってる!? 

「それ、どの辺で見たか教えて!?」

一気に鳥肌が立つのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。