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第7章
第326話 サプライズ誕生日パーティー④(ちょい※)
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重なった唇が、甘くて……ふわふわして……とろけそう。
「ん……んふ……はぁ」
ベッドに座った彼に覆いかぶさって、ちゅっちゅとおはようのキスにしては濃厚なキスをする。クライスは少し驚いたような顔をしながら僕を見上げた。
「雪の妖精の方から積極的にキスしてくれるとは、一体なんのご褒美だ?」
「妖精ってなんのこと? キスは僕がしたくなったから……それだけだよ。あと、看病してくれて嬉しかったから」
「俺ももっとキスがしたい。こっちに来い」
こくんと頷くと、ベッドに引き入れられ、きゅうっと抱きしめられた。何度も何度もキスをされ、僕からもキスをした。
(気持ちがいい……。ずっとこうしていたい)
「それにしても。はぁ、こんな格好で迫られたら、我慢できない。していいのか?」
何を? と聞かなくてもわかった。ズボンの上からわかるくらい、彼のあそこが大きくなってたから。
「え? あ、それはちょっと……待って。オムライスできてるから先に食べて? 冷める前に」
「そうか。キルナの作ったオムライスは大好物だからな。先にそっちを食べてその後こっちを食べよう」
「ん? こっち? って……ふぇ!? 僕?」
「じゃあもう一回こっちの味見」
甘やかなキスにうっとりしていると、チリリンとベルがなった。僕は服装がアレだからシーツに包まったまま耳を澄ませる。
どうやらやって来たのは彼の学友たちらしい。口早に説明を始めるロイルの声が聞こえた。
「クライス様、お休みのところ申し訳ありません。火急の要件で参りました」
「どうした?」
「はい、それが……」
衝撃的な内容だった。
「学園内に魔獣が!?」
「はい、負傷した生徒が二名。両名とも足を深く抉られ重傷で、このままでは足の切断、ということもありえます。クライス様の力をお借りしたい、と医務室の方から連絡があり」
「わかった。魔獣はまだ退治できていないのか?」
「何頭かは始末できたようですが、まだ残っていると思われます。ちょうど今理事長が王都結界修復作業の手伝いに出向いており、未だ戻っていません。騎士団、魔術師団には連絡したのでもうすぐ応援が来るはずです」
クライスは急いで身支度を整え、僕に向かって言った。
「キルナ、悪いが先に夕飯を食べて寝ていてくれ。すぐ戻る。この部屋に結界を張っておくから絶対にここからは出るな」
「僕も……」
一緒に行きたい! と咄嗟に言いたくなったけれど、この状況でそれは我儘でしかないと思い口を噤んだ。でもクライスには僕の気持ちがわかったらしい。すまなさそうな顔で僕の額にキスをした。
「まだ病み上がりだから安静にしていろ。魔獣がいるかもわからない。ここにいた方が安全だ、すぐ帰るから」
「ん、わかった。気をつけて」
クライスとロイルたちは呪文を唱え消えた。
だけど、深夜になってもクライスは戻ってこなかった。僕はオムライスを二口ほど食べ、残りは冷蔵庫に入れた。お菓子とケーキも保存箱に入れる。(これはクライスお手製の魔道具で、ここに食べ物を入れると半永久的に腐らないらしい)
(せっかくリリーとテアに手伝ってもらったのに、パーティーできなかったな……)
こればっかりは超緊急事態だから仕方がない。
「残念だけど、仕様がないよね。クライスはすぐ帰ってくるって言ってた。パーティーなら明日やればいいし。さっさと、お風呂に入って寝よ!」
自分にそう言い聞かせて、スケスケワンピとTバックを勢いよく脱いだ。体の汚れと一緒に、もやもやした気持ちを洗い流そうと、強めのシャワーを浴びる。湯船に入ってしっかり肩まで浸かったのに、身体は芯から凍えているような気がした。
(クライス、大丈夫かな?)
外の様子が見えないかと窓に近づいたけれど、大雨で何も見えなかった。真っ暗な窓には自分の姿が映っているだけ。大きなメフメフのぬいぐるみと砂時計を抱きかかえて、ぼふんとベッドに潜り込んだ。
被害に遭った生徒は足を抉られて重症だと言っていた。恐ろしい魔獣がこの学園内を徘徊している。もしクライスの身に何かあったらと思うとお腹がちくちくする。
「ふっ……」
目の奥がツンとする。こんな時、何も出来ないことが悔しい。もっと力があれば彼の学友たちみたいに役に立てたのに……。近くに行きたい。そしたら盾くらいにはなれるかもしれないのに。
(こんな風にメソメソしてちゃダメだ。メフメフが濡れちゃう。泣き止まないと)
考えれば考えるほど、目頭が熱くなった。どう考えたって今自分にできることはない。ならせめて足手纏いにならないようにじっとしているしかない。
「クライスは強いから、きっと大丈夫」
ハンカチで濡れた目尻を拭いしっかりと目をつぶると、いつの日か僕がいた仄暗い病院の一室が瞼の裏に浮かんだ。ベッドに横たわる七海の体は今にも消えそうなほど細く頼りない。何も出来ない体が小さく丸まって震えている。
『せめて家族の迷惑にならないように……これ以上病気がひどくならないようにじっとしていよう』
あの時と同じ。もっともっと強くなりたいと伸ばした手はどこにも届かなくて。届かないまま僕はこの世界に転生し、そしてまた、同じことを繰り返している。
(守ってもらうばかりじゃなくて、何か自分にできることがあったなら……)
「もっと強かったなら……」
ーーソウダ、チカラヲモトメロ……。
激しい雨音に混じって、変な声が聞こえた気がした。
ーーアア、イマイマシイ。コノケッカイガナケレバ……。
「ん……んふ……はぁ」
ベッドに座った彼に覆いかぶさって、ちゅっちゅとおはようのキスにしては濃厚なキスをする。クライスは少し驚いたような顔をしながら僕を見上げた。
「雪の妖精の方から積極的にキスしてくれるとは、一体なんのご褒美だ?」
「妖精ってなんのこと? キスは僕がしたくなったから……それだけだよ。あと、看病してくれて嬉しかったから」
「俺ももっとキスがしたい。こっちに来い」
こくんと頷くと、ベッドに引き入れられ、きゅうっと抱きしめられた。何度も何度もキスをされ、僕からもキスをした。
(気持ちがいい……。ずっとこうしていたい)
「それにしても。はぁ、こんな格好で迫られたら、我慢できない。していいのか?」
何を? と聞かなくてもわかった。ズボンの上からわかるくらい、彼のあそこが大きくなってたから。
「え? あ、それはちょっと……待って。オムライスできてるから先に食べて? 冷める前に」
「そうか。キルナの作ったオムライスは大好物だからな。先にそっちを食べてその後こっちを食べよう」
「ん? こっち? って……ふぇ!? 僕?」
「じゃあもう一回こっちの味見」
甘やかなキスにうっとりしていると、チリリンとベルがなった。僕は服装がアレだからシーツに包まったまま耳を澄ませる。
どうやらやって来たのは彼の学友たちらしい。口早に説明を始めるロイルの声が聞こえた。
「クライス様、お休みのところ申し訳ありません。火急の要件で参りました」
「どうした?」
「はい、それが……」
衝撃的な内容だった。
「学園内に魔獣が!?」
「はい、負傷した生徒が二名。両名とも足を深く抉られ重傷で、このままでは足の切断、ということもありえます。クライス様の力をお借りしたい、と医務室の方から連絡があり」
「わかった。魔獣はまだ退治できていないのか?」
「何頭かは始末できたようですが、まだ残っていると思われます。ちょうど今理事長が王都結界修復作業の手伝いに出向いており、未だ戻っていません。騎士団、魔術師団には連絡したのでもうすぐ応援が来るはずです」
クライスは急いで身支度を整え、僕に向かって言った。
「キルナ、悪いが先に夕飯を食べて寝ていてくれ。すぐ戻る。この部屋に結界を張っておくから絶対にここからは出るな」
「僕も……」
一緒に行きたい! と咄嗟に言いたくなったけれど、この状況でそれは我儘でしかないと思い口を噤んだ。でもクライスには僕の気持ちがわかったらしい。すまなさそうな顔で僕の額にキスをした。
「まだ病み上がりだから安静にしていろ。魔獣がいるかもわからない。ここにいた方が安全だ、すぐ帰るから」
「ん、わかった。気をつけて」
クライスとロイルたちは呪文を唱え消えた。
だけど、深夜になってもクライスは戻ってこなかった。僕はオムライスを二口ほど食べ、残りは冷蔵庫に入れた。お菓子とケーキも保存箱に入れる。(これはクライスお手製の魔道具で、ここに食べ物を入れると半永久的に腐らないらしい)
(せっかくリリーとテアに手伝ってもらったのに、パーティーできなかったな……)
こればっかりは超緊急事態だから仕方がない。
「残念だけど、仕様がないよね。クライスはすぐ帰ってくるって言ってた。パーティーなら明日やればいいし。さっさと、お風呂に入って寝よ!」
自分にそう言い聞かせて、スケスケワンピとTバックを勢いよく脱いだ。体の汚れと一緒に、もやもやした気持ちを洗い流そうと、強めのシャワーを浴びる。湯船に入ってしっかり肩まで浸かったのに、身体は芯から凍えているような気がした。
(クライス、大丈夫かな?)
外の様子が見えないかと窓に近づいたけれど、大雨で何も見えなかった。真っ暗な窓には自分の姿が映っているだけ。大きなメフメフのぬいぐるみと砂時計を抱きかかえて、ぼふんとベッドに潜り込んだ。
被害に遭った生徒は足を抉られて重症だと言っていた。恐ろしい魔獣がこの学園内を徘徊している。もしクライスの身に何かあったらと思うとお腹がちくちくする。
「ふっ……」
目の奥がツンとする。こんな時、何も出来ないことが悔しい。もっと力があれば彼の学友たちみたいに役に立てたのに……。近くに行きたい。そしたら盾くらいにはなれるかもしれないのに。
(こんな風にメソメソしてちゃダメだ。メフメフが濡れちゃう。泣き止まないと)
考えれば考えるほど、目頭が熱くなった。どう考えたって今自分にできることはない。ならせめて足手纏いにならないようにじっとしているしかない。
「クライスは強いから、きっと大丈夫」
ハンカチで濡れた目尻を拭いしっかりと目をつぶると、いつの日か僕がいた仄暗い病院の一室が瞼の裏に浮かんだ。ベッドに横たわる七海の体は今にも消えそうなほど細く頼りない。何も出来ない体が小さく丸まって震えている。
『せめて家族の迷惑にならないように……これ以上病気がひどくならないようにじっとしていよう』
あの時と同じ。もっともっと強くなりたいと伸ばした手はどこにも届かなくて。届かないまま僕はこの世界に転生し、そしてまた、同じことを繰り返している。
(守ってもらうばかりじゃなくて、何か自分にできることがあったなら……)
「もっと強かったなら……」
ーーソウダ、チカラヲモトメロ……。
激しい雨音に混じって、変な声が聞こえた気がした。
ーーアア、イマイマシイ。コノケッカイガナケレバ……。
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