179 / 287
第7章
第315話 無慈悲な授業②(ちょい※)
しおりを挟む
(どうしよ、魔力の水が破裂しちゃう! もうダメだ)
波打ちながら巨大化し続けるそれが恐ろしくて目を瞑りかけたその時、後ろから誰かが僕の震える右手に手を添え、静かな声で囁いた。
「魔力の流れを感じて、その流れをゆっくり細くしていくのです。力が分散しないように水の球の表面から中心に向けて魔力を集めて、できるだけ丸い形にしていきます。そう、ゆっくり……上手です」
とにかく言われた通り魔力を調整する。もう決壊して今にも弾けそうになっていた水の球は波打つのをやめ滑らかな表面になっていく。魔力をうまいこと球の中心に集中させると、それはやがて、つるりとしたボールのようになった。
「それを、正面にある的に向かって、投げてみてください。力まず、ふわりと放つだけで大丈夫です。目はしっかり的の中央を見据えて……」
指示に従って球を投げる。すると、それはふよふよと飛び、ぽちゃんと的の右端に当たって弾けた。
「あ……で…できた……」
振り返って右後ろにいた声の主を見上げると。それは柔和な笑みを浮かべたリオンだった。
「ありがと! リオンのおかげだよ」
「いえ、うまくできたのはキルナ様のお力ですよ」
リオンは颯爽と踵を返し、上級者コースへと戻っていった。あんなにさらっと人を助けることができるなんて、格好良すぎる。
そういえば、彼も攻略対象者なんだよね。もうユジンに出会ったかしら。(彼とユジンの出会いは覚えてない。優斗は熱心にクライスルートばかり話していたし)
彼の後ろ姿を見送り、もう一度的に向き直った。今の感覚を忘れないためにもう一度練習しておこう。
僕は何度も何度も球を作っては、的に向けて投げた。慣れると早く作れるようになり、だんだん真っ直ぐ飛ばせるようになった。的にも何度か掠っているし、もう少しで中心に当たりそうな気がする。自在に魔法が扱える感覚が面白くてやみつきになる。しかし、異変は急に起きた。
(ん、あれ? コントロールが効かない……やばい。魔力を止められない!)
「うぁああああ!!!」
ボールがバッシャァー、と手元で勢いよく弾けて、自分も床も隣の人たちもびしょびしょになってしまった。ぺこぺこと謝りながら隣の子にハンカチを差し出す。
「これ使って?」
しかし隣にいた子(カイズって名前だったかな? あまり話したことない男の子)は一歩下がって僕から遠ざかる。
「いえ、大丈夫です!! 自分でなんとかしますので、キルナ様がお使いください」
「だけど、いっぱい水がかかっちゃったから……」
「大丈夫です。お気になさらず!」
なぜか頑なに断られてしまった。その後周囲にいた何人かに声をかけたけれど、誰もハンカチを受け取ってくれない。眼鏡をしていないから怖がられてるのかも。仕方がないのでハンカチで濡れた自分の顔や髪の毛を拭いていく。
頭がぼぉっとする。体が熱い。
(あ、これ久しぶりの感覚……。魔力酔い……かな?)
なんとか回復しようとじっと俯いていると、上級者向けの的当てをしていたクライスが戻ってきた。
「キルナ、医務室へ行こう。いきなり無理しすぎだ」
「しばらく休めば大丈夫だよ……」
と思ったのは気のせいだったみたい。言った側から体の力が抜けて、横で練習していたカイズの胸に倒れ込んでしまう。身長は普通だけどわりとガッチリした体格の彼は難なく受け止めてくれた。でもなぜか僕を腕に抱いたまま固まっている。
「あ、ごめ……」
「す、すみません! お、俺なんかがキルナ様に触れ、触れてしまい……」
「ああ、キルナを支えてくれて感謝する。いくぞ」
焦っている彼の腕から奪うように僕の体を抱き上げたクライスは、そのままメビス先生に状況報告に向かった。
その間にちょっとでも安定した体勢をとって彼の負担を減らそうと試みたのだけど、あれ? 手が変。彼の首にうまく手を回すことができない。医務室へ、と見せかけてクライスは今回も寮の自室へと飛んだ。
「ごめん…手が動かないの。なんだか痺れてるみたい……」
「見せてくれ」
僕の体をベッドに寝かせると、彼はすぐに腕を曲げたり伸ばしたりして観察をはじめた。お医者さんモードのクライスは知的で格好いいな、と思いながら僕はぼんやりそれを眺める。
「いつもより重症だな。魔力を使いすぎだ。体に負荷がかかりすぎて麻痺症状が出ている。チョーカーの中にいくらでも魔力は入っているとはいえ、それを一気に使うのは危険だ。体に魔力を流しすぎるとこうして魔力酔いを起こしてしまうし、体に負担がかかる。制御できるだけの量と体力の範囲内で少しずつ調整して使え」
たしかに、今日は今まで使ったことないくらい大量の魔力を使った。魔力20で生活するのが基本の体があんな魔力の連続使用をして平気なはずがなかった……。
「ん、わかった。リオンのおかげでちょっとうまくできて……調子に乗っちゃった。次から気を付ける」
「ああ、見ていた。うまくできていたな。リオンは魔術師団長の息子だけあって魔術の扱いがうまい。教え方も的確だからまた教えてもらえばいい」
「うん。そうする……」と僕は頷いた。ゲームでは裏表のあるキャラで怖いイメージがあったけれど、すごく優しかったしまた教えてもらいたい。
「じゃあキルナ、今からじっくり余分な魔力を出してやる」
「ん、おねがい……んぁ」
実は体の熱が辛くて、クライスがそう言ってくれるのを今か今かと待っていた。
キスで魔力を取り出すのかな、と口を開けて待っていたのだけど……キスは降りてこない。あれ?
(なんで、ズボンを下ろすの? ふぇ? パンツ……も? もしかして……)
波打ちながら巨大化し続けるそれが恐ろしくて目を瞑りかけたその時、後ろから誰かが僕の震える右手に手を添え、静かな声で囁いた。
「魔力の流れを感じて、その流れをゆっくり細くしていくのです。力が分散しないように水の球の表面から中心に向けて魔力を集めて、できるだけ丸い形にしていきます。そう、ゆっくり……上手です」
とにかく言われた通り魔力を調整する。もう決壊して今にも弾けそうになっていた水の球は波打つのをやめ滑らかな表面になっていく。魔力をうまいこと球の中心に集中させると、それはやがて、つるりとしたボールのようになった。
「それを、正面にある的に向かって、投げてみてください。力まず、ふわりと放つだけで大丈夫です。目はしっかり的の中央を見据えて……」
指示に従って球を投げる。すると、それはふよふよと飛び、ぽちゃんと的の右端に当たって弾けた。
「あ……で…できた……」
振り返って右後ろにいた声の主を見上げると。それは柔和な笑みを浮かべたリオンだった。
「ありがと! リオンのおかげだよ」
「いえ、うまくできたのはキルナ様のお力ですよ」
リオンは颯爽と踵を返し、上級者コースへと戻っていった。あんなにさらっと人を助けることができるなんて、格好良すぎる。
そういえば、彼も攻略対象者なんだよね。もうユジンに出会ったかしら。(彼とユジンの出会いは覚えてない。優斗は熱心にクライスルートばかり話していたし)
彼の後ろ姿を見送り、もう一度的に向き直った。今の感覚を忘れないためにもう一度練習しておこう。
僕は何度も何度も球を作っては、的に向けて投げた。慣れると早く作れるようになり、だんだん真っ直ぐ飛ばせるようになった。的にも何度か掠っているし、もう少しで中心に当たりそうな気がする。自在に魔法が扱える感覚が面白くてやみつきになる。しかし、異変は急に起きた。
(ん、あれ? コントロールが効かない……やばい。魔力を止められない!)
「うぁああああ!!!」
ボールがバッシャァー、と手元で勢いよく弾けて、自分も床も隣の人たちもびしょびしょになってしまった。ぺこぺこと謝りながら隣の子にハンカチを差し出す。
「これ使って?」
しかし隣にいた子(カイズって名前だったかな? あまり話したことない男の子)は一歩下がって僕から遠ざかる。
「いえ、大丈夫です!! 自分でなんとかしますので、キルナ様がお使いください」
「だけど、いっぱい水がかかっちゃったから……」
「大丈夫です。お気になさらず!」
なぜか頑なに断られてしまった。その後周囲にいた何人かに声をかけたけれど、誰もハンカチを受け取ってくれない。眼鏡をしていないから怖がられてるのかも。仕方がないのでハンカチで濡れた自分の顔や髪の毛を拭いていく。
頭がぼぉっとする。体が熱い。
(あ、これ久しぶりの感覚……。魔力酔い……かな?)
なんとか回復しようとじっと俯いていると、上級者向けの的当てをしていたクライスが戻ってきた。
「キルナ、医務室へ行こう。いきなり無理しすぎだ」
「しばらく休めば大丈夫だよ……」
と思ったのは気のせいだったみたい。言った側から体の力が抜けて、横で練習していたカイズの胸に倒れ込んでしまう。身長は普通だけどわりとガッチリした体格の彼は難なく受け止めてくれた。でもなぜか僕を腕に抱いたまま固まっている。
「あ、ごめ……」
「す、すみません! お、俺なんかがキルナ様に触れ、触れてしまい……」
「ああ、キルナを支えてくれて感謝する。いくぞ」
焦っている彼の腕から奪うように僕の体を抱き上げたクライスは、そのままメビス先生に状況報告に向かった。
その間にちょっとでも安定した体勢をとって彼の負担を減らそうと試みたのだけど、あれ? 手が変。彼の首にうまく手を回すことができない。医務室へ、と見せかけてクライスは今回も寮の自室へと飛んだ。
「ごめん…手が動かないの。なんだか痺れてるみたい……」
「見せてくれ」
僕の体をベッドに寝かせると、彼はすぐに腕を曲げたり伸ばしたりして観察をはじめた。お医者さんモードのクライスは知的で格好いいな、と思いながら僕はぼんやりそれを眺める。
「いつもより重症だな。魔力を使いすぎだ。体に負荷がかかりすぎて麻痺症状が出ている。チョーカーの中にいくらでも魔力は入っているとはいえ、それを一気に使うのは危険だ。体に魔力を流しすぎるとこうして魔力酔いを起こしてしまうし、体に負担がかかる。制御できるだけの量と体力の範囲内で少しずつ調整して使え」
たしかに、今日は今まで使ったことないくらい大量の魔力を使った。魔力20で生活するのが基本の体があんな魔力の連続使用をして平気なはずがなかった……。
「ん、わかった。リオンのおかげでちょっとうまくできて……調子に乗っちゃった。次から気を付ける」
「ああ、見ていた。うまくできていたな。リオンは魔術師団長の息子だけあって魔術の扱いがうまい。教え方も的確だからまた教えてもらえばいい」
「うん。そうする……」と僕は頷いた。ゲームでは裏表のあるキャラで怖いイメージがあったけれど、すごく優しかったしまた教えてもらいたい。
「じゃあキルナ、今からじっくり余分な魔力を出してやる」
「ん、おねがい……んぁ」
実は体の熱が辛くて、クライスがそう言ってくれるのを今か今かと待っていた。
キスで魔力を取り出すのかな、と口を開けて待っていたのだけど……キスは降りてこない。あれ?
(なんで、ズボンを下ろすの? ふぇ? パンツ……も? もしかして……)
134
お気に入りに追加
10,352
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。