175 / 286
第7章
第311話 隣の部屋のお泊まり会② クライスSIDE
しおりを挟む
「んぐっ!!!?????」
それは目がチカチカするほど衝撃的な辛さだった。水を何杯も飲み、汗だくになりながらなんとか完食する。正面には同じく水を大量に飲むことで痺れるような辛さから回復したギア、その隣でロイルはまだ苦しんでいる。
「はぁ、はぁ、店長に食べたら感想が欲しいと言われていましたが、これはさすがに辛すぎると伝えておきます」
「かっら~! 舌がヒリヒリひて、水…のんれも……まら舌が痛い。これはもう食べ物じゃない……」
「ロイル、ミルク飲むか? 少しはマシになるかも」
「ギアありがとう、助かる……」
爽やかさが売りのロイルが汗だくでひいひい言っているところなんて滅多に見れるものではないなと(心の中でニヤニヤしながら)見ていたら、じとっと睨まれてしまった。表情には出していないはずなのに何を考えているかバレるとは、以前より鋭くなっているようだ。
食器の後片付けを終え、大きな筋トレ魔道具が占拠しているゾーンを見ていたらあることに気がついた。
(ん? なんだこれ)
ランニング用の魔道具と、棒の両側におもりのついた上半身の筋力アップ用魔道具は見たことがあるが、もう一つ謎の魔道具がある。海中で使うメガネのような形をしている。何か見えるのだろうか。面白そうなので目に装着してみると筋トレ魔道具狂のギアが嬉しげに勧めてくる。
「それ、最新の筋肉トレーニング魔道具なんですよ! ぜひ使ってみて下さい」
「どうやって使うんだ?」
「ここの裏に魔法陣があるのでそこに魔力を流せば……」
「待て、ギア。説明してからじゃないとそれは……」
ロイルが止めに入った時にはもうギアが魔力を流した後で、ウーーッガタタッと魔道具が作動していた。視界が暗闇に包まれる。
異空間? と思えば明かりが灯った。誰かが俺に向けて剣を構え前に立っている。
「ん? 誰だ?」
漆黒の髪に金の瞳、これは……。
「キルナ!?」
「レベル…ヲ…チョウセイ。セットカンリョウ…クンレンヲカイシ……シマス」
目の前のキルナ? の口から抑揚のない無機質な声が飛び出す。よく見ると、それはキルナに似た何かで、彼ではないことがわかる。
わかるが……。
戸惑っているうちに激しい剣戟が次々と飛んできた。傍にあった剣で応戦しながらどうするべきか考える。
(くっ、これは、キルナではないとわかっているが、彼の容姿をしているせいで攻撃できない)
一撃一撃はかなり重く速い。 キィンキィンと大きな金属音が鳴り響く。それでも勝てないことはない、と思う。この姿でさえなければ……。
その後も何度も攻撃できるチャンスはあったが、当たる直前で剣を止めてしまう。わかってはいてもこの相手から血が流れるところを想像すると振り下ろすことができない。
このまま防戦一方ではいずれ体力が尽きる。どうすれば……。
かなり長い時間避け続けていると、相手がよろめいて膝をついた。そのうなじに小さく光を帯びた魔法陣を見つける。
(これだ!!)
そこに手を当て魔力を流すと、バチンと音がして目の前がまた暗くなった。
そしてまた明るくなった視界にロイル、ギアがいるのを確認する。魔道具のスイッチがオフになり異空間から出られたようだ。慌てた様子のギアが差し出した水を受け取りそれを一気に飲み干す。
「大丈夫でしたか!?」
「はぁ…はぁ…はぁ……なんだこの魔道具は?」
体力を消耗しすぎて思わず床に座り込んだ。時計を見ると、魔道具のスイッチを入れてからもう1時間以上経っている。腹一杯の後の運動にはきつすぎる。
「すみません、説明するのを忘れてました! 頭に思い浮かべた相手と訓練ができる最新の魔道具で、俺はいつも父ギラの顔を想像して使っているのですが」
「えらく時間がかかってましたね。まあ強さは自分の強さとほぼ同格になるように設定されているのですが、クライス様がこんなに手こずるなんて……一体だれと戦ってきたんですか?」
「……最強の相手だった」
この魔道具だけは二度と使いたくない。俺は海中メガネ型魔道具を元あったところにそっと戻しながら思った。見ていると二人もやりたくなったらしく、他の魔道具も使って全員気がすむまで筋トレをした。
それは目がチカチカするほど衝撃的な辛さだった。水を何杯も飲み、汗だくになりながらなんとか完食する。正面には同じく水を大量に飲むことで痺れるような辛さから回復したギア、その隣でロイルはまだ苦しんでいる。
「はぁ、はぁ、店長に食べたら感想が欲しいと言われていましたが、これはさすがに辛すぎると伝えておきます」
「かっら~! 舌がヒリヒリひて、水…のんれも……まら舌が痛い。これはもう食べ物じゃない……」
「ロイル、ミルク飲むか? 少しはマシになるかも」
「ギアありがとう、助かる……」
爽やかさが売りのロイルが汗だくでひいひい言っているところなんて滅多に見れるものではないなと(心の中でニヤニヤしながら)見ていたら、じとっと睨まれてしまった。表情には出していないはずなのに何を考えているかバレるとは、以前より鋭くなっているようだ。
食器の後片付けを終え、大きな筋トレ魔道具が占拠しているゾーンを見ていたらあることに気がついた。
(ん? なんだこれ)
ランニング用の魔道具と、棒の両側におもりのついた上半身の筋力アップ用魔道具は見たことがあるが、もう一つ謎の魔道具がある。海中で使うメガネのような形をしている。何か見えるのだろうか。面白そうなので目に装着してみると筋トレ魔道具狂のギアが嬉しげに勧めてくる。
「それ、最新の筋肉トレーニング魔道具なんですよ! ぜひ使ってみて下さい」
「どうやって使うんだ?」
「ここの裏に魔法陣があるのでそこに魔力を流せば……」
「待て、ギア。説明してからじゃないとそれは……」
ロイルが止めに入った時にはもうギアが魔力を流した後で、ウーーッガタタッと魔道具が作動していた。視界が暗闇に包まれる。
異空間? と思えば明かりが灯った。誰かが俺に向けて剣を構え前に立っている。
「ん? 誰だ?」
漆黒の髪に金の瞳、これは……。
「キルナ!?」
「レベル…ヲ…チョウセイ。セットカンリョウ…クンレンヲカイシ……シマス」
目の前のキルナ? の口から抑揚のない無機質な声が飛び出す。よく見ると、それはキルナに似た何かで、彼ではないことがわかる。
わかるが……。
戸惑っているうちに激しい剣戟が次々と飛んできた。傍にあった剣で応戦しながらどうするべきか考える。
(くっ、これは、キルナではないとわかっているが、彼の容姿をしているせいで攻撃できない)
一撃一撃はかなり重く速い。 キィンキィンと大きな金属音が鳴り響く。それでも勝てないことはない、と思う。この姿でさえなければ……。
その後も何度も攻撃できるチャンスはあったが、当たる直前で剣を止めてしまう。わかってはいてもこの相手から血が流れるところを想像すると振り下ろすことができない。
このまま防戦一方ではいずれ体力が尽きる。どうすれば……。
かなり長い時間避け続けていると、相手がよろめいて膝をついた。そのうなじに小さく光を帯びた魔法陣を見つける。
(これだ!!)
そこに手を当て魔力を流すと、バチンと音がして目の前がまた暗くなった。
そしてまた明るくなった視界にロイル、ギアがいるのを確認する。魔道具のスイッチがオフになり異空間から出られたようだ。慌てた様子のギアが差し出した水を受け取りそれを一気に飲み干す。
「大丈夫でしたか!?」
「はぁ…はぁ…はぁ……なんだこの魔道具は?」
体力を消耗しすぎて思わず床に座り込んだ。時計を見ると、魔道具のスイッチを入れてからもう1時間以上経っている。腹一杯の後の運動にはきつすぎる。
「すみません、説明するのを忘れてました! 頭に思い浮かべた相手と訓練ができる最新の魔道具で、俺はいつも父ギラの顔を想像して使っているのですが」
「えらく時間がかかってましたね。まあ強さは自分の強さとほぼ同格になるように設定されているのですが、クライス様がこんなに手こずるなんて……一体だれと戦ってきたんですか?」
「……最強の相手だった」
この魔道具だけは二度と使いたくない。俺は海中メガネ型魔道具を元あったところにそっと戻しながら思った。見ていると二人もやりたくなったらしく、他の魔道具も使って全員気がすむまで筋トレをした。
131
お気に入りに追加
10,228
あなたにおすすめの小説
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。