いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第7章

第311話 隣の部屋のお泊まり会② クライスSIDE

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「んぐっ!!!?????」

それは目がチカチカするほど衝撃的な辛さだった。水を何杯も飲み、汗だくになりながらなんとか完食する。正面には同じく水を大量に飲むことで痺れるような辛さから回復したギア、その隣でロイルはまだ苦しんでいる。

「はぁ、はぁ、店長に食べたら感想が欲しいと言われていましたが、これはさすがに辛すぎると伝えておきます」
「かっら~! 舌がヒリヒリひて、水…のんれも……まら舌が痛い。これはもう食べ物じゃない……」
「ロイル、ミルク飲むか? 少しはマシになるかも」
「ギアありがとう、助かる……」

爽やかさが売りのロイルが汗だくでひいひい言っているところなんて滅多に見れるものではないなと(心の中でニヤニヤしながら)見ていたら、じとっと睨まれてしまった。表情には出していないはずなのに何を考えているかバレるとは、以前より鋭くなっているようだ。


食器の後片付けを終え、大きな筋トレ魔道具が占拠しているゾーンを見ていたらあることに気がついた。

(ん? なんだこれ)

ランニング用の魔道具と、棒の両側におもりのついた上半身の筋力アップ用魔道具は見たことがあるが、もう一つ謎の魔道具がある。海中で使うメガネのような形をしている。何か見えるのだろうか。面白そうなので目に装着してみると筋トレ魔道具狂のギアが嬉しげに勧めてくる。

「それ、最新の筋肉トレーニング魔道具なんですよ! ぜひ使ってみて下さい」
「どうやって使うんだ?」
「ここの裏に魔法陣があるのでそこに魔力を流せば……」
「待て、ギア。説明してからじゃないとそれは……」

ロイルが止めに入った時にはもうギアが魔力を流した後で、ウーーッガタタッと魔道具が作動していた。視界が暗闇に包まれる。

異空間? と思えば明かりが灯った。誰かが俺に向けて剣を構え前に立っている。

「ん? 誰だ?」

漆黒の髪に金の瞳、これは……。

「キルナ!?」
「レベル…ヲ…チョウセイ。セットカンリョウ…クンレンヲカイシ……シマス」

目の前のキルナ? の口から抑揚のない無機質な声が飛び出す。よく見ると、それはキルナに似た何かで、彼ではないことがわかる。
わかるが……。

戸惑っているうちに激しい剣戟が次々と飛んできた。傍にあった剣で応戦しながらどうするべきか考える。

(くっ、これは、キルナではないとわかっているが、彼の容姿をしているせいで攻撃できない)

一撃一撃はかなり重く速い。 キィンキィンと大きな金属音が鳴り響く。それでも勝てないことはない、と思う。この姿でさえなければ……。

その後も何度も攻撃できるチャンスはあったが、当たる直前で剣を止めてしまう。わかってはいてもこの相手から血が流れるところを想像すると振り下ろすことができない。
このまま防戦一方ではいずれ体力が尽きる。どうすれば……。

かなり長い時間避け続けていると、相手がよろめいて膝をついた。そのうなじに小さく光を帯びた魔法陣を見つける。

(これだ!!)

そこに手を当て魔力を流すと、バチンと音がして目の前がまた暗くなった。



そしてまた明るくなった視界にロイル、ギアがいるのを確認する。魔道具のスイッチがオフになり異空間から出られたようだ。慌てた様子のギアが差し出した水を受け取りそれを一気に飲み干す。

「大丈夫でしたか!?」
「はぁ…はぁ…はぁ……なんだこの魔道具は?」

体力を消耗しすぎて思わず床に座り込んだ。時計を見ると、魔道具のスイッチを入れてからもう1時間以上経っている。腹一杯の後の運動にはきつすぎる。

「すみません、説明するのを忘れてました! 頭に思い浮かべた相手と訓練ができる最新の魔道具で、俺はいつも父ギラの顔を想像して使っているのですが」

「えらく時間がかかってましたね。まあ強さは自分の強さとほぼ同格になるように設定されているのですが、クライス様がこんなに手こずるなんて……一体だれと戦ってきたんですか?」

「……最強の相手だった」

この魔道具だけは二度と使いたくない。俺は海中メガネ型魔道具を元あったところにそっと戻しながら思った。見ていると二人もやりたくなったらしく、他の魔道具も使って全員気がすむまで筋トレをした。
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