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第7章

第309話 動物クッキーとおやつタイム③

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「けいやく……」
「妖精との契約について、俺にまだ言っていないことがあるだろう?」

言ってないこと、と言われぎくりと体が強張こわばった。

妖精との契約。
実はその話を僕はあえて避けていた。お父様とセントラに「寿命の話は大切なことだから自分の口から殿下に話しなさい」と言われていたのに。

妖精と契約を結ばなければ闇魔法は使えない、その事実をお父様から聞いたクライスはたまに契約のことを聞いてくることがあったけど、それも適当にはぐらかしていた。

心配をかけたくない、という気持ちもあるし、何より前世の家族が医師から僕の余命宣告を聞いた時の顔が頭にこびりついている。

「妖精と契約を結べなければ、僕は死ぬんだって。余命あと6年なのだって」

そんなことを言って一体何になるというのだろう。ムダに悲しませるだけだ。
妖精は自分にしか見えないのだし契約の方法は一人で探せばいい。

ーークライスには僕の寿命のことは黙っていよう。

そう決めて、話をしなかった。


はじめてセントラに契約の話を聞いた時のことを思い出す。

『闇属性の魔法を使うには、が必要です』

『ようせいとのけいやく??』

『旦那様はそれを避けていましたが、そろそろあなたの身体は限界のようだ。魔力を発散できなければ、いずれは暴発してしまう』

『大丈夫なの? 僕』

『このまま放っておくと、まぁ、死にます。余命は5、いや6年というところでしょうか』

セントラに寿命の話を聞いた時、びっくりはしたけど6年あるならまぁいいか、と思ったのを覚えている。
クライスとユジンが結ばれハッピーエンドを迎えたら悪役令息の役割は終わる。悪いことをしまくった僕は超嫌われ者になって断罪されるのだし、その後どうなったってかまわない気がした。

だから契約の方法を真剣に探す気にはならなかった。クライスに伝えないまま、自分でも積極的に手立てを探さないまま月日は過ぎた。

(このまま卒業まで隠し通せると思っていたのに)


「キルナ、お前の口から聞きたい」

僕が何か隠していると彼は確信しているみたいだ。こうなったら、きちんと伝えるべきだろうか。この感じだとはぐらかすのは無理っぽいし、うまいこと言い逃れるには(さっきの行為のせいで)頭がぼんやりし過ぎている。

(どうしよう。どうしよう。どうしよう)

頭の中がぐるぐるする。泣き崩れる母、蒼白になる父、呆然とする優斗。

(僕なんかのためにそんな顔をしないで!!)

七海が叫んでいる。もしクライスにあんな顔をさせてしまったら……。やっぱり言わない方が……。

ぐるぐるぐる



「聞かせてほしい」

揺るぎない声に彼の強い意志を感じる。
心配をかけたくないから、迷惑をかけたくないから、何も言わずに一人で解決しよう。そう決意し固く固く閉ざしていた扉がギシギシと音を立てる。

『頼ってほしい』
『迷惑なんかじゃない』

いつだって彼はそう言ってくれる。聞きたいと言ってくれる。

(頼っても……いいのかな? 迷惑……じゃない?)


「ぼくは……」

膝に置いた手を握り締め、なけなしの勇気を振り絞って隠し続けてきた秘密を告げた。

「妖精と契約を結べなければ、あと一年で死ぬの……」


言ってしまった。
彼の表情はわからない。怖くて俯いてしまったから。

厳重に締め切っていた扉がきしみながらゆっくりと開いていく気配を感じる。僕は訳がわからないくらい大きな声で泣いた。どうして泣いているのか、自分でもわからなかった。
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