上 下
168 / 286
第7章

第304話 黒縁眼鏡卒業

しおりを挟む
ゲームが無事はじまったのかどうかもよくわからないまま入学式を迎えた。新入生、在校生の挨拶はどちらも完璧で、会場に大きな拍手と称賛の声が響き渡る。クライスが人気者だということは知っていたけど、ユジンの人気も相当なものだった。

「ユジン様~!! 貴方についていきます~!」
「かっこいい~こっち向いて下さい~」
「好きです! 結婚して下さい!!!」

自分の弟がアイドル扱いされているのはなんだか変な気分だけど、悪い気はしない。むしろ兄として誇らしい。僕はそれを遠いところから眺めている予定だったのだけど、

「キル兄様!! 僕の挨拶どうでした?」
「キルナ!! ちゃんと聞いていたか?」

どうして二人は一目散に僕のところへ来ちゃったのだろう。なんだあの眼鏡、今日の主役を独り占めして、という視線をひしひしと感じる。

「えと…二人とも堂々としていて格好良かったよ」
「そうか」
「嬉しいです!」 

満面の笑みを浮かべる二人は、なんだかハッピーエンドを迎えた彼らの姿を連想させ、僕は首を捻った。(まだゲームは始まったところなのに、二人ともすでに最高に幸せそう……)


ユジンと別れ、僕はクライスと一緒に教室へと向かう。あっという間に4年が過ぎてしまったせいで準備が整わないままゲームがはじまってしまい、正直まだ悪役としてどう動いたらいいのかわからない。

見た目から始めるために、僕はとりあえず眼鏡を外してみることにした。やはり、というべきか、すれ違う生徒はみんな僕の顔を凝視している。立ち止まって振り返る生徒もいれば、わざわざ見にくる生徒もいる。真っ赤になって逃げ出す子や鼻血を出して倒れる子までいた。

(さすが悪役フェイス……顔面凶器すぎる……)

覚悟は決めたものの心が痛い。クライスや友達のおかげで瞳を見られるのはもう大丈夫だと思ったのに、こんな反応をされると辛い。思わず隠すように俯くと、クライスが少し屈んで僕の瞳を覗き込んだ。

「キルナ、眼鏡はどうした?」
「もうかけないことにしたの。僕の瞳、綺麗だってクライス言ってくれたでしょう? だからもう隠さなくてもいいかなって思って」
「ああ。綺麗だ。今すぐキスして食べたいくらいに」
「な、何言ってるの!?」
「だが、気をつけろ。俺から離れるなよ」
「ん、わかった」

そんなことを言い合っているうちに6年生の教室に着いた。


この学園、クラス替えはないらしい。教室にいるメンバーは1年の時と同じで席も同じだった。でもなんかちょっと少ないような。誰がいないのかな? 思い出そうとしていると明るい声が聞こえた。

「キルナ様! クライス王子! お久しぶりです。お元気でしたか!?」

相変わらず好奇心旺盛なキャラメル色の瞳をキラキラさせ走り寄ってきたのはベルト。(背がぐんと伸びている)

「どこの国で何の勉強をしてこられたのですか? ぜひ聞かせて下さい!!」 
「えっと……」

興味津々の彼にどう答えたらよいか悩んでいるとクライスが横から返事をする。

「ああ、すまない。留学の話はしない約束になっている」

その説明にベルトは大きく頷いた。

「そうでしたか。すみません軽率でした。なるほど、超機密事項に関わる勉強をしてこられたのですね。羨ましいです。私も留学して他国の商売を現地で学んでみたい」

「ふふ、やっぱりベルトは根っからの商売人なんだね」

見た目が変わっても変わらないなぁとベルトに癒されていると、すらりとした美人がやってきてヒラヒラと僕に手を振った。

「キルナサマ~」
「ん? テア!!」

テアは麗しさに拍車がかかってスーパーモデルみたいになっている。腰まである青い髪を靡かせ耳元のサファイアのピアスが歩くたびにシャラリと揺れる。桃のような良い香りまでする。おしゃれすぎてもはや自分とは別の人種だ。

「…なんか……見ないうちに…美人になっちゃって……」

彼の圧倒的美貌にドギマギしすぎて親戚のおばさんみたいなコメントをしてしまう僕。

「会いたかったぁ~」

ふわりと華奢な腕に抱きつかれ、いい香りと柔らかな感触を堪能する。やばいこれ。テアは男の子のはずなのに……なんだかいけない気分に……。ぷるんと艶やかな唇を耳元に寄せ、甘い声でひそひそと内緒話をしてくるテアに心臓がドキドキする。

「眼鏡もないし、髪も綺麗。ねぇ~キルナサマ、もう妖精のお姫様だって隠すのはやめたの~?」
「えと、それは……」

色々説明したいけどここじゃ無理だから、と話そうとしたところでテアとは反対側の耳元にこれまた魅惑のうるうるリップが寄せられる。

「ちょっとバカメガネ。なんで眼鏡してないわけ? 留学してる間に僕の忠告忘れちゃった?」

甘く可愛らしい声だけど高圧的な女王様の喋り方。両耳の鼓膜が甘い声の振動で振るわされゾクゾクする。しかもなんか怪しい手つきで僕の体を触ってくる二人。ちょっとそれやばいよ、離れてぇ……。

僕の僕がちょっと危ないところで二人が離れてホッとする。

「んはぁ、びっくりした、リリー!! 久しぶりだね」

オレンジの巻き毛は器用に編み込まれキュートさを際立たせている。たった今までぷりぷり怒ってる様子だったのに、ガバリと僕の胸に抱きつき顔を埋めた。

「…………」

彼の肩が小刻みに揺れている。

「泣かないで、リリー。ごめんね」

何も言わずに4年も離れてしまった。リリーはこう見えてとても寂しがり屋なのに。

「もう黙ってどこかにいったりしないから」
「本当? 今日はずっと一緒にいてくれる? 夜も?」
「夜? それってお泊まりするってこと?」

リリーとお泊まり!? なにそれやりたい!

「テアも!! キルナサマとリリーとお泊まり会するぅ!!」

リリーとテアとお泊まり会、それはすっごく楽しそう!!

「クライス、いいかな?」

振り返って尋ねると、彼はすぐに了承してくれた。

「それなら俺は今晩ロイルたちの部屋に泊まることにする。彼らに色々伝えたいこともあるからちょうどいい。明日は休みだ。久しぶりに友達とゆっくり過ごせ」

「わかった。じゃあ、二人とも今日は学校の後、僕の部屋に来て」


お泊まり会の開催が決定した。
しおりを挟む
感想 684

あなたにおすすめの小説

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。