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第7章

第302話 今日は入学式(ちょい※)

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鏡の前で立ちすくんでいると、クライスがやってきてそっと後ろから僕の肩を抱いた。立つとよりはっきりと成長していることがわかる。そして悲しいことに身長差が開いてる!! 前も頭ひとつ分の差があったけど今はそれ以上。結構見上げないとクライスの顔が見えない!

(ん、な、なんてこと!)

悲しみに打ちひしがれていると、彼が頭をよしよしと撫でてくれた。

「驚いただろう。俺も体の変化に気づいて驚愕した。昨夜妖精の家から戻ってきたら、自分だけではなく周りまで変わっていたのだから」

周りも変わって……? あ、ここ、よく見たら妖精の家じゃない。王立魔法学園の寮の部屋だ。ええと、頭がついていかない。いつ帰ったんだっけ? あ、それよりも。

「カーナは?」
「お前をよろしく頼むと言っていたそうだ」

いっぱいお世話になったのに、お別れの挨拶ができなかった。また今度行った時に挨拶しなきゃ。


「えと、さっき言ってた戻ってきたら自分も周りも変わっていたって、どういうこと?」
「話せば長くなるのだが」

そう前置きしてクライスは話をはじめた。でも一瞬で僕はその話を中断させてしまう。

「俺たちが湖で愛し合っている最中に、辺りが暗闇に包まれ空に月が現れ……」
「……あい……?」

愛!? そうだ、僕たち湖のほとりで。

「ぼ、ぼく……クライスに……あ、愛してるって……言って……クライスの…舐めて、自分で乗っかって入れようとしたりして、うまくできなくて…泣いて、でもそこに妖精が道具を運んできてくれて……あ、あ、愛し合ったのだったぁあああああ!!」

「ああ。よく覚えているな、えらいえらい」

よしよしよし。

とんでもない記憶を前にして、へなへなと床に座り込み一時停止している間に、僕はクライスに抱きかかえられソファへと運ばれる。空中遊泳していた意識が戻ってきた時には、机の上に紅茶と朝食が用意されていた。


やっと紅茶に手をつけると、斜め前のソファでコーヒーを飲んでいた彼が口を開いた。

「話を続けてもいいか?」
「ん、いい…よ」

顔から火が出ている。頭の中は大火事。正直愛し合うくだりが頭の中で暴走している今、黙っているより話してもらったほうがまだマシだろうと判断して僕は頷いた。

「空に月が現れ、帰り道が示された。月が出ているうちに帰らなければ帰り道がわからなくなるというので、ルーファスとともに急いで帰ったんだ。お前は月が現れると同時に気を失ったから俺が運んだ。
 何日も暗闇の中を歩いて、人間の世界に着いたのが昨日の夜。たどり着いた先はこの学園にある、妖精の森だった。森を出て、眠り続けているお前を診てもらうため理事長室に行き、そこで、俺たちが想像以上に長い間あちらに行っていたということがわかった」

「長いってどれくらい?」

妖精の家にいたのは、体感では一ヶ月くらいだったと思う。湖は日帰りで行く予定だったから、長すぎると驚かれても仕方がない。お父様にも謝っておかないと。

でもその長さは僕の予想をはるかに超えていた。

「ルーファスの説明によると、どうやら妖精の世界と人間世界では時間にひずみがあったらしい。この世界はあれから4年と少しが過ぎている」

「んえぇ? 嘘……」

何それ。帰ってきたら歳とってたということ? それって、なんか前世のお伽噺で聞いたことがあるような。

「じゃあ僕たち4年以上もいなかったってことになるの? ってことはもう、(1年の二学期の長期休暇から4年ちょっと過ぎたと数えると)6年生?」
「ああそういうことになる。学園に行ってない期間は、二人で他国に留学していたということになっている」

学園や周囲への説明は、王様やお父様やセントラの力でうまいこと調整してくれているらしい。

正直全然信じられない話だけれど、実際身体も大きくなっている。クライスがそんな変な嘘つくとも思えないし……。僕は深呼吸して、現実的な質問をすることにした。

「今日は学校?」
「ああ、入学式だ。俺も在校生代表として祝辞を述べなければならない。6年生は全員参加だからキルナも制服に着替えろ」
「にゅ……」

入学式!!! しかも僕たちが6年生ということは、ユジンは1年生。

やばい、やばいよ! ユジンがきちゃう。ゲームが始まっちゃう!


「クライス、早く行こ!」
「ん? まださすがに早いぞ。朝食を食べてからでも充分間に合う」
「だめ。早く行かなきゃ、温室へ!」
「温室?」

ユジンが温室で迷子になる。それをクライスが見つけて入学式会場まで案内する。そしてオープニングの曲が流れて、本格的にゲームが始まるのだ。

「何か見たい花でもあるのか? まぁいい。制服も新しいものを用意してもらったから、これに着替えろ」
「ん、ありがと」

あれ? 急いで着ようとすると、ボタンがうまく嵌まらない。新品だからボタン穴がきつくて入らない。(くっ、こんなことに手間取っている時間はないのに!)

もたもたもた……

「貸せ」
「あああ、じ、自分でするってばぁ!」

究極に慌ただしい朝がはじまった。
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