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第6章
第300話 クライスSIDE 月の導き
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ついさっきまで太陽が照り付けていたにもかかわらず、あたりが急に暗闇に包まれる。キルナは急に現れた月を見て目を見開き、
「ぼく、あくやくれいそくだ」
そう呟くとともに、気を失った。
あくやくれいそくとは何か。それはよくわからないが、とにかくこのままここにいるのは危険だと判断し、俺は素早く自分とキルナの身なりを整え、意識のない彼を背負って立ち上がった。
月以外に何も見えない。一歩足を動かせば柔らかな草ではなく、ここへ来た時と同様に無機質な道があることがわかる。
「クライス王子、帰りましょう。月が出ているうちに」
いつの間にかすぐ近くにルーファスがいた。彼が何か唱えると来た時と同じように青白く光るヒカリビソウの道ができ、俺たちの足元を照らす。それは遥か先まで続いていた。
「これはセレネ様のお力です。この道は人間の世界につながっています。帰りましょう」
「だが、キルナの契約についてまだ……」
キルナは妖精について知る者に会えたのか。契約の方法を知ることができたのか。それがわからない。契約ができなければキルナはいずれ死ぬ。それだけは避けなければ。
するとルーファスは微笑みながら言った。
「ご安心ください。カーナ様から契約の方法はお聞きしました。キルナ様にももう伝えてあるそうです」
「そうか、カーナ様は?」
漆黒の髪に金の瞳、そしてカーナという名なのだから、彼女はフェルライト公爵の双子の姉で間違いないだろう。一緒に連れ帰ることができたら公爵は喜ぶだろうが……。見回してもここに彼女の気配はない。
「『私はここの生活が気に入っているからこのままここに残るわ。キルナちゃんをよろしくね』と仰っておりました」
「そうか……」
「さあ急ぎましょう。月が消えるまでに帰らねば。帰り道がわからなくなります」
「わかった」
早足で歩く。来た時と同じくらい長い距離を歩いた。何日も何日も歩いたような気がする……。滴る汗がシャツをしとどに濡らし、酷使しすぎた足は棒のようになっている。違うのは月が出ていることと、背中の上にキルナがいることだけ。
ーーキルナが、ここにいる。
そう思うといくらでも歩くことができた。
「ああ、光が見えてきました」
ルーファスが指差す方向を見ると、扉の隙間から小さな光が差し込んでいた。
その先は……。
「ぼく、あくやくれいそくだ」
そう呟くとともに、気を失った。
あくやくれいそくとは何か。それはよくわからないが、とにかくこのままここにいるのは危険だと判断し、俺は素早く自分とキルナの身なりを整え、意識のない彼を背負って立ち上がった。
月以外に何も見えない。一歩足を動かせば柔らかな草ではなく、ここへ来た時と同様に無機質な道があることがわかる。
「クライス王子、帰りましょう。月が出ているうちに」
いつの間にかすぐ近くにルーファスがいた。彼が何か唱えると来た時と同じように青白く光るヒカリビソウの道ができ、俺たちの足元を照らす。それは遥か先まで続いていた。
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「だが、キルナの契約についてまだ……」
キルナは妖精について知る者に会えたのか。契約の方法を知ることができたのか。それがわからない。契約ができなければキルナはいずれ死ぬ。それだけは避けなければ。
するとルーファスは微笑みながら言った。
「ご安心ください。カーナ様から契約の方法はお聞きしました。キルナ様にももう伝えてあるそうです」
「そうか、カーナ様は?」
漆黒の髪に金の瞳、そしてカーナという名なのだから、彼女はフェルライト公爵の双子の姉で間違いないだろう。一緒に連れ帰ることができたら公爵は喜ぶだろうが……。見回してもここに彼女の気配はない。
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「そうか……」
「さあ急ぎましょう。月が消えるまでに帰らねば。帰り道がわからなくなります」
「わかった」
早足で歩く。来た時と同じくらい長い距離を歩いた。何日も何日も歩いたような気がする……。滴る汗がシャツをしとどに濡らし、酷使しすぎた足は棒のようになっている。違うのは月が出ていることと、背中の上にキルナがいることだけ。
ーーキルナが、ここにいる。
そう思うといくらでも歩くことができた。
「ああ、光が見えてきました」
ルーファスが指差す方向を見ると、扉の隙間から小さな光が差し込んでいた。
その先は……。
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