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第6章

第298話 番外編 クライスSIDE② キルナの巣篭もり※

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キルナが巣に引きこもって出てこない。もう時間も遅い。夕飯も食べないといけないし風呂にも入れないといけないのに。いつから巣に潜っているのかもわからない。水分を摂らせないと……。

気ばかり焦る。フェロモンに当てられて頭の回転が鈍くなっている気がする。

『うまそうな尻が目の前にあるんだ。このまま挿れてしまえばいい。簡単なことだ。彼もそれを望んでいるんだろう?』
『駄目だ。このまま尻だけ見つめながら抱くのか? ベッドで大切に抱くって決めてただろう?』

二つの声が頭の中でせめぎ合う。

どうする。このまま放っておいても彼は出てこないだろう。何かないか、彼が外に出たくなるような何かが……。そこまで考え、実家から持って帰ってきた大量の荷物のことを思い出した。

俺は一度玄関に行き、荷物をキルナの部屋へと運ぶとその中から彼の興味を引きそうな物を探す。


「ほら、出てこいキルナ。花の香りのする紅茶だぞ」
「……いいかおり……でも……ん~……」

尻が一瞬ぴくりと揺れた。迷ってはいるようだが出てこない。

「豪華な花束をもらったんだ。ほら、ピンクや黄色の明るい色合いでお前にぴったりだ」
「きれぃな…おはな……」

じりっと足が動く。どんな花なのか興味があるらしい。

「ああ、お前が好きなロイヤルクッキーもある。フルーティーな香りが気に入ってただろ?」

サクサクサク

食べてその音をきかせてみる。どうだ? と思って見てみると、彼は向きを変えて巣の中からじーっとこちらを見ていた。布にまみれてもこもこしているキルナは、どこか小動物のようで可愛い。

「食べるか?」

と尋ねると、こくんと頷いた。一枚取って口元に持っていくとあ~んと素直に口を開く。もぐもぐ口を動かす彼の頭を撫でてやったら目を細め、いつものようにほにゃりと幸せそうに笑った。

「うまいか?」
「ん……おいしっ」

この機を逃すまいと紅茶を口元に運ぶと、少しずつだが飲む様子に安心する。やはり脱水症状が一番怖い。時間をかけて食べさせながら少しずつ巣から遠いところへと彼を誘導し、ついに……。

巣の外までおびき出すことに成功した!!


「よかった」
「ふぇ? なにが?」

こてん、と小首をかしげる彼を向かい合わせにして膝上に乗せる。すると彼はすぐに力を抜いて俺に寄りかかり、その身をゆだねた。小さく柔らかな体を抱きしめると、抱きしめ返してきて首の辺りをスンスンと嗅いでくる。

(はぁ、駄目だ。全てが可愛い。可愛いすぎる!)

「んはぁ……クライスのにおい、すき」
「全く……おまえには振り回されてばかりだ」

だが、そんなところも好きなんだから仕方がない。もう一度彼の作った巣を見るとぐちゃぐちゃにではなく下には重い物を、上には軽い物を丁寧に積んでいて、彼の性格が出ているなと思った。
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