いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第6章

第283話 僕の婚約者

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早朝、まだベッドの中でおねむな時間、カーナの叫び声で目が覚めた。どうしたんだろ。

「ちょっと玄関に来て! キ、キルナちゃんの作った人形が動いてるわ!」

彼女が怖いことを言うのでギョッとして玄関を見ると、イケメンな銀髪の男の人と金髪の美少年が立っていた。金髪の子の方はたしかに僕の抱き人形にそっくり、だけど。

「ふふっカーナったら、人形じゃなくて人だよ。だってほら、僕のはここにあるもの」

自分より大きな人形を引きずるように抱きかかえ、眠い目を擦りながら玄関へと向かう。

「え? そうなの? あ、本当だ。まさかこんなところに人が来るなんて思わないから間違えちゃった。キルナちゃんだけでもびっくりしたのに、またお客さんだなんて、うれしいわ。どうぞ上がってね。すぐにお茶の準備をするから」

いそいそとティーセットを運ぼうとしはじめた彼女を大急ぎで止める。

「待って! お茶の用意は僕がするから任せて。ね! カーナはお客さんの対応をお願い」

「そう? わかったわ」

よかった、わかってくれて。危うく大惨事になるところだった。僕はハンカチで額の冷や汗を拭った。


それにしてもこの二人、服がボロボロ、大丈夫かな? 怪我とかしてないかな? とこっそり観察していると、金髪の子の青い瞳と目が合い、次の瞬間にはガバリと抱きつかれていた。

「……キルナ!!! よかった! 本当に無事だったんだな」

「んぇ!?」

(温かい。この子、誰だろう。僕のことを知っているみたい)

急に抱きつかれて驚いたけど、なぜか嫌じゃない。むしろ好き、落ち着く、大好き、と言う気持ちがこんこんと湧き出る泉みたいに溢れてくる。ぎゅうっと抱きしめた後、ゆっくりと離れた彼の体を僕は名残惜しく思った。

「キルナ何を持っているんだ?」
「これ? んと僕の抱き人形だよ」
「ふふっ、クライス王子にそっくりな人形ですね」

銀髪の人が微笑む。すごく優しい笑顔だ。

「僕が自分で作ったの」

うまくできた自信があったから、二人によく見えるように体の前にかかげてみせる。「ええ、お上手です」と褒められふふふっと笑った。

「私のことはルゥとお呼びくださいキルナ様」

と言われて「ん、わかった」と頷く。

「あなたは、クライスというの?」

金髪の男の子に尋ねてみた。さっき銀髪の人、ルゥがそう呼んでいた気がしたから。彼はちょっとだけ傷ついたような顔をして、でもすぐに笑顔になって答えた。

「ああ、クライス=アステリア、お前の婚約者だ。キルナを、迎えにきた」

真剣な眼差しで見つめられ、ドキドキする。僕の婚約者? こんなに格好いい人が?

(心臓が破裂しそう。顔が熱い。どうしよぅ。)

僕は何も答えられないまま、ぼうっと彼のことを見つめ返していた。
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