いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第6章

第274話 クライスSIDE 消えた婚約者

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(どこにいるんだ!? キルナ!!!)

心臓が早鐘を打っている。
突然走り出した彼を追いかけ何時間も探しているが、まだ見つかっていない。

ここはアステリア王国にある湖の中では比較的小さな湖だ。水はよく澄んでいて、明るい時には底まで見渡すことができる。光の魔法で照らし、フェルライト家と王家の護衛を総動員して隈なく探した。

「キルナ!!! どこだ!!!」
「殿下、一度休憩してください」
「いや、まだ大丈夫だ」

それだけ言ってまた潜った。騎士たちは捜索を自分達に任せて休むように促してくるが、全て無視した。何度も潜って端から端まで注意深く探す。湖の岩陰に引っかかっているかもしれない、木々の影に隠れているのかもしれない、と思いついたところをもう一度…もう一度…と確認する。

それでもキルナはいなかった。これだけ探していない、ということは湖ではなく森の方へ行ったのだろうか? 森の方も騎士たちが捜索を続けているが進展はない。

(せめて居場所の手がかりがあれば……)

彼自身の魔力はもちろん、おまじないの魔力印を追っても、チョーカーの魔力を探っても、行き先がわからない。
何度やっても湖の底で魔力の糸が途切れてしまう。
魔法騎士たちの探索魔法でも結果は同じだった。


ジャブ……ジャブ……糸が切れたあたりを歩き回る。

湖の中央にいくほど水深は深くなり、立つこともできなくなる。この辺だともう胸の辺り。キルナの背丈なら首あたりまで水に浸かる。

彼は、泳げない。
もし彼がこんなところまで来たとしたら?
どうなるかなんてわかりきっている。
考えないようにしていた一つの可能性に辿り着く。


ーーキルナの死


一度考え始めると、体は震え硬直し、もう一歩も動けなかった。
自分の右手を見つめた。スルリとすり抜けていく白い手の感触がまだ残っている。


『妖精が呼んでる』

キルナはそう言った。

『あの子は妖精が連れて行ってしまったんだ。もう忘れなさい』

フェルライト公爵が幼い頃大人たちに言われたという言葉に、いきどおりを感じる。

忘れられるはずがない。

俺にお弁当を作ってきてくれた彼の優しさを、キスマークをつけると照れ臭そうに怒る彼を、「ね、クライス! それちょうだい」とポポの実をねだる彼の声を、忘れることなんてできないのに。




キルナのいない世界で俺は一体どうしたらいいんだろう。

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