いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第6章

第263話 手作りのお弁当(異世界風)

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夢を、見ていた?

休憩しようと思って目を閉じてそのまま僕はお昼寝してしまったみたい。目を開くと一面の青空、ではなく真っ暗で。何がどうなっているのかとキョロキョロ動くと目の上にのっていた手がズレて、明るい太陽光が目を刺激した。

「ん、まぶしっ」
「起きたのか?」

うん、と頷いてゆっくりと体を起こした。クライスはずっと起きていて、膝枕したまま僕が眩しくないように目を覆ってくれていたらしい。体には柔らかいタオルケットを掛けてくれている。

体の疲れが取れると今度はお腹が空いてきた。そういえばもうお昼だ。

「ね、そろそろお弁当食べよう!」


今日は朝早く起きて、ベンスに習いながらお弁当作りをした。久しぶりに会ったベンスは相変わらず騎士かな? というたくましさで、分厚い胸筋が羨ましい。鍛えたら僕もこんな風になれるかしら。

『坊ちゃん、視線が痛いのですが、どうされましたか?』

(はっ。いけない。つい胸元ばっかり見ちゃった……)

気持ちの悪い僕の視線に怯える彼に、実はお弁当を作りたいのだというと、野菜が入ってる感がないのにモリモリ新鮮野菜を盛り込んだ栄養満点おかずのレシピを伝授してくれた。

『この肉団子の中にそんなにたくさんの種類の野菜が入ってるの!?』

今まで食べてきたご飯にもこうしてこっそりお野菜をいれていたなんて、ほんと驚きだ。

『坊ちゃんの健康は俺が守ります! お任せください!!』
『ふふ、ベンスありがと』

なんだかセリフまで騎士みたいで面白い。頼もしい言葉に、彼が僕を守ってくれると言うならとても安心だなと思った。


ピクニック用の大きなお弁当箱にはいろんなおかずが詰め込まれている。ベンスと作ったから味も間違いなくおいしいはずなのだけど、何と言っても特にこだわったのは、その見た目!(せっかくだから気合いを入れてキャラ弁にしてみた。異世界の動物や魔法生物をご飯やパン、おかずで再現したら、可愛いかな~と思って)

どうやらこの世界にキャラ弁文化はないようで、ベンスもだったけど、クライスもなんだこれ!? といった様子で目を丸くしている。

「これは……ムベル? こっちはレットルか?」
「そうなの!! で、こっちがののんで、これがメフメフ」
「すごいな。食べるのが勿体無いな。もしかしてキルナが作ったのか?」

僕は鼻息荒く誇らしげに頷いた。正直かなりベンスに手伝ってもらったのだけど、切って焼いて煮て頑張って詰めたから自分で作ったと言っていいはずだ。

「こんなのをミーネ姉様に見せたら絵師を呼んで描かせるレベルだ」

絵師に描かせる…?(前世でいう写真撮るような感覚かな?)

「さすがに絵師は大袈裟だと思うけど、可愛いでしょ! あ、でもちゃんと食べてね。残した方がもったいないから」

完成したお弁当をみたユジンがどうしても食べたいと駄々をこねるから、彼の分も作った。クライスが今日は二人きりじゃないと嫌だというから連れてはこれなかったけど、きっと今頃食べているのだろうな。

ちなみにユジンのはお花と妖精にした。ハムで妖精のリボンを作るのが大変だったけど、渡した時のユジンのうれしそうな顔といったら。(また作ってあげよう!)

「どうかな?」
「ああ、最高にうまい。ん? これは一体なんの形だ?」
「よかったぁ。あ、これおすすめなんだよ。タコさんウインナー」
「タコ?」
「えっと、赤くて足が八本あってふにゃふにゃの生き物だよ。知らない? はい、あ~ん」
「それは…魔獣か? ああ、ありがとう」

クライスは大きなお口で、(黒胡麻の目がついたきゅうりの鉢巻付き)タコさんを頭からパクリと食べた。彼はよく食べるから見ていて気持ちがいい。これだけ美味しそうに食べてもらえると、早起きして作った甲斐があるなぁ、と嬉しくなる。

もぐもぐもぐ

ぽかぽか暖かな陽気の中、湖を眺めながらお弁当を食べる、というただただのんびりした時間。これってなんて素敵なんだろう。

ピクニックやキャンプに憧れて、でもすぐ熱を出すくせにそんなことがしたいなんてとても言い出せなかった七海じぶんが、今キルナぼくと一緒に大喜びしてる。幸せすぎて、目の前の光景が美しすぎて涙が出てくるのを必死でなんとかしようと上を向いた。お弁当を食べながら泣くなんて変な子だよね。

どうにか涙が乾いたころ、そういえば、とカバンの中から袋を取り出した。

「ルゥが茶葉を持たせてくれたのだけど、こんなところでお茶なんて無理だよね」
「いや、熱湯くらいすぐ出せるぞ」

いつの間にか敷物の上に用意されていたティーポットに茶葉を入れると、クライスが魔法で熱湯を注いでくれた。火と水の合わせ技でこんなことも可能らしい。おかげで美味しい紅茶を淹れることができた。

「この紅茶、甘い香りがするな」
「これはね南国の花の香りのするお茶なの。色鮮やかなお花をふんだんに使ってるのだって」

(ん? 花の入ったハーブティー…?)

僕は甘く芳醇な香りのする自分のカップを見つめながら首を傾げた。何か引っかかる。

黒い花びらとハーブティーが……出てきて、……夢の中で、僕は何をしようとしていたのだっけ? とても大事なことだった気がするけれど、思い出したくないような……。

まぁ、いいか。夢だし。後で思い出すかもしれないし。そんなことより、今は。

「ヒカリビソウを集めていい?」
「ああ、でも集めてどうするんだ?」
「あのね、それを使ってジャムを作ってみたいの。キラキラ光る星屑のジャム。ベンスが作り方を知ってたらいいのだけど」

キラキラ光るジャムの良さは見た目だけじゃなく、味も華やかで上品な甘味があり、スコーンにもクッキーにもよく合う。

「ジャムか。いいな! それならたくさん集めて持って帰ろう。ジャムができたら俺も食べたい」
「ん、わかった! ふふ、ジャムに合うお菓子も作らなきゃね」

(どんなお菓子がいいかな~?)


僕は何かを忘れている。この時はまだその重大さに気付いていなかった。
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