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第6章

第261話 泳げない悪役令息②

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待ちに待った長期休暇が始まり、僕とクライスはフェルライト公爵家の転移魔法陣を使って、たくさんの護衛たちと一緒に約束していた湖へとやってきた。

「これが……(異世界の)湖!! 」

僕はこの世界で初めて海を見た時と同じくらい胸が高鳴るのを感じた。

深い森の中にある小さな湖。

七色の湖面が、静かに波打ちながら朝日を反射し、ゆらゆらキラキラと輝いている。湖の周囲にはびっしりとヒカリビソウが生え、ぽぉっと青白い仄かな光を放っていた。

「すごいよ! こんなにたくさん」
「ああ、可愛らしい花も咲いているな」

ヒカリビソウの花は暖かい季節に咲くのだけれど、一ヶ月ほどで枯れてしまう。この花が満開の時期に来れるなんてめちゃくちゃラッキーだ。

可憐で小さな水色の花は、今は光っているのかどうかわかりにくいけど、夜になると青い星のように輝くのだって。温室で育ててはいたものの、早寝推奨のルゥのせいで遅い時間に見たことはないから、暗闇の中でどんな風に光るのかとても気になる。

魚はいるのかな? と水中を覗いてみると、透明度の高い水で底の石まで見ることができた。「あ、いた!」……と思ったら手足がある。キラキラ煌めく羽も。これは、妖精!?

「クライス、水の中に妖精がたくさんいるよ!」
「そうなのか?」

見えずに首を傾げる彼に「ほら、あの辺」、と教えてあげると興味深そうにそこを見ていた。


しゃがんでちゃぷんと手をけてみると、湖の水は思ったよりも温かい。

「天気もいいし、泳ごう。泳ぎ方を教えてやる」
「あ…僕はここで見てるから、泳いできていいよ」

大自然の中の湖は見ている分には神秘的で綺麗だけれど、入るとなるとちょっと怖い。足を入れた途端にこういう水辺に出てきそうな(前世の漫画やゲームに出てきたような)でっかいクラゲみたいな魔物に引き摺り込まれるかもしれない。

クライスなら逃げられるだろうけど。泳げない上に魔法もほとんど使えない僕は、無惨に食べられるか溺死するかして終わりだ。悪役とはいえ、さすがにそんな死に方は嫌すぎる。頭からムシャムシャ食べられる自分を想像してブルッと震えた。

そんな僕の頭を彼はよしよしと撫でる。そうしてもらっているうちに恐怖心が和らいだ。

「キルナは怖がりだな。大丈夫、この辺りはそんなに深くない。もし溺れても助けてやるから」

彼の爽やかな笑顔が眩しい。こんな素敵な場所に連れてきてもらった手前、あんまりかたくなに断るのも申し訳なくて、勇気を出して少しだけ入ってみることに。


だけど、そこで新たな問題が発生する。

「んぇ!? なにこの水着……」

普通の黒いショート丈の水着だと思ったらなんとビキニ型で、両サイドを紐で結ぶ形になっている。布の面積がめちゃくちゃ小さい。え? この世界の水着はもしかしてこの形が定番なの!? と驚いてクライスの方を見たら、彼は普通のトランクス型を履いていた。 

(もうもうもうルゥったら!) 

昨日寝る前に用意をしていたら、「水着入れときますね」ってさらっと入れていたけど、まさかこんなセクシーな水着を入れてたなんて(こんなの僕には着こなせない……) 
しかも刺繍入りレースのスケスケラッシュガード(色はベビーピンク)のフードにはなぜか長い耳が垂れ下がってるし。(耳なんていらないでしょ。どっかに引っ掛かったらどうするの!?)

「キルナ、着替え終わったかっ…………!?」

クライスは水着を着た僕の姿をチラッと見ると、俯いたきり黙ってしまった。似合ってないと思われたのだろうな、と恥ずかしくなり顔に熱が集まる。
帰ったら絶対ルゥに文句を言ってやろう、と僕は決意した。
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