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第5章
第257話 我慢する悪役令息※
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魔宝石を作り始めてから約三週間、宝石に魔力を込める作業は想像以上に大変だった。
「う…気持ち悪っ……はぁ、はぁ……」
僕は残念ながら魔力の操作があまり上手ではない。うっかりするとすぐに多すぎたり少なすぎたりする。
「キルナ様、魔力を出しすぎです。少し抑えて。気分が悪くなったら左手でチョーカーに触れてください」
セントラの助言に従い、クライスの魔力が詰まった首元のダイヤモンドに指輪のついた手で触れると、徐々に吐き気が治まる。このチョーカー本当に便利で、今じゃこれなしでは生活できないってほど役に立っている。
(僕も、すごいのを作ってプレゼントするんだ。がんばろ!)
メラメラと燃えている僕の隣で、テアは作りかけの魔宝石の具合をチェックしてくれている。
「ふふっ、宝石のひとつひとつにお姫様の魔力が宿って金の光を帯びてきた。本物のお星様みたいだね、キレイ~。あとちょっとで出来そうだよ!」
「魔力が固定されたら最後の仕上げに魔法式を埋め込み完成です。頑張ってください」
「うん。が…頑張る!! ……ん、あれ? と、止まらな……あ…ああああああ!!!」
「「あ」」
もうすぐできるぞ、最後の一踏ん張り! と意気込むと、どば~っと流れ出た力を止められなくなってしまった。
魔力が空っぽになってふにゃふにゃとタコとかイカみたいに力を失った僕の体を、セントラは慣れた動きで横抱きにし、そのまま理事長室のドアを開ける。
そこにはいつものように待ってくれている王子様(若干不機嫌)の姿があった。
彼はもう最初の頃のように驚くことはなく、僕をセントラの手から宝物を扱うように丁寧に受け取ると、真剣な表情で尋ねる。
「理事長、一体キルナと何の訓練をしているのかそろそろ教えていただいても?」
「いえ、それは、内緒です」
これもいつものやり取りだ。
「じゃあね~おひめ…じゃなかった。キルナサマ~また明日」
テアもシュンっと転移魔法でどこかへ行ってしまい、僕は彼に抱き上げられたまま、隠し事をしている気まずさに耐えきれず目を逸らす。
本当は猛ダッシュで逃げたいとこだけど、もう体はぴくりとも動かせなくて、自分でチョーカーに触れることすらできない。最初の一週間はこんなかんじでバッタバッタ倒れてたけど、最近は調節がうまくなってきて、倒れるほどではなかったのに。今日は大失敗だ。
「とにかく、帰るぞ」
部屋に戻ってクライスのベッドに寝かされ、口から魔力をもらう。
「ん……」
ふにゅっと唇と唇が重なり合う。僕はこの瞬間がとても好き。
極寒状態の体に温かいものが注がれ、バターみたいにとろんとトロけるこの瞬間。
夢現のようになってプカプカと空に浮かぶののんみたいな気分になる。
移動する魔力が気持ち良すぎて、その感覚に浸る。
「ふぁ……クライス。ン…ぅ…あったかくて…とけちゃう」
「ああ、氷みたいに冷たかった身体が熱くなっている。魔力ゼロの状態から満タンの20まで増やしたからな」
「はぁ……熱い……」
「辛いのか?」
「………だいじょぶ」
火照った体を触ってほしい、と思いながらも口には出さなかった。
彼は眼鏡騒動があってからまたずっと近くにいてくれるようになった。忙しいのに無理しなくていいよと言ったら、もうパーティーの処理は終わったから大丈夫だというけれど……。
そうでなくても彼は超多忙だ。学校のものだけじゃなく将来王になるための勉強も、ものすごい量をこなしていると僕は知ってる。(いつだってすごく難しそうな本を読んでいる)
放課後理事長室の前でいっぱい待たせちゃったし、疲れてるかもしれない。
こんなにすごいチョーカーがあるのにまた倒れるなんて、どうしようもないなと呆れてるかも……。
クライスの魔力とともに熱い熱が体を巡っている。魔力の量は適正だから、きちんと理性はある。魔力酔いをおこしている時はいつも夢中でおねだりしちゃうけど、今日はちゃんと我慢しよう。これ以上迷惑はかけられない。
でもお腹の下らへんが……熱い。
「ふっ…く……ん……」
「キルナ? 本当に大丈夫なのか?」
こくりと頷き、少し眠りたい、と言った。
腰を動かさないように気を付ける。変な声を出さないように気を付ける。
動かないように体を丸め息を詰めてじっとしていると、ぎゅうっと彼の胸元に僕の顔がくるように抱え込まれた。耳を澄ませるとトクントクンと心臓の音がする。
(クライスの音。クライスの匂い。すごく安心する……)
このままじっとしてれば治るはず。我慢……できるはず……。
だけど、この時僕はまだ知らなかった。
我慢をすればするほど、体は”欲しい、欲しい”と彼の手を求め、貪欲になっていくのだということを……。
「う…気持ち悪っ……はぁ、はぁ……」
僕は残念ながら魔力の操作があまり上手ではない。うっかりするとすぐに多すぎたり少なすぎたりする。
「キルナ様、魔力を出しすぎです。少し抑えて。気分が悪くなったら左手でチョーカーに触れてください」
セントラの助言に従い、クライスの魔力が詰まった首元のダイヤモンドに指輪のついた手で触れると、徐々に吐き気が治まる。このチョーカー本当に便利で、今じゃこれなしでは生活できないってほど役に立っている。
(僕も、すごいのを作ってプレゼントするんだ。がんばろ!)
メラメラと燃えている僕の隣で、テアは作りかけの魔宝石の具合をチェックしてくれている。
「ふふっ、宝石のひとつひとつにお姫様の魔力が宿って金の光を帯びてきた。本物のお星様みたいだね、キレイ~。あとちょっとで出来そうだよ!」
「魔力が固定されたら最後の仕上げに魔法式を埋め込み完成です。頑張ってください」
「うん。が…頑張る!! ……ん、あれ? と、止まらな……あ…ああああああ!!!」
「「あ」」
もうすぐできるぞ、最後の一踏ん張り! と意気込むと、どば~っと流れ出た力を止められなくなってしまった。
魔力が空っぽになってふにゃふにゃとタコとかイカみたいに力を失った僕の体を、セントラは慣れた動きで横抱きにし、そのまま理事長室のドアを開ける。
そこにはいつものように待ってくれている王子様(若干不機嫌)の姿があった。
彼はもう最初の頃のように驚くことはなく、僕をセントラの手から宝物を扱うように丁寧に受け取ると、真剣な表情で尋ねる。
「理事長、一体キルナと何の訓練をしているのかそろそろ教えていただいても?」
「いえ、それは、内緒です」
これもいつものやり取りだ。
「じゃあね~おひめ…じゃなかった。キルナサマ~また明日」
テアもシュンっと転移魔法でどこかへ行ってしまい、僕は彼に抱き上げられたまま、隠し事をしている気まずさに耐えきれず目を逸らす。
本当は猛ダッシュで逃げたいとこだけど、もう体はぴくりとも動かせなくて、自分でチョーカーに触れることすらできない。最初の一週間はこんなかんじでバッタバッタ倒れてたけど、最近は調節がうまくなってきて、倒れるほどではなかったのに。今日は大失敗だ。
「とにかく、帰るぞ」
部屋に戻ってクライスのベッドに寝かされ、口から魔力をもらう。
「ん……」
ふにゅっと唇と唇が重なり合う。僕はこの瞬間がとても好き。
極寒状態の体に温かいものが注がれ、バターみたいにとろんとトロけるこの瞬間。
夢現のようになってプカプカと空に浮かぶののんみたいな気分になる。
移動する魔力が気持ち良すぎて、その感覚に浸る。
「ふぁ……クライス。ン…ぅ…あったかくて…とけちゃう」
「ああ、氷みたいに冷たかった身体が熱くなっている。魔力ゼロの状態から満タンの20まで増やしたからな」
「はぁ……熱い……」
「辛いのか?」
「………だいじょぶ」
火照った体を触ってほしい、と思いながらも口には出さなかった。
彼は眼鏡騒動があってからまたずっと近くにいてくれるようになった。忙しいのに無理しなくていいよと言ったら、もうパーティーの処理は終わったから大丈夫だというけれど……。
そうでなくても彼は超多忙だ。学校のものだけじゃなく将来王になるための勉強も、ものすごい量をこなしていると僕は知ってる。(いつだってすごく難しそうな本を読んでいる)
放課後理事長室の前でいっぱい待たせちゃったし、疲れてるかもしれない。
こんなにすごいチョーカーがあるのにまた倒れるなんて、どうしようもないなと呆れてるかも……。
クライスの魔力とともに熱い熱が体を巡っている。魔力の量は適正だから、きちんと理性はある。魔力酔いをおこしている時はいつも夢中でおねだりしちゃうけど、今日はちゃんと我慢しよう。これ以上迷惑はかけられない。
でもお腹の下らへんが……熱い。
「ふっ…く……ん……」
「キルナ? 本当に大丈夫なのか?」
こくりと頷き、少し眠りたい、と言った。
腰を動かさないように気を付ける。変な声を出さないように気を付ける。
動かないように体を丸め息を詰めてじっとしていると、ぎゅうっと彼の胸元に僕の顔がくるように抱え込まれた。耳を澄ませるとトクントクンと心臓の音がする。
(クライスの音。クライスの匂い。すごく安心する……)
このままじっとしてれば治るはず。我慢……できるはず……。
だけど、この時僕はまだ知らなかった。
我慢をすればするほど、体は”欲しい、欲しい”と彼の手を求め、貪欲になっていくのだということを……。
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