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第5章
第249話 雨の日の椅子
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「リリー、どうしたの?」
理事長室に何か用事があるのだろうか。
「メガネが来るのを待ってたんだよ。今日何回も話しかけたけどずっとぼんやりして僕のことなんて全然目に入ってなかったでしょ」
「え? 話しかけてくれてたなんて全然気づかなかった。ご、ごめん」
「あんまりしつこく話しかける訳にもいかないし…課題が終わってるのに練習場に押しかけるのもどうかと思って、ここで待ってたんだ」
ずっと話したかったのに……と潤んだ目でじと~っと見られ、僕はオロオロとハンカチを探す。
「ほんとにごめん。今日は寝不足気味でぼぅっとしてたから気づかなくて」
「ぼ~っとしてる場合じゃないんだよメガネ!!」
なぜか鬼気迫る様子のリリーに僕はごくりと唾を飲み込む。
話をするため、僕たちは理事長室から一番近いカフェ『雨の日の椅子』に行くことにした。
「ふわぁ、なんかキレイなとこ」
美しい木々に囲まれた小さなカフェ、まるで森の中にいるような気分にさせられる。
ここ、実は良心的な値段設定な上、ゆっくり落ち着ける穴場スポットとしてコアなファンが多いらしい。小鳥が囀り木漏れ日の中キラキラと妖精たちが舞う姿を見ると、まだ何も飲み食いしていないのにもう僕もファンになりそうだ。
ドアを開けるとすぐカウンターがあった。
初めて入ったお店での注文は緊張する。前世ではこういうおしゃれなカフェには数回しか行ったことがなくて、注文の仕方がわからずまごついて、店員さんにクスッと笑われた経験があり、僕はリリーに予め流れを教えてもらうことにした。
師匠によると、カウンターで先に注文してお会計し、座って待っていると、店員さんが持ってきてくれる仕組みらしい。リリーは『今日の飲みもの』というのを頼んだから、僕も間違えないように同じものにした。
だけど、わからない。前世で『今日のコーヒー』は見たことあるけど、『今日の飲みもの』ってなんだろう。
コーヒーなのか紅茶なのかジュースなのか……不確定要素が多すぎて少し心配だ。どこかに説明が書いてあるのかと思って見回してみたけど何もない。リリーに聞いてみると、出てくるまで全く何かわからないという。広いテラス席が空いていたのでそこに二人で座ることにした。
「ちょっと待って、座る前に」
「んぇ!?」
よく見ると椅子がびしょ濡れだ。なんで? 考える間も無くリリーが火魔法でカラリと乾かしてくれた。
(とにかく飲めるものが出てきますように!)
出てきたのは大きなグラス一杯に丸くくりぬかれたカラフルな果物がたくさん入っている、フルーツアイスティーだった。
「え? すごい豪華! おいしそう」
「今日は当たりだね。前来たときはガラッシーオレだった。ベルトは結構イケるって飲んでたけどさすがに美味しくなかったよ」
ガラッシーは唐辛子みたいな味の果物だ。ガラッシーオレはそれにカフェオレを合わせた飲みもの。(それは飲めない……危なかった。)
黄緑色の実をスプーンで掬う。キウイみたいな見た目だ。おそるおそる齧ってみると…死ぬほど酸っぱくて飛び上がりそうになった。その横の赤い実を食べると、おお、これはスイカ! おいしっ!
「リリーはいつも“今日の飲みもの”を頼むの?」
と聞くと彼は頷き、これが一番安いからね、と答えた。
「一週間も学校に来なかったからどうしたのかと思って心配してたんだよ。寮の部屋に行っても誰もいないし。ライン先生に聞いても話してくれないし」
僕はテアの看病のため騎士団本部に行っていたし、クライスは王宮で仕事をしていたから放課後部屋には誰もいなかった。その間にリリーは訪ねてきてくれたらしい。
「そうだったんだ。今日もせっかく話しかけてくれたのにぼんやりしてて…ごめんね」
リリーはもぐもぐとフルーツを噛み、スプーンでグルグルとアイスティーをかき混ぜ僕の方を向いた。
「まったくそんな調子じゃ本当に危ないよ! 今日も危ない場面いっぱいあったでしょ」
「え?」
危ない場面ってなんのことだろう。授業中に白目になったこと? それとも鈍臭くて木剣を何度も落としたこと?
「その様子じゃ全然気づいてないんだね。まあ王子が未然に防いだからなんだろうけど、これからも狙われるだろうから自分でも警戒しないと」
「僕…何かに狙われてるの?」
青フードを被ったやつらが僕を狙ってるから気をつけるように、とクライスに何度も念を押されている。でもそいつらが今日攻撃してきてたのだとしたら、すごく危険だし、すぐにクライスが教えてくれるような。
(でも特に何も言ってなかったよね?)
「僕はそれ関連でメガネが休んでるのかと思ってたんだけど、どうやら違うみたいだね。ほら早く飲まないと氷が溶けて美味しくなくなるよ」
「あ、うん。ごくごくごく」
話に夢中で飲むのを忘れてた。
飲んでみると、すっきり爽やで優しい甘さ、これはいいお味だ!
このカフェにはまた来たいなと思う。
周りの椅子がなぜかどれも濡れているのは気になるとこだけど……。
理事長室に何か用事があるのだろうか。
「メガネが来るのを待ってたんだよ。今日何回も話しかけたけどずっとぼんやりして僕のことなんて全然目に入ってなかったでしょ」
「え? 話しかけてくれてたなんて全然気づかなかった。ご、ごめん」
「あんまりしつこく話しかける訳にもいかないし…課題が終わってるのに練習場に押しかけるのもどうかと思って、ここで待ってたんだ」
ずっと話したかったのに……と潤んだ目でじと~っと見られ、僕はオロオロとハンカチを探す。
「ほんとにごめん。今日は寝不足気味でぼぅっとしてたから気づかなくて」
「ぼ~っとしてる場合じゃないんだよメガネ!!」
なぜか鬼気迫る様子のリリーに僕はごくりと唾を飲み込む。
話をするため、僕たちは理事長室から一番近いカフェ『雨の日の椅子』に行くことにした。
「ふわぁ、なんかキレイなとこ」
美しい木々に囲まれた小さなカフェ、まるで森の中にいるような気分にさせられる。
ここ、実は良心的な値段設定な上、ゆっくり落ち着ける穴場スポットとしてコアなファンが多いらしい。小鳥が囀り木漏れ日の中キラキラと妖精たちが舞う姿を見ると、まだ何も飲み食いしていないのにもう僕もファンになりそうだ。
ドアを開けるとすぐカウンターがあった。
初めて入ったお店での注文は緊張する。前世ではこういうおしゃれなカフェには数回しか行ったことがなくて、注文の仕方がわからずまごついて、店員さんにクスッと笑われた経験があり、僕はリリーに予め流れを教えてもらうことにした。
師匠によると、カウンターで先に注文してお会計し、座って待っていると、店員さんが持ってきてくれる仕組みらしい。リリーは『今日の飲みもの』というのを頼んだから、僕も間違えないように同じものにした。
だけど、わからない。前世で『今日のコーヒー』は見たことあるけど、『今日の飲みもの』ってなんだろう。
コーヒーなのか紅茶なのかジュースなのか……不確定要素が多すぎて少し心配だ。どこかに説明が書いてあるのかと思って見回してみたけど何もない。リリーに聞いてみると、出てくるまで全く何かわからないという。広いテラス席が空いていたのでそこに二人で座ることにした。
「ちょっと待って、座る前に」
「んぇ!?」
よく見ると椅子がびしょ濡れだ。なんで? 考える間も無くリリーが火魔法でカラリと乾かしてくれた。
(とにかく飲めるものが出てきますように!)
出てきたのは大きなグラス一杯に丸くくりぬかれたカラフルな果物がたくさん入っている、フルーツアイスティーだった。
「え? すごい豪華! おいしそう」
「今日は当たりだね。前来たときはガラッシーオレだった。ベルトは結構イケるって飲んでたけどさすがに美味しくなかったよ」
ガラッシーは唐辛子みたいな味の果物だ。ガラッシーオレはそれにカフェオレを合わせた飲みもの。(それは飲めない……危なかった。)
黄緑色の実をスプーンで掬う。キウイみたいな見た目だ。おそるおそる齧ってみると…死ぬほど酸っぱくて飛び上がりそうになった。その横の赤い実を食べると、おお、これはスイカ! おいしっ!
「リリーはいつも“今日の飲みもの”を頼むの?」
と聞くと彼は頷き、これが一番安いからね、と答えた。
「一週間も学校に来なかったからどうしたのかと思って心配してたんだよ。寮の部屋に行っても誰もいないし。ライン先生に聞いても話してくれないし」
僕はテアの看病のため騎士団本部に行っていたし、クライスは王宮で仕事をしていたから放課後部屋には誰もいなかった。その間にリリーは訪ねてきてくれたらしい。
「そうだったんだ。今日もせっかく話しかけてくれたのにぼんやりしてて…ごめんね」
リリーはもぐもぐとフルーツを噛み、スプーンでグルグルとアイスティーをかき混ぜ僕の方を向いた。
「まったくそんな調子じゃ本当に危ないよ! 今日も危ない場面いっぱいあったでしょ」
「え?」
危ない場面ってなんのことだろう。授業中に白目になったこと? それとも鈍臭くて木剣を何度も落としたこと?
「その様子じゃ全然気づいてないんだね。まあ王子が未然に防いだからなんだろうけど、これからも狙われるだろうから自分でも警戒しないと」
「僕…何かに狙われてるの?」
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(でも特に何も言ってなかったよね?)
「僕はそれ関連でメガネが休んでるのかと思ってたんだけど、どうやら違うみたいだね。ほら早く飲まないと氷が溶けて美味しくなくなるよ」
「あ、うん。ごくごくごく」
話に夢中で飲むのを忘れてた。
飲んでみると、すっきり爽やで優しい甘さ、これはいいお味だ!
このカフェにはまた来たいなと思う。
周りの椅子がなぜかどれも濡れているのは気になるとこだけど……。
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