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第5章
第237話 不機嫌な王子様※
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お医者様による治療も無事終わった。その後テアは気持ちが落ち着くハーブティーを飲ませると、すぅっと眠った。手当てされる間ずっと僕に付き添ってくれていたから疲れたのだろう。
昼頃になると、いつものようにテアの病室までクライスがお昼ご飯を持ってきてくれた。今日のことは部屋に来るまでにナディルさんが説明してくれたらしい。
(おなかぺこぺこだし説明する手間が省けて助かった。今日のお昼ご飯は何かしら。楽しみ!)
浮かれていると、会った瞬間クライスに抱き抱えられ、大きなベッドのある見覚えのない部屋に運ばれた。
「ふぇ? ここは?」
ベッドに下ろされると隣にクライスが座る。
(ここでご飯を食べるのかな? いつもはテアの病室の隣室で食べるのに、変なの。)
「騎士団にある来客用の部屋を借りた。ここならテアの病室にも近いから何かあればすぐにいける」
「そか、それはよかっ…たって…何してるの?」
丁寧に巻かれた包帯をくるくると外し始めるクライスに、僕は待ったをかける。せっかく綺麗に処置してもらったのに何してるのこの人。
ハラリと包帯が解け傷口が露わになった。うっ、血が滲んでいてエグい。直視できず、ふいっと傷から目を逸らしクライスの方を見た。いつもなら学校のこととかたくさん話をしてくれるのに、ほとんどしゃべらず黙々と手を動かしている。今日は一体どうしたのだろ。
彼の不可解な行動は続く。現れた傷をじっくりと観察し何かの呪文を唱えると、躊躇うことなく傷の上に口付けた。まだ血、出てるのに付いちゃうよ! と手を引っ込めようとしたけれど、がっちりとクライスの手に固定され動かせない。
(なんでキスなんて?? あ、違う。もしかして治してくれる気なのかな? 別にいいのに。もうしっかり治療してもらったし、深いけど綺麗な切り傷だから安静にしとけば数日で治るって言われたのに。)
治さなくていいよと言おうとしたら、そこを這う生温かい感触に「うひゃあ!」と別の声が出てしまった。
「いぁっ、ダメ。そんなとこ舐めちゃ……」
「痛いか?」
聞かれて、「ううん、痛くはない…けど」と答えて静かに俯いた。顔が熱い。
思いっきり傷口を舐められドキリとするけど、不思議と全く痛くない。むしろ痛みが引いていくのがわかる。
ぽかぽかして温かい光が傷を覆い、きっといつもみたいに光魔法の回復術を使っているのだとわかった。それでも、まだ生々しい傷口を舐め回されるのはちょっと怖くて、後半はキュッと目を瞑っていた。
ぴちゃ、くちくち、くちゅっ
居た堪れない音を聞きながら耐え忍ぶこと数十分。恥ずかしさに彼に捧げた手がぷるぷる震える。
気がつくと僕の右手は、目の前の王子様によってべっちゃべちゃにされていた。見た目はもう治ってるし、痛みも無くなった。「もう終わり?」と訊いても「まだだからじっとしていろ」と言われ、仕方なく手を舐め続ける彼を見守る。
一時間は経った。さすがに、終わったよね?
「ふぁ…や…っ…ん」
手の甲を舐め終えると、今度は人差し指を口に含まれた。ジュッと吸い上げられ恥ずかしさが込み上げる。
(な…何してるの? そこは怪我してないのに……。)
しかも舐め方が無駄にエロいんだけど。指と指の間の股のとこまで舐められ、僕はたまらず声を上げた。
「うひゃあ、くすぐったい!」
これ、わざと執拗に舐めているような……。ちゅうっと一本ずつ指を吸い上げながら妖しい眼差しを向けられ、僕の照れは最高潮に達した。
「もうもうもう! 治療は終わったでしょ!?」
「ああ、今終わった」
しれっと返事をして、クライスはようやく僕の手を放した。そして僕の腰を引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。
背中に彼の温もりを感じ、身体がぴしりと固まる。看病を始めてから朝食時にこの体勢になることが無くなったから、なんだか緊張してしまう。僕の背中に額をつけた彼が、絞り出すような声で言った。
「お前は目を離すとすぐ怪我をする……」
「それは…仕方なかったの。ああするしか方法がなくて」
咄嗟のことだったし、あれ以外の方法を考えられなかった。“守りの水魔法”というのが水属性の中級魔法にあるというので前に練習してみたことはあるけれど、残念ながらまだ僕には使えない。
「ああ、怪我した理由は聞いた。危険なことはしてほしくないが、100歩譲ってそれは仕方がなかったとしよう。だが問題はその後だ。お前、俺に連絡はいらないと言ったそうだな」
不機嫌な声。抱きしめる腕の力が強まる。
「だ、だって…。お医者様が治療してくれたからもう大丈夫だったし。クライス最近忙しそうだし……後で言えばいいかなと思って」
首にちくんとする感触に思わず体を捩った。
「んはぁ、も、うなじにキスマークつけるのやめてぇ!!」
「隠し事ばかりする婚約者には、お仕置きが必要だろ? 手以外にも怪我をしてるんじゃないか? どうせ聞いたって隠すだろうから全身調べてやる」
「ふぇ!? してな…他に怪我なんてしてないってばぁ!」
お仕置きって言葉、久しぶりに聞いたような……。
え?
あれ? なんか…怒らせたってこと?
僕の体をゆっくりとベッドに横たわらせる彼の手つきは優しい。
なのに、なんとなく身の危険を感じるのは気のせいだろうか……。
昼頃になると、いつものようにテアの病室までクライスがお昼ご飯を持ってきてくれた。今日のことは部屋に来るまでにナディルさんが説明してくれたらしい。
(おなかぺこぺこだし説明する手間が省けて助かった。今日のお昼ご飯は何かしら。楽しみ!)
浮かれていると、会った瞬間クライスに抱き抱えられ、大きなベッドのある見覚えのない部屋に運ばれた。
「ふぇ? ここは?」
ベッドに下ろされると隣にクライスが座る。
(ここでご飯を食べるのかな? いつもはテアの病室の隣室で食べるのに、変なの。)
「騎士団にある来客用の部屋を借りた。ここならテアの病室にも近いから何かあればすぐにいける」
「そか、それはよかっ…たって…何してるの?」
丁寧に巻かれた包帯をくるくると外し始めるクライスに、僕は待ったをかける。せっかく綺麗に処置してもらったのに何してるのこの人。
ハラリと包帯が解け傷口が露わになった。うっ、血が滲んでいてエグい。直視できず、ふいっと傷から目を逸らしクライスの方を見た。いつもなら学校のこととかたくさん話をしてくれるのに、ほとんどしゃべらず黙々と手を動かしている。今日は一体どうしたのだろ。
彼の不可解な行動は続く。現れた傷をじっくりと観察し何かの呪文を唱えると、躊躇うことなく傷の上に口付けた。まだ血、出てるのに付いちゃうよ! と手を引っ込めようとしたけれど、がっちりとクライスの手に固定され動かせない。
(なんでキスなんて?? あ、違う。もしかして治してくれる気なのかな? 別にいいのに。もうしっかり治療してもらったし、深いけど綺麗な切り傷だから安静にしとけば数日で治るって言われたのに。)
治さなくていいよと言おうとしたら、そこを這う生温かい感触に「うひゃあ!」と別の声が出てしまった。
「いぁっ、ダメ。そんなとこ舐めちゃ……」
「痛いか?」
聞かれて、「ううん、痛くはない…けど」と答えて静かに俯いた。顔が熱い。
思いっきり傷口を舐められドキリとするけど、不思議と全く痛くない。むしろ痛みが引いていくのがわかる。
ぽかぽかして温かい光が傷を覆い、きっといつもみたいに光魔法の回復術を使っているのだとわかった。それでも、まだ生々しい傷口を舐め回されるのはちょっと怖くて、後半はキュッと目を瞑っていた。
ぴちゃ、くちくち、くちゅっ
居た堪れない音を聞きながら耐え忍ぶこと数十分。恥ずかしさに彼に捧げた手がぷるぷる震える。
気がつくと僕の右手は、目の前の王子様によってべっちゃべちゃにされていた。見た目はもう治ってるし、痛みも無くなった。「もう終わり?」と訊いても「まだだからじっとしていろ」と言われ、仕方なく手を舐め続ける彼を見守る。
一時間は経った。さすがに、終わったよね?
「ふぁ…や…っ…ん」
手の甲を舐め終えると、今度は人差し指を口に含まれた。ジュッと吸い上げられ恥ずかしさが込み上げる。
(な…何してるの? そこは怪我してないのに……。)
しかも舐め方が無駄にエロいんだけど。指と指の間の股のとこまで舐められ、僕はたまらず声を上げた。
「うひゃあ、くすぐったい!」
これ、わざと執拗に舐めているような……。ちゅうっと一本ずつ指を吸い上げながら妖しい眼差しを向けられ、僕の照れは最高潮に達した。
「もうもうもう! 治療は終わったでしょ!?」
「ああ、今終わった」
しれっと返事をして、クライスはようやく僕の手を放した。そして僕の腰を引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。
背中に彼の温もりを感じ、身体がぴしりと固まる。看病を始めてから朝食時にこの体勢になることが無くなったから、なんだか緊張してしまう。僕の背中に額をつけた彼が、絞り出すような声で言った。
「お前は目を離すとすぐ怪我をする……」
「それは…仕方なかったの。ああするしか方法がなくて」
咄嗟のことだったし、あれ以外の方法を考えられなかった。“守りの水魔法”というのが水属性の中級魔法にあるというので前に練習してみたことはあるけれど、残念ながらまだ僕には使えない。
「ああ、怪我した理由は聞いた。危険なことはしてほしくないが、100歩譲ってそれは仕方がなかったとしよう。だが問題はその後だ。お前、俺に連絡はいらないと言ったそうだな」
不機嫌な声。抱きしめる腕の力が強まる。
「だ、だって…。お医者様が治療してくれたからもう大丈夫だったし。クライス最近忙しそうだし……後で言えばいいかなと思って」
首にちくんとする感触に思わず体を捩った。
「んはぁ、も、うなじにキスマークつけるのやめてぇ!!」
「隠し事ばかりする婚約者には、お仕置きが必要だろ? 手以外にも怪我をしてるんじゃないか? どうせ聞いたって隠すだろうから全身調べてやる」
「ふぇ!? してな…他に怪我なんてしてないってばぁ!」
お仕置きって言葉、久しぶりに聞いたような……。
え?
あれ? なんか…怒らせたってこと?
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なのに、なんとなく身の危険を感じるのは気のせいだろうか……。
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