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第5章
第232話 悪役令息の看病(ちょい※)
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テアと同じ部屋で寝泊まりすること三日、いつもより硬い付き添い用の簡易ベッドにも慣れてきた。
「テアも起きたの? じゃあ、お水を飲んで」
二つコップを用意し、はい、と汲みたての水を彼に差し出した。自分も飲んどこう。ごくごくごく。冷たい水、おいしっ!
『寝てる間に水分は出ていってしまうから、起きた時に水を飲むことは大事よ』とお母さんはよく言っていた。だから朝起きたらすぐに水を飲むことを、僕は習慣にしている。
だけど、テアってばまだ寝起きのせいかぼんやりしていて、コップを受け取ってくれない。(まぁ受け取ってくれてもコップで飲んだことはまだ一度もないのだけど。)
「お姫さまの…お口がいい」
テアはベッドに寝転んだまま、弱々しく言った。まだ自分じゃ飲めないみたい。ならしょうがないか。
「コップから直接飲んだ方が冷たくて美味しいと思うのだけど……」
あ、と口を開くテアに、もう何度目かわからない口移しをする。恥ずかしさはあるものの、ちゅっと唇が重なり水を渡すと、その度に彼が回復してるのを実感できて、安心する。唇にも大分潤いが戻り、ふっくらと柔らかな感触になってきている。
「おいし…よぉ。もっと…ちょーだぁい…」
「ん、わかった。ちょっと待ってね」
ちゅっ。ぴちゃん。こくこくこく。
「もっと…もっとぉ…」
「ぷはぁ、ん、わかった」
急いでコップを傾け自分の口に水を流し込む。
テアは甘えるのがうまい。口移しなんてそんな何回もやっちゃ駄目だよね、と思うのだけど、口を開いて健気に待つ彼を拒否することなんてできるはずがなくて、結局僕はヒナを育てる親鳥のようにひたすらせっせと水を運んでいる。
どんなに大変でも彼が可愛く甘えてくると、そうせずにはいられないって気分になるから不思議だ。(この甘え上手なとこは執着系悪役として見習わないと。メモメモ。)
「そろそろご飯も食べた方がいいよ。ベンスにおいしいミルクスープを頼んだから食べてみて」
「食べさせて…くれる? お口で?」
「ふぇ!? お口…では無理だけど。スプーンで食べさせてあげるよ」
食べ物の口移しはさすがにやばい気がする。医療行為を超えてちょっと変態っぽくて。でもそれでしか食べないんだったら、やるべき? 悩んでいると「じゃあ…食べるぅ」と彼が言ってくれたので助かった。
温かいミルクスープは甘いミルクの香りが食欲を唆る。食べなくてもわかる、絶対おいしい!
「はい、お口開けて、あ~ん」
木のスプーンでスープをすくって、溢さないよう気をつけながらテアのお口にそっと流し込む。もぐもぐと小さな口を一生懸命動かして食べる姿は、何かを連想させるような……。
(ん~この口の動き、と愛らしい大きな目……なんだっけな。あ、そだ。あれだ、リス!!)
「全部食べた。頑張ったね」
空になったスープ皿を見せてえらいえらいと褒めると、ふにゃっとうれしそうに笑い、そのまま彼は眠った。すやすやと心地良さそうに眠る姿を見ていると、僕もつられてうとうとしてくる。けど、ダメ。学校の課題はここに持ってきている。やらねば。
「ふふ、なんだか小さな子どもみたい。可愛いな」
彼の口を濡らした布巾で丁寧に拭き、布団をかぶせ、ベッド脇の机の上に魔法数術の教科書を開いた。難問が並んでいる。さぁ、集中しなくちゃ!
コンコンコン
「キルナ、入っても大丈夫か?」
扉をノックする音とクライスの声でガバリと体を起こした。やばい。机に突っ伏して寝ちゃってた。課題はまだ半分残ってるのに。
「あ、僕がそっち行くね」
隣の部屋に行くとクライスが来てくれていた。今日の宿題や明日の課題を届けてくれる。あと、夕食も。今日はミートパイだ。おいしそ~。
「ありがと、ごめん、クライス忙しいのにいつも色々届けてもらって。この後またお城に行くんでしょ?」
「ああ、まだ仕事が残ってるから城にはいくが、キルナの顔を見ておきたかったからこれくらい気にしなくていい。テアの具合はどうだ?」
「お水も飲んで、今日はご飯も食べてくれたの。ミルクスープ全部食べたんだよ」
「そうか。それならよかった。……だが」
つうっと僕の頬を指で辿るクライス。何っ? よくわからない動きに顔がボッと赤くなる。今日は学校に行っていないから1日離れていたし、少しの接触でも照れてしまう。
「お前寝てただろ」
え、なんでバレたの? もしや、涎がついてる? 僕が大急ぎで口元を袖口で拭うと、ははっと彼が声を上げて笑った。
「頬に跡がついてる」
「んぇ!?」
(なんてこと!! は、恥ずかしい。)
これ以上顔を見られないように俯いたら、くいっと顎を掬って上を向かされた。アイスブルーの瞳がすぐそこにある。目が、合う。近い……よ。こんなの……ただでさえ僕は今、寝跡がついたみっともない顔をしているのに……。
「疲れているんじゃないか? 目の下にクマができてる」
ドキドキしているのは僕だけで、彼は僕の顔色をチェックしているだけだったみたい。
「だ、だいじょぶ。さっきはちょっと数術の問題が難しくて、考えてるうちについ寝てしまっただけだから」
「数術か。教えてやりたいが今は時間がないからまた明日教えに来る。今日もここに泊まるつもりなのだろう?」
毎日わざわざご飯や課題を届けに来てくれるクライスには申し訳ないのだけど、「うん、もう少しここにいるつもり」と僕は答えた。
「テアは夜よくうなされるから近くにいてあげたいの。せめて一人でご飯を食べられるようになるまでは」
「無理はするなよ」
「わかった」
帰り際、いつものように彼がおまじないしてくれる。あ、クライスの…唇……が僕のおでこに……くっついた。
なんなのこれ? 体が熱い……。
じんわりとした額の温かさとは別の得体の知れない熱に戸惑いながら、僕はテアの眠る病室へと戻った。
「テアも起きたの? じゃあ、お水を飲んで」
二つコップを用意し、はい、と汲みたての水を彼に差し出した。自分も飲んどこう。ごくごくごく。冷たい水、おいしっ!
『寝てる間に水分は出ていってしまうから、起きた時に水を飲むことは大事よ』とお母さんはよく言っていた。だから朝起きたらすぐに水を飲むことを、僕は習慣にしている。
だけど、テアってばまだ寝起きのせいかぼんやりしていて、コップを受け取ってくれない。(まぁ受け取ってくれてもコップで飲んだことはまだ一度もないのだけど。)
「お姫さまの…お口がいい」
テアはベッドに寝転んだまま、弱々しく言った。まだ自分じゃ飲めないみたい。ならしょうがないか。
「コップから直接飲んだ方が冷たくて美味しいと思うのだけど……」
あ、と口を開くテアに、もう何度目かわからない口移しをする。恥ずかしさはあるものの、ちゅっと唇が重なり水を渡すと、その度に彼が回復してるのを実感できて、安心する。唇にも大分潤いが戻り、ふっくらと柔らかな感触になってきている。
「おいし…よぉ。もっと…ちょーだぁい…」
「ん、わかった。ちょっと待ってね」
ちゅっ。ぴちゃん。こくこくこく。
「もっと…もっとぉ…」
「ぷはぁ、ん、わかった」
急いでコップを傾け自分の口に水を流し込む。
テアは甘えるのがうまい。口移しなんてそんな何回もやっちゃ駄目だよね、と思うのだけど、口を開いて健気に待つ彼を拒否することなんてできるはずがなくて、結局僕はヒナを育てる親鳥のようにひたすらせっせと水を運んでいる。
どんなに大変でも彼が可愛く甘えてくると、そうせずにはいられないって気分になるから不思議だ。(この甘え上手なとこは執着系悪役として見習わないと。メモメモ。)
「そろそろご飯も食べた方がいいよ。ベンスにおいしいミルクスープを頼んだから食べてみて」
「食べさせて…くれる? お口で?」
「ふぇ!? お口…では無理だけど。スプーンで食べさせてあげるよ」
食べ物の口移しはさすがにやばい気がする。医療行為を超えてちょっと変態っぽくて。でもそれでしか食べないんだったら、やるべき? 悩んでいると「じゃあ…食べるぅ」と彼が言ってくれたので助かった。
温かいミルクスープは甘いミルクの香りが食欲を唆る。食べなくてもわかる、絶対おいしい!
「はい、お口開けて、あ~ん」
木のスプーンでスープをすくって、溢さないよう気をつけながらテアのお口にそっと流し込む。もぐもぐと小さな口を一生懸命動かして食べる姿は、何かを連想させるような……。
(ん~この口の動き、と愛らしい大きな目……なんだっけな。あ、そだ。あれだ、リス!!)
「全部食べた。頑張ったね」
空になったスープ皿を見せてえらいえらいと褒めると、ふにゃっとうれしそうに笑い、そのまま彼は眠った。すやすやと心地良さそうに眠る姿を見ていると、僕もつられてうとうとしてくる。けど、ダメ。学校の課題はここに持ってきている。やらねば。
「ふふ、なんだか小さな子どもみたい。可愛いな」
彼の口を濡らした布巾で丁寧に拭き、布団をかぶせ、ベッド脇の机の上に魔法数術の教科書を開いた。難問が並んでいる。さぁ、集中しなくちゃ!
コンコンコン
「キルナ、入っても大丈夫か?」
扉をノックする音とクライスの声でガバリと体を起こした。やばい。机に突っ伏して寝ちゃってた。課題はまだ半分残ってるのに。
「あ、僕がそっち行くね」
隣の部屋に行くとクライスが来てくれていた。今日の宿題や明日の課題を届けてくれる。あと、夕食も。今日はミートパイだ。おいしそ~。
「ありがと、ごめん、クライス忙しいのにいつも色々届けてもらって。この後またお城に行くんでしょ?」
「ああ、まだ仕事が残ってるから城にはいくが、キルナの顔を見ておきたかったからこれくらい気にしなくていい。テアの具合はどうだ?」
「お水も飲んで、今日はご飯も食べてくれたの。ミルクスープ全部食べたんだよ」
「そうか。それならよかった。……だが」
つうっと僕の頬を指で辿るクライス。何っ? よくわからない動きに顔がボッと赤くなる。今日は学校に行っていないから1日離れていたし、少しの接触でも照れてしまう。
「お前寝てただろ」
え、なんでバレたの? もしや、涎がついてる? 僕が大急ぎで口元を袖口で拭うと、ははっと彼が声を上げて笑った。
「頬に跡がついてる」
「んぇ!?」
(なんてこと!! は、恥ずかしい。)
これ以上顔を見られないように俯いたら、くいっと顎を掬って上を向かされた。アイスブルーの瞳がすぐそこにある。目が、合う。近い……よ。こんなの……ただでさえ僕は今、寝跡がついたみっともない顔をしているのに……。
「疲れているんじゃないか? 目の下にクマができてる」
ドキドキしているのは僕だけで、彼は僕の顔色をチェックしているだけだったみたい。
「だ、だいじょぶ。さっきはちょっと数術の問題が難しくて、考えてるうちについ寝てしまっただけだから」
「数術か。教えてやりたいが今は時間がないからまた明日教えに来る。今日もここに泊まるつもりなのだろう?」
毎日わざわざご飯や課題を届けに来てくれるクライスには申し訳ないのだけど、「うん、もう少しここにいるつもり」と僕は答えた。
「テアは夜よくうなされるから近くにいてあげたいの。せめて一人でご飯を食べられるようになるまでは」
「無理はするなよ」
「わかった」
帰り際、いつものように彼がおまじないしてくれる。あ、クライスの…唇……が僕のおでこに……くっついた。
なんなのこれ? 体が熱い……。
じんわりとした額の温かさとは別の得体の知れない熱に戸惑いながら、僕はテアの眠る病室へと戻った。
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