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第5章

第227話 テアSIDE 本物の王子様とお姫様

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愛を手に入れるなんて簡単だと思っていた。

ちょっと優しくしてやれば、笑いかけてやればみんな顔を赤らめて熱を込めた目でテアを見つめ返してきた。

だから王子さまだって簡単に手に入れられると思ったんだ。


でも、今、目の前で王子様とお姫様が踊っている。

まるで絵本から出てきたような麗しい王子様。その端正な顔立ちは一年前よりももっと凛々りりしくなっている。

それに寄り添うのは、

大きな金の瞳を持ったお姫様。あのお月様みたいな瞳って絵本で見た妖精の目にそっくり…妖精のお姫さまだ。

ぴったりとくっつく二人の姿はこの世の物とは思えないほど美しくて、息を呑んで見つめることしかできない。テアだけじゃない。みんな、みんなだ。

このドロドロと汚いものばかりの世界にこんなに美しい光景があるなんて……信じられない。

――本当に美しいものなんて、絵本や物語の中にしか存在しないと思っていたのに。

あの二人を邪魔しようだなんて、なんて馬鹿なことを考えていたんだろう。



『もうすぐやってきますよ。腕を掴んでビビッド鉱山入り口まで転移してください』

先週の休日、テアはお父様のいうちょっとしたお仕事をこなすため、ココットタウンのジュエリーショップで青フードを被り(これが今日の仕事衣装らしい)魔法陣を描いて待ち構えていた。モサ男と一緒に転移するだけというけれど、距離がかなり遠いから、呪文だけでは難しい。身に付けたたくさんの魔宝石の魔力と魔法陣の力を合わせて使う必要がある。

魔法陣に魔力をうまく流すため、ずっと陣を見ていなければいけなくて、目標人物の確認は隣にいる青フードがすることになっていた。(彼は一定時間自分の姿を消す術が使えるらしく隣にいるのに見えなかった)

『来ました! 掴んで』

その指示に従って右手を伸ばし、腕を掴んでビビッド鉱山に転移しながら彼の口元に薬品を染み込ませたハンカチを当てる。そこまではうまくいった。だけど、薬によって意識を失った人物を見て、頭の中がはてなマークで埋め尽くされた。

『誰? これ』

真っ白い肌にぽってりと艶めくリップ、長くくっきりとカールしたまつ毛にうっすらピンクのほっぺた。絵本に出てくるお姫様みたいに綺麗な顔の男の子……。

(こいつは地味でモサい、あのキルナ=フェルライトじゃない。まさか急いでいたから間違えた?)

でも鉱山で待っていた青フードたちは彼の顔を嬉しそうに覗き込み、これで合っていると言う。

『どういうことなのぉ?』

戸惑うテアから少年を取り上げ、彼らは言った。

『あなたの役目はこれで終わりです。これから自力では絶対に出られない場所に彼を閉じ込めます。これで望み通りクライス殿下の誕生日に婚約者キルナ=フェルライトが出席することはない。殿下はきっと君をエスコートし、ダンスを踊ってくれるはずですよ。おめでとうございます』

『ちょっと待ってよ。これ違う子でしょ? お前たち、テアを使って違う人間を捕まえさせたのぉ!? テアを騙すなんて許さないんだから~!!!』 

もっともっとめちゃくちゃに文句を言いたかったけど、魔宝石の力を借りたとはいえ長距離の転移に魔力を使いすぎクタクタだったテアは、とにかく休みたくてその日は家に帰った。青フードたちはそれから姿を現さなかった。


モサ男が学校に来たことで、やっぱり捕まえた人間は別人だったと確信し、また腹が立った。

(このままじゃパーティーにモサ男が来て王子様とダンスができないよぉ。無能な青フードたちのせいだ~。)

そう思ってイライラしながらパーティー会場に行くと、王子の横に現れたのはモサ男ではなくてテアが誘拐した子だった。王子に確認すると、彼はキルナ=フェルライトで間違いないという。学校では変装してるってことぉ? 

(どっちにしても誘拐計画は失敗。なんとかしてピアスの力で王子の気持ちをテアに引き寄せなければ。)

そのまま予定通りプレゼント計画を実行したけど王子はピアスを付けることを拒み、ふらついたモサ…じゃなくて婚約者を抱きしめ何かの呪文を唱えた。(王子への魅了の効果は全然ないみたいだった。)

計画は全部失敗した。

せめておしゃべりをいっぱいしたかったのに、王子はお父様の弱みを握っているようで、お話もほとんどできずに挨拶は終わる。


そして、ダンスが始まった。



王子さまはお姫さまの腰に手を添えて、ちゅっとおでこにキスをした。
見つめ合う二人。
二人の目には今、お互いしか見えていない。

一緒にいるだけで、楽しくて、嬉しくて、幸せ……永遠にこうしていたい。離れたくない。そんな甘く切ない気持ちが伝わってくる。


なんだろうこれ。

これって……。

3つの曲が流れる間…優雅に踊る彼らを見ながら真剣に考えてやっとわかった。







そうか

彼らは

愛し合っているんだ。


ーーあれが



おかしいな、テアが知っていたものとは違う。
なぜだか頬に温かいものが流れた気がした。
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