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第5章
第222話 テアSIDE 絵本の中の王子さま②
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16、17、18、19、そして20歳の第一王子の誕生日パーティー。二人は運命の相手のはずなのに、会えるのは一年に一度。第一王子の誕生日パーティーで一曲踊る、その時だけ……。
最初に見た時と変わらずキレイを集めたステキな王宮の大広間で、テアは大きなため息を吐いた。
「はぁ~あ、テアたちって、なんて可哀想なんだろぅ。まるで神様に引き離された恋人たちみたい~。ねぇ~え、お父様もそう思うでしょぉ~?」
目をウルウルさせて眉を下げ、悲しげな顔を作って見せると大人たちはそうだそうだ、かわいそうだ、と言う。
「ああ、そういえばおとぎ話の中にそんな恋人たちがいたね。まぁ、一年に一回しかないダンスだ。目一杯楽しんでおいで」
両親に送り出されて、今年もテアは運命の王子さまの手を取りダンスを始めた。
タンタンタン
軽快にステップを踏みクルクルと回るテアと王子さま。一年に一度だけの二人のダンスを祝福して、二人の周りには絵本に出てきた妖精たちがいっぱい集まってきて、花を散らせてくれているに違いない。(見えないけど、きっとそ~。)
「綺麗だったよ、テア。」
踊り終わるとお父様とお母様、そのほかの親戚の大人たちがしきりに誉めてくれた。
「あ~あ、ほんとはもっとたくさん王子様と一緒に踊りたいのにぃ~。年に一回の誕生日パーティーだけじゃなくって、もっとたくさん会いたいよぉ~」
また一年もお別れなんてつらすぎる。悲しんでいるテアに、お父様が言った。
「クライス王子は年齢的にまだ夜会に出ることはないし、滅多にお茶会も開かないから今はなかなか会える機会がないが、なぁに。テアと王子は同い年だし、4月になれば王立魔法学園に通うことになるから毎日会えるさ」
「まぁ、そこには婚約者の彼も来るはずだけどな……」
お母様が何か付け足すように呟いたけど、新生活に夢を馳せるテアの耳には聞こえていなかった。
「ふへへへぇ~、そうなんだぁ、楽しみぃ~!」
(王子さまと毎日会える日が来るなんて。ラブラブ学園生活、想像するだけで幸せ~。)
甘い恋とトキメキに満ちた素晴らしい学園生活が始まるはず……だったのに。
テアの夢は、一人の人間によってめちゃくちゃに壊されてしまった。
楽しみにしていた入学式の日、黄色い歓声を聞いて入り口を見た。すごい人集りで、何も見えない。
(王子さまが来たのかな? テアの前で急に跪いて「愛しい姫に会えるこの日を心待ちにしていたよ」とかみんなの前で言われたらどぉしよ~。照れるぅ~。)
憧れの王子様を一目見ようとうじゃうじゃと入り口付近に集まる虫どもを押し退け、やっとの思いで最前列に到着する。(列は王子が通れるように親衛隊が整理していた。)
よし、この場所ならなんとかクライス王子からテアが見えるよね~、とワクワクしながら待機していたのに。現れた王子さまは一人じゃなかった。
「何アレ……。テアの王子さまに抱っこされているのは誰?」
(一緒にいるだけでも許せないのに、抱っこしてもらうなんて。テアもまだしてもらったことないのにぃ!)
こっそりと近くに寄ってそいつの顔をよく見てみたけど、知らない男だった。藍色のボサボサ髪に、ごつい黒ブチ眼鏡をかけた、とにかくもっさりとした雰囲気の野暮ったい男。
こんな奴、今まで出席したどのパーティーでもみたことがない。高位貴族の令息なら大体は知っているのに(あまりに地味すぎて覚えてないだけかもしれないけど。)、もしかして身分の低い人間かなぁ~? (だから頭がボサボサなのぉ?)
クラスに分かれた後の自己紹介で、モサ男の名前がキルナ=フェルライトだということが判明した。あんなに垢抜けないくせに、公爵家……。そこでようやく思い出す。
ーーコンヤクシャ
そういえば…王子には婚約者がいる、とお母様が言っていたっけ? 今まで誰も見たことがない婚約者。それがこいつ?
許せない
許せない
許せない
「婚約者なんて、そんなの絶対認められない。王子さまの相手は、世界一キレイなお姫様だって決まってるんだから!」
思わず出そうになった声を慌てて飲み込んだ。
(ダメダメぇ。ムカつきすぎて大きな声出しちゃうとこだったよぉ~。清楚でキレイ系のテアのイメージを崩さないように気をつけないといけないのにぃ。)
スーハースーハー
深呼吸して冷静になると、あんなモサ男を王子さまが好きになるわけないってすぐにわかった。そうだ、政略結婚ってやつだ。どうせ愛のない婚約に決まってる。嫌いな人と婚約なんてかわいそう。
「待っててね~。王子さまぁ」
テアが本物の愛を教えてあげる!
最初に見た時と変わらずキレイを集めたステキな王宮の大広間で、テアは大きなため息を吐いた。
「はぁ~あ、テアたちって、なんて可哀想なんだろぅ。まるで神様に引き離された恋人たちみたい~。ねぇ~え、お父様もそう思うでしょぉ~?」
目をウルウルさせて眉を下げ、悲しげな顔を作って見せると大人たちはそうだそうだ、かわいそうだ、と言う。
「ああ、そういえばおとぎ話の中にそんな恋人たちがいたね。まぁ、一年に一回しかないダンスだ。目一杯楽しんでおいで」
両親に送り出されて、今年もテアは運命の王子さまの手を取りダンスを始めた。
タンタンタン
軽快にステップを踏みクルクルと回るテアと王子さま。一年に一度だけの二人のダンスを祝福して、二人の周りには絵本に出てきた妖精たちがいっぱい集まってきて、花を散らせてくれているに違いない。(見えないけど、きっとそ~。)
「綺麗だったよ、テア。」
踊り終わるとお父様とお母様、そのほかの親戚の大人たちがしきりに誉めてくれた。
「あ~あ、ほんとはもっとたくさん王子様と一緒に踊りたいのにぃ~。年に一回の誕生日パーティーだけじゃなくって、もっとたくさん会いたいよぉ~」
また一年もお別れなんてつらすぎる。悲しんでいるテアに、お父様が言った。
「クライス王子は年齢的にまだ夜会に出ることはないし、滅多にお茶会も開かないから今はなかなか会える機会がないが、なぁに。テアと王子は同い年だし、4月になれば王立魔法学園に通うことになるから毎日会えるさ」
「まぁ、そこには婚約者の彼も来るはずだけどな……」
お母様が何か付け足すように呟いたけど、新生活に夢を馳せるテアの耳には聞こえていなかった。
「ふへへへぇ~、そうなんだぁ、楽しみぃ~!」
(王子さまと毎日会える日が来るなんて。ラブラブ学園生活、想像するだけで幸せ~。)
甘い恋とトキメキに満ちた素晴らしい学園生活が始まるはず……だったのに。
テアの夢は、一人の人間によってめちゃくちゃに壊されてしまった。
楽しみにしていた入学式の日、黄色い歓声を聞いて入り口を見た。すごい人集りで、何も見えない。
(王子さまが来たのかな? テアの前で急に跪いて「愛しい姫に会えるこの日を心待ちにしていたよ」とかみんなの前で言われたらどぉしよ~。照れるぅ~。)
憧れの王子様を一目見ようとうじゃうじゃと入り口付近に集まる虫どもを押し退け、やっとの思いで最前列に到着する。(列は王子が通れるように親衛隊が整理していた。)
よし、この場所ならなんとかクライス王子からテアが見えるよね~、とワクワクしながら待機していたのに。現れた王子さまは一人じゃなかった。
「何アレ……。テアの王子さまに抱っこされているのは誰?」
(一緒にいるだけでも許せないのに、抱っこしてもらうなんて。テアもまだしてもらったことないのにぃ!)
こっそりと近くに寄ってそいつの顔をよく見てみたけど、知らない男だった。藍色のボサボサ髪に、ごつい黒ブチ眼鏡をかけた、とにかくもっさりとした雰囲気の野暮ったい男。
こんな奴、今まで出席したどのパーティーでもみたことがない。高位貴族の令息なら大体は知っているのに(あまりに地味すぎて覚えてないだけかもしれないけど。)、もしかして身分の低い人間かなぁ~? (だから頭がボサボサなのぉ?)
クラスに分かれた後の自己紹介で、モサ男の名前がキルナ=フェルライトだということが判明した。あんなに垢抜けないくせに、公爵家……。そこでようやく思い出す。
ーーコンヤクシャ
そういえば…王子には婚約者がいる、とお母様が言っていたっけ? 今まで誰も見たことがない婚約者。それがこいつ?
許せない
許せない
許せない
「婚約者なんて、そんなの絶対認められない。王子さまの相手は、世界一キレイなお姫様だって決まってるんだから!」
思わず出そうになった声を慌てて飲み込んだ。
(ダメダメぇ。ムカつきすぎて大きな声出しちゃうとこだったよぉ~。清楚でキレイ系のテアのイメージを崩さないように気をつけないといけないのにぃ。)
スーハースーハー
深呼吸して冷静になると、あんなモサ男を王子さまが好きになるわけないってすぐにわかった。そうだ、政略結婚ってやつだ。どうせ愛のない婚約に決まってる。嫌いな人と婚約なんてかわいそう。
「待っててね~。王子さまぁ」
テアが本物の愛を教えてあげる!
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