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第5章

第219話 第一王子の誕生日パーティー③

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「キルナ、大丈夫か? 今日は招待客全員と一度は挨拶しなければならない。疲れたら座っていいからな」
「大丈夫、まだ疲れてないよ」

挨拶がやっと終わりに近づいた頃、真っ白の肌に水をたたえたような清涼感のある青い色の瞳、真っ赤な唇。腰まで届くツヤツヤの髪をなびかせ、がやってきた。微笑む姿はフリルと宝石をたっぷり使った煌びやかな服も相まって他を圧倒する美しさだ。

ーー水の妖精テア=リメット

やっぱり来たんだな、と僕は警戒しながら彼と彼の父?(か母?)の動きを観察した。(テアには気をつけろ、とクライスが言っていた。誘拐事件に関係しているかもしれないのだって。)

「クライス殿下、21歳のお誕生日おめでとうございます。うちのテアが今日のパーティーを楽しみにしておりましてね。朝早くからめかし込んで大変でした」

「もぅ、お父様ったらぁ~、それは内緒にしててよぉ~。そんなことよりぃ、クライス様のために、と~っておきのプレゼントを用意したんですぅ~」

「ああ、ありがとう」

テンションの高い親子の会話に動じず、いつもと同じ態度で返事をするクライス。

「今すぐ開けてみてください! すっごいものなのでびっくりすると思いますよぉ!」
「……開けてくれ」

指示に従ってロイルが箱を開けると、中から高級感のある青いベルベットのジュエリーケースが出てくる。さらにそれを開くと、素振りの時に聞かされた通り、大きなブルーサファイアのピアスが一対鎮座しているのが見えた。

クライスはそのピアスを手にとってまじまじと見つめる。

「魔宝石……か」

「それはテア=サファイアと言ってぇ、すぅっごく貴重な宝石なんですぅ。テアのピアスとお揃いなんですよ。絶対クライス王子に似合います! 今、お付けしますね~」

(そういえば、クライスってピアスの穴空いてるのかしら? プラチナブロンドの髪で隠れていて今は耳が見えない。美形の王子様だもの、絶対似合うだろうな。でも、嫌だ。テアとお揃いのピアスなんて付けて欲しくない……)

光を反射し神秘的な輝きを放つ大粒のブルーサファイアは、この世のものとは思えなくらい美しい。

意匠を凝らした素晴らしいピアスを見ていると僕の頭はグルグルとしてくる。
せっかくもらったプレゼントを「付けないで!」という権利は僕にはない。どうしたらいいのだろぅ。

頭がぼうっとしてくる。テアはとても綺麗な子だ。クライスは優しくて頼り甲斐があって格好良くて。お似合いの二人だ。邪魔なんてできない。僕は…僕は…二人を祝福すべきで……。

青い輝きがチカチカと目に飛び込んでくる。頭がグルグルする。はぁ、はぁ、となぜか胸が苦しくなってきた。呼吸がしにくい。頭が痛い。

目の前が、青い。

かもしれな……。



「キルナ!!!」



「っ……」

気づくとクライスが僕を腕の中に抱き込んでいた。彼の胸に顔を埋める形になって、目の前は真っ暗だ。

「何も見るな。ゆっくり息を吸え。大丈夫だ」

言われた通り呼吸をしながらしばらくそうしていると、頭はまだぼうっとしているけれど、痛くはなくなった。胸も苦しくない。

「ごめん、もうだいじょぶ。僕に構わず続けて」

(何だったんだろう。少し、疲れたのかな?)

椅子に座らされ、僕はぼんやりとロイルに手渡された水を飲みながら彼らの会話を聞く。挨拶の邪魔をしてしまうなんて……失敗してしまった。

無邪気なテアの声が聞こえた。

「その方って、本当にあのキルナ様、なんですかぁ?」

僕のことを話しているみたい。

「そうだが、何か?」
「いえ別に~。いつもと見た目が違うので~ちょっと気になっただけですぅ~。それより、ピアス気に入っていただけましたかぁ~?」

「ああ、たしかにこれは貴重なものだな。だが、なぜこのサファイアが貴重なのか、お前は知っているか?」

「え?」

突然の質問にテアが首を傾げる。

「ドラゴンが住みついて、今はもう立ち入ることができないはずの鉱山、ビビッド宝石鉱山にしかないものからだ。希少だから価値が高い」
「へぇ~、そうなんですかぁ、知りませんでした~」

てへっと笑うテアは、なんだか抜けていて可愛らしい印象を与える。これも彼のモテる要素の一つなのかもしれない。

「もうほとんど流通しなくなっていたのに、ここ最近リメット家の所有するジュエリーショップで販売が再開されたと聞く。ドラゴンがいる鉱山でなぜリメット侯爵家だけが採掘できるのか、不思議だと思わないか? 俺はとても興味深いと思っている。リメット侯爵、、ぜひ教えていただきたい」

侯爵はいつの間にか蒼白になって震えていた。

「なぜ……かといいますと……、いや、色々事情がありましてですね。超重要機密情報ですのでお教えできないのです。申し訳ございません……」

冷や汗をだらだら流しながらしどろもどろになって言葉を濁すリメット侯爵。どうみてもやましいことがある、という雰囲気を全然隠せていない。

「そうですか。残念です」

「さ、さあ、テア。次の方がお待ちだ。クライス王子、我々はこの辺で……キルナ様もお疲れのようですし……」

「えぇ~!? もっともっとお話ししたいのにぃ~」とごねるテアを連れてそそくさと消えていく侯爵の後ろ姿を見つめるクライスは、笑っているのに魔王みたいな恐ろしいオーラを放っていた。
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