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第5章
第214話 甘えん坊の王子様②
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ガキッ!!!
やるからには全力で行くぞと力一杯打ち込んだのだけど、片手で跳ね返されてしまう。何度振り下ろしても、全部簡単にいなされ、腕はじーんと返された衝撃で痛みを感じ、ポタポタと顎を伝って汗が滴り落ちた。
「くっ……。はぁ、はぁ、まだまだぁ!」
相手があまりにも余裕なのが悔しくて、もっともっとと力を込める。動きが単調にならないようにいろんな方面から打ち込んでみるのだけど……。
(何これ、何これ!? クライスさっきからほとんど動いてない。しかもすごい力。こんなにたくさん攻撃してるのにびくともしないなんて……。)
「フッ、キルナの剣は素直で可愛いな」
(剣が…可愛い?)
汗ひとつかかず訳のわからないことを呟く彼に、ビュッっと横に払った木剣が避けられた。可愛い…はわかんないけど、剣が素直だというのは多分単純な動きだと貶されてるのだろうと考えて、フェイントをいくつか入れてみる。だけど、それもうまくはいかず、すぐに見破られ避けられてしまった。
「ぜぇぜぇ、はぁ、はぁ…」
やばい、息が上がってきた。もう腕が痛くて体力も限界に近い……。まだ全然いいところを見てもらってないのに。
(こんな小手先の技は効かないんだ、やっぱり正攻法でいこう。)
諦めずにがむしゃらに正面から立ち向かっていく、と彼は少し動いて、僕の渾身の一撃を素手で受け止めた。
「っ!? なん…で、手で……」
そんなことするとは思っていなくて勢いは止められず、本気で最後まで振り下ろしてしまう。パシっと肌を打つ音がし、肉を叩いた感触が伝わってきた。僕は焦って持っていた木剣を思わず手から離し、僕の剣を握ったままの彼の手を凝視した。
(な、なんてこと! すぐに手当てしなくちゃ)
だけど彼は平気な顔をしている。それどころか、手に持っていた木剣を地面に置き、
「もうお前の力はわかった。これくらいにしておこう。これ以上やると、キルナの腕が痛む」
と、そっと僕を引き寄せて、労わるように僕の腕を撫で始めた。力を込め過ぎて少し熱を持った二の腕や肩を氷の魔法で冷やしながらナデナデされると、とっても心地いい。でも、そんな場合じゃないよね。
「あぁ…僕…ごめん…ごめんなさい。クライス」
僕は…なんてことをしてしまったのだろう。クライスに怪我をさせるなんて! ロイルやギアなら途中で止められたのだろうけど、僕は…下手くそすぎて…反応できなかった。そのまま彼の手を叩いてしまった。震える手で彼の手を掴む。声まで情けないくらい震えてしまう。
「は、早く…手のひらを…見せて…」
「ん? なぜそんなに震えている? 別に、何ともないぞ」
「え、そんな訳……あ、ほんとだ……なんで?」
絶対大怪我をしていると思ったのに、無傷だった。そこには自分の手とは比べ物にならないくらい丈夫な手の平があるだけだ。ムニムニと触ってみるとその頑丈さがわかる。指はスッと長く美しい形だけれど、剣だこがあり男らしい手だ。
「すごい硬いね。大きくて立派!! 羨ましいな。僕もこんな風になれたらいいのに」
「あ、ああ、まぁ、練習していたらそのうちキルナの手も、今よりもっと硬くなる……」
そうなったらいいなぁ、と自分のまだまだ柔らかくて頼りない手を眺める。さっきまで涼しい顔をしていたクライスは、なぜかちょっと顔を赤らめ、休憩してから一緒に素振りをしながらおさらいをしようと提案してきた。
やるからには全力で行くぞと力一杯打ち込んだのだけど、片手で跳ね返されてしまう。何度振り下ろしても、全部簡単にいなされ、腕はじーんと返された衝撃で痛みを感じ、ポタポタと顎を伝って汗が滴り落ちた。
「くっ……。はぁ、はぁ、まだまだぁ!」
相手があまりにも余裕なのが悔しくて、もっともっとと力を込める。動きが単調にならないようにいろんな方面から打ち込んでみるのだけど……。
(何これ、何これ!? クライスさっきからほとんど動いてない。しかもすごい力。こんなにたくさん攻撃してるのにびくともしないなんて……。)
「フッ、キルナの剣は素直で可愛いな」
(剣が…可愛い?)
汗ひとつかかず訳のわからないことを呟く彼に、ビュッっと横に払った木剣が避けられた。可愛い…はわかんないけど、剣が素直だというのは多分単純な動きだと貶されてるのだろうと考えて、フェイントをいくつか入れてみる。だけど、それもうまくはいかず、すぐに見破られ避けられてしまった。
「ぜぇぜぇ、はぁ、はぁ…」
やばい、息が上がってきた。もう腕が痛くて体力も限界に近い……。まだ全然いいところを見てもらってないのに。
(こんな小手先の技は効かないんだ、やっぱり正攻法でいこう。)
諦めずにがむしゃらに正面から立ち向かっていく、と彼は少し動いて、僕の渾身の一撃を素手で受け止めた。
「っ!? なん…で、手で……」
そんなことするとは思っていなくて勢いは止められず、本気で最後まで振り下ろしてしまう。パシっと肌を打つ音がし、肉を叩いた感触が伝わってきた。僕は焦って持っていた木剣を思わず手から離し、僕の剣を握ったままの彼の手を凝視した。
(な、なんてこと! すぐに手当てしなくちゃ)
だけど彼は平気な顔をしている。それどころか、手に持っていた木剣を地面に置き、
「もうお前の力はわかった。これくらいにしておこう。これ以上やると、キルナの腕が痛む」
と、そっと僕を引き寄せて、労わるように僕の腕を撫で始めた。力を込め過ぎて少し熱を持った二の腕や肩を氷の魔法で冷やしながらナデナデされると、とっても心地いい。でも、そんな場合じゃないよね。
「あぁ…僕…ごめん…ごめんなさい。クライス」
僕は…なんてことをしてしまったのだろう。クライスに怪我をさせるなんて! ロイルやギアなら途中で止められたのだろうけど、僕は…下手くそすぎて…反応できなかった。そのまま彼の手を叩いてしまった。震える手で彼の手を掴む。声まで情けないくらい震えてしまう。
「は、早く…手のひらを…見せて…」
「ん? なぜそんなに震えている? 別に、何ともないぞ」
「え、そんな訳……あ、ほんとだ……なんで?」
絶対大怪我をしていると思ったのに、無傷だった。そこには自分の手とは比べ物にならないくらい丈夫な手の平があるだけだ。ムニムニと触ってみるとその頑丈さがわかる。指はスッと長く美しい形だけれど、剣だこがあり男らしい手だ。
「すごい硬いね。大きくて立派!! 羨ましいな。僕もこんな風になれたらいいのに」
「あ、ああ、まぁ、練習していたらそのうちキルナの手も、今よりもっと硬くなる……」
そうなったらいいなぁ、と自分のまだまだ柔らかくて頼りない手を眺める。さっきまで涼しい顔をしていたクライスは、なぜかちょっと顔を赤らめ、休憩してから一緒に素振りをしながらおさらいをしようと提案してきた。
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