70 / 286
第5章
第206話 クライスSIDE 小動物たちの会話
しおりを挟む
一通り調査報告を聞き、部屋に戻ると、キルナのベッドでリリーが眠っていた。オレンジの髪の毛をよしよしと撫でている彼が俺に気付き、おかえりと言う。
「ああ、ただいま。どうだ? 身体はもう大丈夫か?」
「ん、いっぱい寝てすっきりしたよ。もう元気」
「そうか、よかった。リリーは…寝てしまったんだな。まぁ無理もない。お前がいなくなった後、護衛騎士の言葉も聞かず随分探し回っていたようだから」
「そう…だったの」
「かなり疲れている様子だったから休めと言ったのだが、どうしてもキルナから離れたくないと言うから、そのままにしておいた」
「そか。たくさん、探してくれたんだね。リリー。ありがと…」
キルナは真珠のような涙を一粒ぽろんと零し、それを拭き取ろうともせず、眠るリリーを見つめていた。
リリーはそれから程なくして目覚めた。
俺が鉱山から眠るキルナを抱えて寮に戻った時、リリーはひどい顔色をしていた。キルナの様子を事細かく聞きたがり、泣きながら彼にしがみつき震えていた。そんな状態だったリリーだが、ゆっくり眠り、起きた時にキルナがまだ手を握っていたことに安心したのか、今は血色も良く、気持ちも安定したようにみえる。
「メガネ、ちゃんといる。よかった」
「ふふ、もういなくならないよ。だいじょぶ」
憂うような眼差しをキルナに向け、リリーがポツリと言った。
「メガネ、転移魔法で攫われたんだね。僕、あの時どうしてもっと強くメガネの手を握ってなかったのかってずっと後悔してて……」
落ち込むリリーにキョトンとしながらキルナが言う。
「後悔なんてしなくていいのに。僕はね、あの時手を離して、リリーを巻き込まずに済んだことが今回の自分の行動の中で一番よかったことだと思ってるの」
「どうせ攫われるなら僕も連れて行ってほしかったよ。次は僕も連れてってよね」
リリーは少し声を荒げ、頬を膨らませて怒っている。キルナはまさか、あんなとこにリリーを連れていくなんて、とんでもないよ、無理無理無理、と首を振る。次だって自分一人で行く。リリーは絶対連れて行かないから、と宣言している。
次? こいつらはなんの話をしているんだ? 俺からしてみたらあんな場所にこの小動物たちを送り込むのは一人でも二人でももう二度とごめんなのだが。
「一人で置いて行かれるなんて嫌。絶対行く」
「ダメだよ!!! なんかね気持ちの悪い変な男がいたから。あんな奴にリリーを見せたら、きっと、お、犯されちゃったに違いないよ。うぅ、思い出したらゾワゾワしてきた!」
ブルブルッと身震いするキルナ。
(犯されるだと!?)
その男について俺は聞きたい。リリーは明日も来るよ、と言い残し部屋に戻って行った。
「キルナ、その男のことだが……」
(お前、あいつに何をされたんだ?)
「ん、その前にお風呂に行きたいのだけど」
(いかがわしいことをされたのか?)
「あ、ああ、それは構わないが」
(あの体液の正体はなんなんだ?)
色々聞きたいが、せっかく元気になったキルナに嫌なことを思い出させたくない。どうしたらいい?
俺はもやもやした気持ちをどうしようもできないまま、大浴場に行くことになった。
「ああ、ただいま。どうだ? 身体はもう大丈夫か?」
「ん、いっぱい寝てすっきりしたよ。もう元気」
「そうか、よかった。リリーは…寝てしまったんだな。まぁ無理もない。お前がいなくなった後、護衛騎士の言葉も聞かず随分探し回っていたようだから」
「そう…だったの」
「かなり疲れている様子だったから休めと言ったのだが、どうしてもキルナから離れたくないと言うから、そのままにしておいた」
「そか。たくさん、探してくれたんだね。リリー。ありがと…」
キルナは真珠のような涙を一粒ぽろんと零し、それを拭き取ろうともせず、眠るリリーを見つめていた。
リリーはそれから程なくして目覚めた。
俺が鉱山から眠るキルナを抱えて寮に戻った時、リリーはひどい顔色をしていた。キルナの様子を事細かく聞きたがり、泣きながら彼にしがみつき震えていた。そんな状態だったリリーだが、ゆっくり眠り、起きた時にキルナがまだ手を握っていたことに安心したのか、今は血色も良く、気持ちも安定したようにみえる。
「メガネ、ちゃんといる。よかった」
「ふふ、もういなくならないよ。だいじょぶ」
憂うような眼差しをキルナに向け、リリーがポツリと言った。
「メガネ、転移魔法で攫われたんだね。僕、あの時どうしてもっと強くメガネの手を握ってなかったのかってずっと後悔してて……」
落ち込むリリーにキョトンとしながらキルナが言う。
「後悔なんてしなくていいのに。僕はね、あの時手を離して、リリーを巻き込まずに済んだことが今回の自分の行動の中で一番よかったことだと思ってるの」
「どうせ攫われるなら僕も連れて行ってほしかったよ。次は僕も連れてってよね」
リリーは少し声を荒げ、頬を膨らませて怒っている。キルナはまさか、あんなとこにリリーを連れていくなんて、とんでもないよ、無理無理無理、と首を振る。次だって自分一人で行く。リリーは絶対連れて行かないから、と宣言している。
次? こいつらはなんの話をしているんだ? 俺からしてみたらあんな場所にこの小動物たちを送り込むのは一人でも二人でももう二度とごめんなのだが。
「一人で置いて行かれるなんて嫌。絶対行く」
「ダメだよ!!! なんかね気持ちの悪い変な男がいたから。あんな奴にリリーを見せたら、きっと、お、犯されちゃったに違いないよ。うぅ、思い出したらゾワゾワしてきた!」
ブルブルッと身震いするキルナ。
(犯されるだと!?)
その男について俺は聞きたい。リリーは明日も来るよ、と言い残し部屋に戻って行った。
「キルナ、その男のことだが……」
(お前、あいつに何をされたんだ?)
「ん、その前にお風呂に行きたいのだけど」
(いかがわしいことをされたのか?)
「あ、ああ、それは構わないが」
(あの体液の正体はなんなんだ?)
色々聞きたいが、せっかく元気になったキルナに嫌なことを思い出させたくない。どうしたらいい?
俺はもやもやした気持ちをどうしようもできないまま、大浴場に行くことになった。
232
お気に入りに追加
10,228
あなたにおすすめの小説
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。