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第5章
第205話 クライスSIDE 守りの魔法※
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※痛々しい表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
魔獣を切り伏せながら奥へ進むと、この山の主、ビビッドドラゴンの姿があった。
ドラゴンは俺と目が合うや否やさっとその赤い目を伏せ跪いた。彼らは高レベルの鑑定魔法が使える。自分と相手の強さを正確に測り、自分よりも強いものにはこうして恭順の意を示す。
(キルナ…どこだ? もっと奥か?)
ドラゴンの魔力が強すぎてキルナの気配が辿れない。彼を探して目を凝らした時だった。
キラキラキラ
ドラゴンの先の闇の中に、見慣れたアイスブルーの光が見えた。チョーカーに付与した守りの魔法が発動している? 背筋に緊張が走る。キルナが危ない!
『助けて、クライス』
頭の中に、彼の声が聞こえた。
光で照らす時間はなかった。彼を求めて全速力で暗闇を駆ける。すると、ぽすん、と何か温かく柔らかいものが胸に飛び込んできた。ふわりと漂う甘い香り、魔宝石から零れる光、これは……!
(見つけた!!!)
彼を狙う剣を弾き飛ばし、その剣の持ち主を蹴り飛ばす。氷魔法で相手を凍らせ動きを封じ、周囲の魔獣を氷漬けにすると、急いで坑内を照らした。彼は眩しそうに腕で光から目を守っている。そろそろと開いた金色の瞳に、俺の姿が映った。
「クライス……?」
「キルナ、よかった。やっと会えた」
俺は愛しい愛しい婚約者の体を、ぎゅっと抱きしめた。
甘い魔力を伴った血の匂い。これは魔獣ではなく、キルナの血の匂いだ。はっとして彼を見ると手首に怪我をしているのがわかった。
光の中でよく観察すると、もともと真っ白な肌が赤紫色に変色している部分がある。ぐるりと手首を一周するそれは、どうやら縄の跡のようだ。そのまわりを何か鋭い刃物で切ったような細かな傷が取り巻いている。一つ一つの傷自体は小さいが、抉れていたり、深くまで傷ついていたり、しかもそれが縄に擦れることで余計に酷くなっていて、かなり痛々しい。
おそらくーー縛られていて、自分で縄を切ったのだろう。
他にも怪我はないかと調べると、ショートパンツからスラリと伸びる白い足からも所々血が流れている。石のかけらや泥などが付着し汚れている膝は、擦り傷の上にさらなる擦り傷がある。
彼は光魔法が使えないから、この岩だらけの暗い坑内で視界も足場も悪い中、何度も転んだに違いない。
この傷はキルナが頑張って悪意あるものから逃げた証拠だ。こんな小さな身体で…こんな真っ暗な場所で…たった一人で。
どういった傷か本人の口から聞こうとしたが、「大した怪我じゃないから大丈夫」といつものようにさらっと流されてしまう。もっと状態を聞きたいのに、それよりも彼は返り血を浴びた俺のことが気になるらしく「大丈夫なの? どこか怪我してるの?」と金の瞳をうるうるさせながら血のついた俺の胸元を凝視していた。
こんな時まで人の心配をするなんて……。攫われて怪我をして怖い思いをした。普通ならここも痛いあそこも痛い早く治せと騒ぐところじゃないのか? 彼の底なしの優しさに胸が熱くなった。同時に我慢強過ぎる彼に不安を覚える。
(平気そうに振る舞っているが痛くないはずがない。一刻も早く、キルナの傷を治さなければ。)
治療が終わる頃になると、彼は座ったままうとうとしはじめた。回復術の温かさと緊張が緩んだせいだろう。こんなにボロボロになっても諦めずに逃げていたんだ。疲れていて当然だ。
よく頑張ったな、と頭を撫でると彼は気持ちよさそうに目を細め、眠さでとろとろになった目をこちらに向けた。何か言いたいことがあるらしく、でも思い出せないのかコテンと首を傾げう~~ん。と考えた末、一言。
「ねぇ、クライス、会いたかった」
キラキラと輝く宝石のような美しい言葉を残し、彼は目を閉じた。くたりと力の抜けた体を慌てて抱き抱える。
「会いたかった……だって?」
なんて破壊力のある言葉だろう。心臓がドキドキする。自分の頬がだらしなく緩むのを感じた。こんな時に不謹慎だが、死ぬほど嬉しい。キルナが自分から俺を求めてくれるなんて!
だがそれほど怖い思いをし追い詰められていた、ということでもある。魔獣とドラゴンと剣を持った男がいる真っ暗な坑内で一人で逃げていたんだから怖いに決まっている。
氷漬けになり転がっている男に目を向けた。さっきはキルナのことに夢中で気づかなかったが、何かおかしい。
(ん? この青フードの男、なぜズボンを履いていないんだ? まさか!!!キルナを犯すつもりだったのか!?)
性的な暴力を受けた可能性に気づき、眠っているキルナの体を念入りに調べる。怪我を調べる先ほどの鑑定とは違い、魔力の痕跡を重点的に調べるための鑑定を行う。すると、彼の手の平や手首に下着男と同じ風属性の魔力を伴った体液(何かは不明)がべったりとついていることがわかった。
(体液……もしや、これは……。キルナの体になんというものを!? )
沸々と怒りが湧いてきて、止まらない。縛って動けなくしたキルナに……こいつは……自分の体液を……。
『まずはその手を貸してもらおうか…。ぐへへへへ、オメエの手は白くてすべすべで気持ちがいいなあ。俺のちんぽをもっと強く扱け。ああ、いいぞ、出そうだ。オメエのキレイな手に全部かけてぐちゃぐちゃに汚してやるからな、受け止めろ』
『やだ…そんなの…気持ち悪いよ! もぅ…やめてぇ…』
あらゆる妄想が頭の中を駆け巡る。さっきはキルナに剣を向けているのを見て、男の剣を弾き氷漬けにして動きを止めた。だが……。
ーー心臓を突き刺してトドメを刺すべきだった!!!
今からでも遅くないか、と剣を握る。だが……。ぶるぶると頭を振った。
いや、ダメだ。そんなことをしたら血の苦手なキルナを怖がらせてしまう。青いフードの連中の狙いをこいつから聞き出す必要もあるし……。落ち着くんだ、俺。まだ殺してはいけない。
父様が寄越した魔法騎士と魔術師たちが坑内の詮索をし、状況を確認している。ギアの父、ギラも来たので、後のことは彼らに任せ、俺はなんとか殺意を抑えてキルナと共に寮に帰ることにした。
魔獣を切り伏せながら奥へ進むと、この山の主、ビビッドドラゴンの姿があった。
ドラゴンは俺と目が合うや否やさっとその赤い目を伏せ跪いた。彼らは高レベルの鑑定魔法が使える。自分と相手の強さを正確に測り、自分よりも強いものにはこうして恭順の意を示す。
(キルナ…どこだ? もっと奥か?)
ドラゴンの魔力が強すぎてキルナの気配が辿れない。彼を探して目を凝らした時だった。
キラキラキラ
ドラゴンの先の闇の中に、見慣れたアイスブルーの光が見えた。チョーカーに付与した守りの魔法が発動している? 背筋に緊張が走る。キルナが危ない!
『助けて、クライス』
頭の中に、彼の声が聞こえた。
光で照らす時間はなかった。彼を求めて全速力で暗闇を駆ける。すると、ぽすん、と何か温かく柔らかいものが胸に飛び込んできた。ふわりと漂う甘い香り、魔宝石から零れる光、これは……!
(見つけた!!!)
彼を狙う剣を弾き飛ばし、その剣の持ち主を蹴り飛ばす。氷魔法で相手を凍らせ動きを封じ、周囲の魔獣を氷漬けにすると、急いで坑内を照らした。彼は眩しそうに腕で光から目を守っている。そろそろと開いた金色の瞳に、俺の姿が映った。
「クライス……?」
「キルナ、よかった。やっと会えた」
俺は愛しい愛しい婚約者の体を、ぎゅっと抱きしめた。
甘い魔力を伴った血の匂い。これは魔獣ではなく、キルナの血の匂いだ。はっとして彼を見ると手首に怪我をしているのがわかった。
光の中でよく観察すると、もともと真っ白な肌が赤紫色に変色している部分がある。ぐるりと手首を一周するそれは、どうやら縄の跡のようだ。そのまわりを何か鋭い刃物で切ったような細かな傷が取り巻いている。一つ一つの傷自体は小さいが、抉れていたり、深くまで傷ついていたり、しかもそれが縄に擦れることで余計に酷くなっていて、かなり痛々しい。
おそらくーー縛られていて、自分で縄を切ったのだろう。
他にも怪我はないかと調べると、ショートパンツからスラリと伸びる白い足からも所々血が流れている。石のかけらや泥などが付着し汚れている膝は、擦り傷の上にさらなる擦り傷がある。
彼は光魔法が使えないから、この岩だらけの暗い坑内で視界も足場も悪い中、何度も転んだに違いない。
この傷はキルナが頑張って悪意あるものから逃げた証拠だ。こんな小さな身体で…こんな真っ暗な場所で…たった一人で。
どういった傷か本人の口から聞こうとしたが、「大した怪我じゃないから大丈夫」といつものようにさらっと流されてしまう。もっと状態を聞きたいのに、それよりも彼は返り血を浴びた俺のことが気になるらしく「大丈夫なの? どこか怪我してるの?」と金の瞳をうるうるさせながら血のついた俺の胸元を凝視していた。
こんな時まで人の心配をするなんて……。攫われて怪我をして怖い思いをした。普通ならここも痛いあそこも痛い早く治せと騒ぐところじゃないのか? 彼の底なしの優しさに胸が熱くなった。同時に我慢強過ぎる彼に不安を覚える。
(平気そうに振る舞っているが痛くないはずがない。一刻も早く、キルナの傷を治さなければ。)
治療が終わる頃になると、彼は座ったままうとうとしはじめた。回復術の温かさと緊張が緩んだせいだろう。こんなにボロボロになっても諦めずに逃げていたんだ。疲れていて当然だ。
よく頑張ったな、と頭を撫でると彼は気持ちよさそうに目を細め、眠さでとろとろになった目をこちらに向けた。何か言いたいことがあるらしく、でも思い出せないのかコテンと首を傾げう~~ん。と考えた末、一言。
「ねぇ、クライス、会いたかった」
キラキラと輝く宝石のような美しい言葉を残し、彼は目を閉じた。くたりと力の抜けた体を慌てて抱き抱える。
「会いたかった……だって?」
なんて破壊力のある言葉だろう。心臓がドキドキする。自分の頬がだらしなく緩むのを感じた。こんな時に不謹慎だが、死ぬほど嬉しい。キルナが自分から俺を求めてくれるなんて!
だがそれほど怖い思いをし追い詰められていた、ということでもある。魔獣とドラゴンと剣を持った男がいる真っ暗な坑内で一人で逃げていたんだから怖いに決まっている。
氷漬けになり転がっている男に目を向けた。さっきはキルナのことに夢中で気づかなかったが、何かおかしい。
(ん? この青フードの男、なぜズボンを履いていないんだ? まさか!!!キルナを犯すつもりだったのか!?)
性的な暴力を受けた可能性に気づき、眠っているキルナの体を念入りに調べる。怪我を調べる先ほどの鑑定とは違い、魔力の痕跡を重点的に調べるための鑑定を行う。すると、彼の手の平や手首に下着男と同じ風属性の魔力を伴った体液(何かは不明)がべったりとついていることがわかった。
(体液……もしや、これは……。キルナの体になんというものを!? )
沸々と怒りが湧いてきて、止まらない。縛って動けなくしたキルナに……こいつは……自分の体液を……。
『まずはその手を貸してもらおうか…。ぐへへへへ、オメエの手は白くてすべすべで気持ちがいいなあ。俺のちんぽをもっと強く扱け。ああ、いいぞ、出そうだ。オメエのキレイな手に全部かけてぐちゃぐちゃに汚してやるからな、受け止めろ』
『やだ…そんなの…気持ち悪いよ! もぅ…やめてぇ…』
あらゆる妄想が頭の中を駆け巡る。さっきはキルナに剣を向けているのを見て、男の剣を弾き氷漬けにして動きを止めた。だが……。
ーー心臓を突き刺してトドメを刺すべきだった!!!
今からでも遅くないか、と剣を握る。だが……。ぶるぶると頭を振った。
いや、ダメだ。そんなことをしたら血の苦手なキルナを怖がらせてしまう。青いフードの連中の狙いをこいつから聞き出す必要もあるし……。落ち着くんだ、俺。まだ殺してはいけない。
父様が寄越した魔法騎士と魔術師たちが坑内の詮索をし、状況を確認している。ギアの父、ギラも来たので、後のことは彼らに任せ、俺はなんとか殺意を抑えてキルナと共に寮に帰ることにした。
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