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第5章
第202話 悪役令息を包む光
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奴に再び手首を握られ壁に両手を縫い付けられる。
はぁ、はぁと興奮した男の顔が僕の唇に近づいてきて……。
(助けて! クライス!)
できる限り男から顔を背けながら、心の中で叫んだ時だった。チョーカーに嵌められた宝石からアイスブルーの光が漏れ出すと同時に、「ぐはぁ」と男が呻き声を上げて吹っ飛んでいき岩の壁にぶつかって転がった。硬い岩がガラガラと崩れ、その衝撃の強さを物語っている。気を失ったのか、男はそのまま動かない。
キラキラキラ
輝くアイスブルーの光に共鳴するように、岩のあちこちに埋まっている鉱石がピカピカと青く輝き出す。
「何が起きているの?」
「まほうせきのまりょくに~こうせきがはんのうしてるんだよ~。きれい~」
鉱石の上に座りその光を見て喜ぶ妖精に気を取られていると、目を覚ました変態男が喚き出した。
「ぐ、このやろぉ! もう許さねぇ、殺してやる!」
立ち上がった男がこちらにすごい勢いで走ってくる。手には大きな剣。やばい! と逃げようとした体がぽすんと正面にある何かに当たった。あったかくて、逞しいこれは……。
キィンという音に続き、ガシャと何かが落ちる金属音。鉱石と首の宝石が光っているとはいえ、まだまだ坑内は暗くてよく見えない。どう…なっているのだろ。
「ぐあああああああああ」
と男の悲鳴が上がった。そして次の瞬間、ぱあああっと坑内に光が満ち、辺りがはっきりと見えるようになった。
「ん、まぶしっ」
久しぶりの光に目が慣れていなくて僕は思わず腕で両目を覆う。でもまたすぐに逃げなくちゃ、と眩しいのを我慢して目を開いた。すると、信じられないことに、すぐそこに、目の前に彼がいた。チョーカーの宝石から放たれる光の色と同じ色の瞳が、僕を見つめている。
「クライス……?」
「キルナ、よかった。やっと会えた」
僕がさっきぶつかったのはクライスの胸板だったみたい。彼はそのままぎゅうっと僕の体を抱きしめた。
ずうっと会いたいと祈り続けた彼の腕に包まれ、僕はこの上なく幸福な気持ちを味わっていた。ずっとこうしていたい……。でもダメだ。ここには変態男と血吸い蝙蝠とドラゴンがいる。このままここにいると危ない!
(こんなことしている場合じゃない。)
と思ったのだけど。天井には蝙蝠が一匹もいない。おかしいな、と思って探すと、地面にたくさんの蝙蝠が氷漬けになって転がっていた。さっきの変態男も一緒に氷漬けになっている。
「な、なんで……?」
間抜けな声が出た。
「ああ、氷の魔法だ。ここらで火や水を使うと危ないからな。殺してはいないから一定時間が経つと普通に動き出すが」
「すごい、あんなにいたコウモリを全部氷漬けにしたの?」
クライスの魔法は凄すぎていつも僕の想像のはるか上をいく。
「あぁ、でも、大変なの。ここにはドラゴンがいるんだよ!!」
あれを倒さないと出られないのじゃないかしら。どうしよう。ここはいっそ、僕が囮になってその間にクライスに逃げてもらおうか……。痛いのは嫌だけど、クライスが食べられるよりずっといい。最後に彼に会えたのだから悔いはない。
そこまで考え、あれ? と思った。
「そういえばクライスは入り口から来たのでしょ? どうやってアレの前を通ったの!?」
「アレ? ああ、ビビッドドラゴンのことか。ドラゴンは賢いから自分より強いものを襲ったりしない。大丈夫だ」
えっと、ドラゴンより強い……ってどういうこと? 人間離れしているとは常々思っていたけど、クライスって一体……。言葉を失っている僕の手首を見て彼は顔を顰めた。そのまま無言で服を捲って他に傷がないかテキパキと調べる彼を、やっぱりお医者さんみたいだな~と思いながらぼんやりと見る。
「手首と膝に怪我をしているな」
「ん、でも大丈夫。大した怪我じゃないよ。ちょっと擦りむいただけ」
「すまない、予想以上に魔獣が多くてここに来るのに時間がかかった」
よく見ると彼の服は血に濡れていた。心配でお腹がちくちくと痛む。
「ま、魔獣? クライスは怪我…してない?」
「ああ、これは返り血、俺は大丈夫だ。キルナの怪我を治すからここに座れ」
二人で地面に座ると、彼は呪文を唱えながら僕の怪我に向けて幾つかの魔法陣を描き、あっという間に治してくれた。
(光の魔法、あったかぁい。)
あったかくて幸せで、ふわふわと眠気が襲ってきて、僕はうとうとし始めた。ああ、いっぱい言いたいことがあったのに。会えたら、もしもう一度会えたらって、たくさん考えていたはずなのに。
靄のかかる自分の頭の中から、たった一つの言葉を引っ張り出して彼に告げた。
「ねぇ、クライス。会いたかった」
はぁ、はぁと興奮した男の顔が僕の唇に近づいてきて……。
(助けて! クライス!)
できる限り男から顔を背けながら、心の中で叫んだ時だった。チョーカーに嵌められた宝石からアイスブルーの光が漏れ出すと同時に、「ぐはぁ」と男が呻き声を上げて吹っ飛んでいき岩の壁にぶつかって転がった。硬い岩がガラガラと崩れ、その衝撃の強さを物語っている。気を失ったのか、男はそのまま動かない。
キラキラキラ
輝くアイスブルーの光に共鳴するように、岩のあちこちに埋まっている鉱石がピカピカと青く輝き出す。
「何が起きているの?」
「まほうせきのまりょくに~こうせきがはんのうしてるんだよ~。きれい~」
鉱石の上に座りその光を見て喜ぶ妖精に気を取られていると、目を覚ました変態男が喚き出した。
「ぐ、このやろぉ! もう許さねぇ、殺してやる!」
立ち上がった男がこちらにすごい勢いで走ってくる。手には大きな剣。やばい! と逃げようとした体がぽすんと正面にある何かに当たった。あったかくて、逞しいこれは……。
キィンという音に続き、ガシャと何かが落ちる金属音。鉱石と首の宝石が光っているとはいえ、まだまだ坑内は暗くてよく見えない。どう…なっているのだろ。
「ぐあああああああああ」
と男の悲鳴が上がった。そして次の瞬間、ぱあああっと坑内に光が満ち、辺りがはっきりと見えるようになった。
「ん、まぶしっ」
久しぶりの光に目が慣れていなくて僕は思わず腕で両目を覆う。でもまたすぐに逃げなくちゃ、と眩しいのを我慢して目を開いた。すると、信じられないことに、すぐそこに、目の前に彼がいた。チョーカーの宝石から放たれる光の色と同じ色の瞳が、僕を見つめている。
「クライス……?」
「キルナ、よかった。やっと会えた」
僕がさっきぶつかったのはクライスの胸板だったみたい。彼はそのままぎゅうっと僕の体を抱きしめた。
ずうっと会いたいと祈り続けた彼の腕に包まれ、僕はこの上なく幸福な気持ちを味わっていた。ずっとこうしていたい……。でもダメだ。ここには変態男と血吸い蝙蝠とドラゴンがいる。このままここにいると危ない!
(こんなことしている場合じゃない。)
と思ったのだけど。天井には蝙蝠が一匹もいない。おかしいな、と思って探すと、地面にたくさんの蝙蝠が氷漬けになって転がっていた。さっきの変態男も一緒に氷漬けになっている。
「な、なんで……?」
間抜けな声が出た。
「ああ、氷の魔法だ。ここらで火や水を使うと危ないからな。殺してはいないから一定時間が経つと普通に動き出すが」
「すごい、あんなにいたコウモリを全部氷漬けにしたの?」
クライスの魔法は凄すぎていつも僕の想像のはるか上をいく。
「あぁ、でも、大変なの。ここにはドラゴンがいるんだよ!!」
あれを倒さないと出られないのじゃないかしら。どうしよう。ここはいっそ、僕が囮になってその間にクライスに逃げてもらおうか……。痛いのは嫌だけど、クライスが食べられるよりずっといい。最後に彼に会えたのだから悔いはない。
そこまで考え、あれ? と思った。
「そういえばクライスは入り口から来たのでしょ? どうやってアレの前を通ったの!?」
「アレ? ああ、ビビッドドラゴンのことか。ドラゴンは賢いから自分より強いものを襲ったりしない。大丈夫だ」
えっと、ドラゴンより強い……ってどういうこと? 人間離れしているとは常々思っていたけど、クライスって一体……。言葉を失っている僕の手首を見て彼は顔を顰めた。そのまま無言で服を捲って他に傷がないかテキパキと調べる彼を、やっぱりお医者さんみたいだな~と思いながらぼんやりと見る。
「手首と膝に怪我をしているな」
「ん、でも大丈夫。大した怪我じゃないよ。ちょっと擦りむいただけ」
「すまない、予想以上に魔獣が多くてここに来るのに時間がかかった」
よく見ると彼の服は血に濡れていた。心配でお腹がちくちくと痛む。
「ま、魔獣? クライスは怪我…してない?」
「ああ、これは返り血、俺は大丈夫だ。キルナの怪我を治すからここに座れ」
二人で地面に座ると、彼は呪文を唱えながら僕の怪我に向けて幾つかの魔法陣を描き、あっという間に治してくれた。
(光の魔法、あったかぁい。)
あったかくて幸せで、ふわふわと眠気が襲ってきて、僕はうとうとし始めた。ああ、いっぱい言いたいことがあったのに。会えたら、もしもう一度会えたらって、たくさん考えていたはずなのに。
靄のかかる自分の頭の中から、たった一つの言葉を引っ張り出して彼に告げた。
「ねぇ、クライス。会いたかった」
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