上 下
65 / 286
第5章

第201話 絶体絶命の悪役令息(ちょい※)

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ……」

走りすぎて足がガクガクだ。光を追いかけてまたかなり走った。牢屋のあった場所からはだいぶ離れたはずだ。あの変態男だってそう簡単には追いつけないだろうと思い、速度を緩める。するとさっきの光の球が僕の方へと寄ってきた。

「……あ、妖精」

光の球の正体は妖精だった。そうか、そういえば彼らは発光するのだった。普段はそんなに意識しないけれど、こんなに真っ暗な場所だとその光が七色だということがはっきりとわかる。

妖精は見た感じ、男の子のようだ。短めの緑の髪に金色の大きな目。水色と紺のチェックのショートパンツを履いている。なんだかとってもおしゃれだ。(妖精の服ってどこで調達するんだろう。妖精の国? お店があるのかな?)頭も体も疲れ切っていて、どうでも良いことをぼぉっと考えてしまう。いやいや、そんなこと考えている場合じゃなかった……。

僕は頑張って息を整えながら聞いた。

「ね、君、ここの出口がわかる?」

妖精はコロコロと笑いながらひゅるりと円を描くように飛び分かれ道の一番左の道を指差した。

「こっちだよ~」

迷いなく案内してくれる妖精に、僕は安心して少し泣きそうになる。さっきまで不安に押しつぶされそうだった気持ちが、少しずつ希望に満ちていく。彼のいう通りに進んでいくと、なんだかさっきよりも道幅が広くなってきた。真っ暗だった道も、すこし明るくなってきたような……。薄暗いけどこれなら足元ぐらいは見える。

「もうすぐだよ~。あ、でもここ、にんげんにはとおりにくいかも~」

妖精の言葉に僕は首を傾げる。どうしてだろう。狭くて通りにくい道なのかな? と思ったけれど、違った。道はさっきよりも断然広い。だけど、通れそうにはなかった。

ーー何か、いる。

出口へと向かう通路の横道よこみちをどっしりと塞いでいる大きな岩の隙間から、僕の背丈よりも大きな目がギョロリとこちらを覗き込んでいるのが見えた。今にも岩を押し退けて出てきそうだ。あの前を通り過ぎるなんて、どう考えても無謀すぎる。

グルルルルル……

大地を揺るがすような低くてゾクっとする唸り声が聞こえた。暗くてその怪しく光る以外はよく見えないけれど、あれが恐ろしいものだということは、鳴き声と鋭い眼光から簡単に予想がつく。

「あれは……何なの?」
「びびっどどらごん。このやまのぬしだよ~」
「ふぇ!? ドラゴン!?」

そんなものがいるなんて! でも魔獣も魔法も存在する世界だ。ドラゴンだっていてもおかしくないのかも。ドラゴン……昔漫画でみたやつはめちゃくちゃカッコ良かった。見てみたい気もする。遠くから望遠鏡で、ならいくらでも見ていたい。

でもでもでも、今、僕とドラゴンの距離はおよそ3メートル。いくらなんでも近過ぎる! そう考えた時だった。

ブワーーン!!

生臭く生温かい風が吹いてきた。ドラゴンの息だ。ただの息がこんな暴風だなんて……。 僕はあまりの恐怖に体がカチコチになって動くことができない。一方僕の肩にとまっている妖精は危機感なんて持ち合わせていないらしく、相変わらずニコニコと楽しげに笑っている。

「あいさつする~?」
「挨拶……? ドラゴンなんでしょ? 行ったら食べられるんじゃ?」
「こわくないよ~だいじょうぶ~」
「ドラゴンって、人間は食べないの?」
「びびっどどらごんはにくしょくだから、にんげんもたべるよ~」

コロコロコロと笑う妖精。やばい。前に行くと間違いなくドラゴンに食べられる。でもこのままじっとしているとあいつが追いかけてくるかもしれない。

(ど、どうしたらいいの!?)

絶体絶命の中、僕をさらなる悲劇が襲う。ギィギィと頭上から鳴き声が聞こえて見上げると大量の生き物がピカッと目を光らせてこちらを見ていた。一匹一匹は小さいけれど、ぎっしりと天井を埋め尽くしていて気持ち悪い。足元を見るのに必死で全然気づかなかった……。妖精をチラリとみると親切にも謎の生き物の解説をしてくれる。

「ちすいこうもり。あれにをすわれるとひからびてしんじゃうよ~。ちのにおいでえさをさがすんだよ~」

(血吸い蝙蝠……!? 血を吸われるなんて怖すぎる。早く離れなくちゃ)

一匹がバタバタと飛び立つと、他の蝙蝠もそれに続いて動き出す。膝と手首から滴る血が、奴らに僕の居場所を正確に伝えている。前にはドラゴンがいて進めないから急いで後ろに戻ろうと振り返ると、そこには青フードを被った下着姿の変態男がニタリと不気味に笑いながら立っていた。

「ははっ、やっと見つけたぜェ。こんなとこまで来てたのか、じゃじゃ馬ちゃん。だがもう鬼ごっこは終わりだ。ドラゴンがいるこの坑道からは出られない。お前も、俺もな! さぁてと、悪い子にはお仕置きしないとなあ。手も足も可愛いちんぽも縛ってお前の小さいケツの穴に俺のを突っ込んでめちゃくちゃによがらせてやるからよぉ。覚悟しろ」

「や、やぁ、来ないで……」

僕はもうどこへも行けず岩の壁に追い詰められながら、小さく悲鳴を上げた。
しおりを挟む
感想 684

あなたにおすすめの小説

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。