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第5章
第196話 クライスSIDE 囚われの婚約者(ちょっと※)
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キルナとリリーがココットタウンに行くと聞き、前から理事長に手伝ってもらい製作していたチョーカーを急いで完成させた。それに嵌めたアステリアダイヤモンドは「お前の一番大事な人に贈りなさい」と以前父様に戴いたものだ。
キルナの首につけると思った通り、ぴったりだった。彼の白くてほっそりと長い首に黒いチョーカーがよく映える。何より自分の魔力を込めた魔宝石が彼の首元で光っているのをみると、なんだかとても満ち足りた気持ちになった。「似合っている」と褒めると、彼は頬をピンクに染め「ありがと」と言いながら恥ずかしそうに俯いた。
それが4時間ほど前。
今俺は王宮の大広間で、今週末に開かれるイベントの打ち合わせに参加させられている。忙しい時は手紙でイベントの流れを大まかに把握しあとは当日確認という方法もあるのに、なぜ今日に限って強制参加なのかと恨めしく思っていたが、話が始まりその理由がわかった。
(そうか。今日は俺の誕生日パーティーの打ち合わせだったのか。すっかり忘れていた。ん? 待てよ、ということは……。)
やたらと俺の欲しいものを聞きたがり、今まで街に行ったこともないくせに出かける日は絶対に今日じゃなきゃダメだと譲らなかったキルナの言動と自分の誕生日。二つが結びついた瞬間、ぶわっと幸福感が心の底から込み上げてきた。
(祝ってくれるつもりなのか。)
誕生日パーティーは毎年王宮で開かれているが、いつもそこに彼の姿はなかった。プレゼントなんてひとつもいらない。ただキルナに側にいてもらえたら、おめでとうと言ってもらえたらどれだけ幸せだろうと何度も思った。その願いが……ようやく叶うかもしれない。
「どうしたの?クライス、顔が真っ赤よ」
ミーネ姉様に茶化されて顔を隠すがもう遅い。ややこしいタイミングでややこしい人に目を付けられてしまった。
「いつも冷静なあなたがそんなに赤くなるなんて。もしかしてキルナちゃんのこと!? 何を考えていたのか私にも聞かせてちょうだい」
「いや、別に姉様に話すようなことは何も。パーティーのことを考えていただけですから……」
「あやしいわ。だってさっきすごく幸せそうな顔をしていたもの。何かあったんじゃないの?」
彼女はこっそりと話をしているつもりだろうが、何を期待しているのか鼻息が荒すぎる。これではいくら声を潜めても……。
「おい、ミーネ、クライス。話を聞いているのか」
「「すみません、(お)母様」」
やはり無駄話をしていたことが見つかって怒られてしまった。
「まったく、お前は今度のパーティーの主役でキルナちゃんをエスコートしないといけないんだぞ。その後は二人でダンスも披露するんだ。しっかりしろ」
(キルナとダンス!? 前回はキルナが行方不明になって駄目になったが、今度こそ一緒に踊ることができるということか!?)
迂闊にも魔力を漂わせてしまい母様はそれを鬱陶しそうに手で払いながら言った。
「おい、嬉しいのはわかるが、そのふわふわした魔力をしまえ」
「すみません。抑えます」
すうっと呼吸し、無意識に放出してしまっていた魔力をシュルシュルと体内に収めると、それを見ていた父様がほぅと声を漏らした。
「やるな、クライス。これだけの魔力を一瞬にして片付けるとは。魔力の扱いが格段にうまくなっている。セントラとどんな訓練をしているんだ?」
父に褒められ少し照れつつ「まだ魔力制御の訓練は始めたところですが、理事長の教え方はとてもわかりやすいので捗っています。(鬼のように厳しいですが)」と、日々の訓練の内容を話した。すると、横から母様が口を挟んでくる。
「その訓練のことを俺もセントラに会った時に聞いたんだ。魔力酔いの勉強をしようとしていて、それを看病しようとしたキルナちゃんが大変なことになったんだって? 詳しく聞かせなさい」
「看病の、内容を……ですか? それは…ちょっと……」
さすが母様、キルナ関連の情報が早い。母様と姉様の目がギラギラと輝いている。(……怖い。この二人の前であれを話せと? ……嫌すぎる。)
「セントラは少ししか教えてくれなかったんだ。未来のお嫁さんのことを俺は知っておく必要がある。さあ、早く」
母様の圧が強すぎる。これは、さわりの部分だけ話してお茶を濁すしかないか。
「キルナは俺の魔力酔いを治そうと…色々…してくれたのですが、そうこうしているうちに彼も魔力酔いを起こしてしまい……」
「色々とはなんだ?(ごくり)」
「その…口で…しようとしてくれて…」
ぽつぽつとそれだけ言うと姉様の鼻から何やら赤いものが。
「看病…お口で…ぐはっ……すみません……私としたことが、ハ、ハンカチ……」
「姉様。キルナの想像をして鼻血を出すのはやめてください」
「だ、だって…。エロ可愛いキルナたん……。いい……。もっと聞かせてその話」
「そうだぞクライス、秘密にするなんてずるいぞ。包み隠さず話しなさい。一言一句漏らさず、全部」
「いや…それはさすがに無理です。俺もあの時は意識が朦朧としていましたし……」
可愛いキルナのことをこれ以上話したくない。どうやって断ればいいんだ? と頭を悩ませていると、凛とした声が響いた。
「お前たち、話が進まないだろう。そういう話は後にしなさい」
父様に叱られやっと母様と姉様が静かになった。そこからはいつも通りテキパキと当日の動きを確認し、打ち合わせも終盤に差し掛かった頃、頭に愛しい彼の声が響いた。
ーーねぇ、クライス、会いたいよ。
(キルナ!?)
聞こえた彼のか細い声に嫌な予感がし、追跡魔法の呪文を唱えてチョーカーの魔宝石に込めた自分の魔力を辿る。おまじないよりも確実に場所を特定できる魔法を付与したおかげで場所はすぐにわかった。だが…信じられないほど遠い場所だ。彼がいるところは、王都ですらない。なぜあんなところに? 今頃彼はココットタウンに居るはずなのに……。
(もしや、彼の身に何か!?)
そう考えたのと、彼に付けていた護衛が部屋に飛び込んできたのはほぼ同時だった。
キルナの首につけると思った通り、ぴったりだった。彼の白くてほっそりと長い首に黒いチョーカーがよく映える。何より自分の魔力を込めた魔宝石が彼の首元で光っているのをみると、なんだかとても満ち足りた気持ちになった。「似合っている」と褒めると、彼は頬をピンクに染め「ありがと」と言いながら恥ずかしそうに俯いた。
それが4時間ほど前。
今俺は王宮の大広間で、今週末に開かれるイベントの打ち合わせに参加させられている。忙しい時は手紙でイベントの流れを大まかに把握しあとは当日確認という方法もあるのに、なぜ今日に限って強制参加なのかと恨めしく思っていたが、話が始まりその理由がわかった。
(そうか。今日は俺の誕生日パーティーの打ち合わせだったのか。すっかり忘れていた。ん? 待てよ、ということは……。)
やたらと俺の欲しいものを聞きたがり、今まで街に行ったこともないくせに出かける日は絶対に今日じゃなきゃダメだと譲らなかったキルナの言動と自分の誕生日。二つが結びついた瞬間、ぶわっと幸福感が心の底から込み上げてきた。
(祝ってくれるつもりなのか。)
誕生日パーティーは毎年王宮で開かれているが、いつもそこに彼の姿はなかった。プレゼントなんてひとつもいらない。ただキルナに側にいてもらえたら、おめでとうと言ってもらえたらどれだけ幸せだろうと何度も思った。その願いが……ようやく叶うかもしれない。
「どうしたの?クライス、顔が真っ赤よ」
ミーネ姉様に茶化されて顔を隠すがもう遅い。ややこしいタイミングでややこしい人に目を付けられてしまった。
「いつも冷静なあなたがそんなに赤くなるなんて。もしかしてキルナちゃんのこと!? 何を考えていたのか私にも聞かせてちょうだい」
「いや、別に姉様に話すようなことは何も。パーティーのことを考えていただけですから……」
「あやしいわ。だってさっきすごく幸せそうな顔をしていたもの。何かあったんじゃないの?」
彼女はこっそりと話をしているつもりだろうが、何を期待しているのか鼻息が荒すぎる。これではいくら声を潜めても……。
「おい、ミーネ、クライス。話を聞いているのか」
「「すみません、(お)母様」」
やはり無駄話をしていたことが見つかって怒られてしまった。
「まったく、お前は今度のパーティーの主役でキルナちゃんをエスコートしないといけないんだぞ。その後は二人でダンスも披露するんだ。しっかりしろ」
(キルナとダンス!? 前回はキルナが行方不明になって駄目になったが、今度こそ一緒に踊ることができるということか!?)
迂闊にも魔力を漂わせてしまい母様はそれを鬱陶しそうに手で払いながら言った。
「おい、嬉しいのはわかるが、そのふわふわした魔力をしまえ」
「すみません。抑えます」
すうっと呼吸し、無意識に放出してしまっていた魔力をシュルシュルと体内に収めると、それを見ていた父様がほぅと声を漏らした。
「やるな、クライス。これだけの魔力を一瞬にして片付けるとは。魔力の扱いが格段にうまくなっている。セントラとどんな訓練をしているんだ?」
父に褒められ少し照れつつ「まだ魔力制御の訓練は始めたところですが、理事長の教え方はとてもわかりやすいので捗っています。(鬼のように厳しいですが)」と、日々の訓練の内容を話した。すると、横から母様が口を挟んでくる。
「その訓練のことを俺もセントラに会った時に聞いたんだ。魔力酔いの勉強をしようとしていて、それを看病しようとしたキルナちゃんが大変なことになったんだって? 詳しく聞かせなさい」
「看病の、内容を……ですか? それは…ちょっと……」
さすが母様、キルナ関連の情報が早い。母様と姉様の目がギラギラと輝いている。(……怖い。この二人の前であれを話せと? ……嫌すぎる。)
「セントラは少ししか教えてくれなかったんだ。未来のお嫁さんのことを俺は知っておく必要がある。さあ、早く」
母様の圧が強すぎる。これは、さわりの部分だけ話してお茶を濁すしかないか。
「キルナは俺の魔力酔いを治そうと…色々…してくれたのですが、そうこうしているうちに彼も魔力酔いを起こしてしまい……」
「色々とはなんだ?(ごくり)」
「その…口で…しようとしてくれて…」
ぽつぽつとそれだけ言うと姉様の鼻から何やら赤いものが。
「看病…お口で…ぐはっ……すみません……私としたことが、ハ、ハンカチ……」
「姉様。キルナの想像をして鼻血を出すのはやめてください」
「だ、だって…。エロ可愛いキルナたん……。いい……。もっと聞かせてその話」
「そうだぞクライス、秘密にするなんてずるいぞ。包み隠さず話しなさい。一言一句漏らさず、全部」
「いや…それはさすがに無理です。俺もあの時は意識が朦朧としていましたし……」
可愛いキルナのことをこれ以上話したくない。どうやって断ればいいんだ? と頭を悩ませていると、凛とした声が響いた。
「お前たち、話が進まないだろう。そういう話は後にしなさい」
父様に叱られやっと母様と姉様が静かになった。そこからはいつも通りテキパキと当日の動きを確認し、打ち合わせも終盤に差し掛かった頃、頭に愛しい彼の声が響いた。
ーーねぇ、クライス、会いたいよ。
(キルナ!?)
聞こえた彼のか細い声に嫌な予感がし、追跡魔法の呪文を唱えてチョーカーの魔宝石に込めた自分の魔力を辿る。おまじないよりも確実に場所を特定できる魔法を付与したおかげで場所はすぐにわかった。だが…信じられないほど遠い場所だ。彼がいるところは、王都ですらない。なぜあんなところに? 今頃彼はココットタウンに居るはずなのに……。
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