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第5章
第194話 囚われの悪役令息※
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※少し痛い表現がありますので苦手な方はご注意ください。
(えと、ここ…は?)
「…………」
しまった。5分くらい固まっちゃってた。ちょっと色々と信じられなくて。
岩牢なんて入ったことはおろか、見たこともないよって人はたくさんいると思う。僕もそう。だけど、今僕がいるのはゴツゴツした岩に囲まれた牢屋の中で……。しかも後ろ手に縛られ、足首も縛られ芋虫状態というひどい格好で寝かされている。固い岩の上でどれくらい寝ていたのかわかんないけど体中が痛いし、冷たい岩に熱を奪われたみたいで寒い。
(なんで僕、こんな狭くて暗い牢屋の中に閉じ込められているの? 悪いことしたから、じゃないよね……。)
怖い人が周りにいないかビクビクしながら確認し、誰もいないことがわかると腹筋を使ってよいしょと体を起こした。足首も縛られているから動きにくいけど、足裏とお尻をうまく使ってズルズルと鉄格子の方へと移動し、外の様子を窺った。
鉄格子の外を目を凝らして見回してみる。でも薄暗くてほとんど何も見えない。壁に一つだけある魔石灯が広く薄暗い空間を寂しく照らしている。見えるのは岩だけで、人はいないようだ。
(一体何が起きているんだろ。)
さっきまで普通にリリーと一緒にショッピングを楽しんでいたのに、いきなりこんなところに閉じ込められるなんて、悪い夢でも見ているみたい。牢屋で縛られて放置されているなんてまるで断罪後の悪役……。
(んぇ!? もしや、僕もう断罪されて!?)
急展開すぎて頭が追いつかない。心臓が痛いくらい脈打ってバクバクしている。冷や汗が止まらない。
(いやいや、それは、まだだよね。ユジンが入学してもいないのに断罪されるには早すぎる。)
暗いせいか、寒いせいか、独りなせいか、マイナス思考になってしまう。僕はフルフルと頭を横に振って嫌な思考を振り払った。
「しっかりして、僕。こういう時こそ冷静にならなくっちゃ。まずは、状況を整理しよ」
と一人しかいないから自分で自分に語りかけた。
ジュエリーショップに入った時、誰かにぎゅっと腕を握られた。なんだか嫌な予感がして、リリーを巻き込まないように咄嗟に繋いでいた手を離したら、その後自分の体がふわっと浮いて、これは転移魔法? と思ったところまでははっきり覚えている。口と鼻に布を当てられて意識がふわふわとして……気づいたら岩牢。
転移魔法で僕を連れ去った人物の顔は、青いフードを深く被っていたせいでよく見えなかった。ただ僕の腕を掴んだその手首が、キラッとブルーに光ったような……。でもそれが何かはわからない。犯人はきっと僕のことを嫌いな誰かなのだろうけど……。ん~誰?(悲しいことに自分を嫌う人間に心当たりがたくさんありすぎてわからない。)
ぴちゃん、ぴちゃんと規則正しい水音がする。うぅ、ここはとても…寒い。
そう、僕が震えているのはきっと寒いからだ。何かが目からこぼれ落ち、頬を伝った気がするけど、それは天井から落ちてきた水滴だ。怖くなんかない、泣いたりしない。だって僕は一人には慣れている。知らない場所で独りでいることなんて平気なの。
「よし、とにかく逃げよぅ」
誰が何のためにこんなことしたのかわからないけど、このままじゃやばいということだけはわかる。こんなところで意味不明に死んだりしたら、一緒にいたリリーが悲しむ。(そうだ、リリーは大丈夫だったかな? ここを出て早く彼の無事を確かめたい。)
手を色々動かしたり力を入れてみたりしたけれど、がっちり縛られているらしく手首が痛むだけで緩む気配すらない。
これは、魔法で何とかするしかない。
僕は水の初級魔法が3つ使える。一つは水の形を変える魔法(水の花を作ったのはこの魔法。)。もう一つは水を硬くする魔法。最後の一つは、硬くした水を、鋭く尖らせて刃にする魔法。魔力は20だから小型のナイフくらいの刃しかできないけれど、縄を切るには十分なはず。
全神経を手の平に集中させる。僕の魔力は大さじ一ちょっとしかない。失敗は許されない。
(僕の中の魔力集まれぇ~~! 薄くなって、硬く尖って!)
念じながら呪文を唱えると、手の中に硬い感触。見えないけれどできた気がする。試しに刃を自分の手に当ててみると、
「いぃったぁ!!」
思いのほか深く切ってしまったみたいで、大きな声が出てしまった。ふぇええん。めちゃくちゃ痛い。でもよかった。ちゃんと刃になってるってことだ。これなら縄が切れる。
よいしょ、よいしょと指の間に挟んだ刃を動かし縄を切っていく。後ろで見えないからその作業は想像以上に大変だった。
「いったぁ、また……」
見えないせいで何度も刃が手首に食い込む。縄だけを切るのが難しい。ぼろぼろと涙が溢れて顔はたぶんぐちゃぐちゃだ。でも我慢できる。こんなの後でクライスに治してもらえばすぐ元通り……。
ーーねぇ、クライス、会いたいよ。
(えと、ここ…は?)
「…………」
しまった。5分くらい固まっちゃってた。ちょっと色々と信じられなくて。
岩牢なんて入ったことはおろか、見たこともないよって人はたくさんいると思う。僕もそう。だけど、今僕がいるのはゴツゴツした岩に囲まれた牢屋の中で……。しかも後ろ手に縛られ、足首も縛られ芋虫状態というひどい格好で寝かされている。固い岩の上でどれくらい寝ていたのかわかんないけど体中が痛いし、冷たい岩に熱を奪われたみたいで寒い。
(なんで僕、こんな狭くて暗い牢屋の中に閉じ込められているの? 悪いことしたから、じゃないよね……。)
怖い人が周りにいないかビクビクしながら確認し、誰もいないことがわかると腹筋を使ってよいしょと体を起こした。足首も縛られているから動きにくいけど、足裏とお尻をうまく使ってズルズルと鉄格子の方へと移動し、外の様子を窺った。
鉄格子の外を目を凝らして見回してみる。でも薄暗くてほとんど何も見えない。壁に一つだけある魔石灯が広く薄暗い空間を寂しく照らしている。見えるのは岩だけで、人はいないようだ。
(一体何が起きているんだろ。)
さっきまで普通にリリーと一緒にショッピングを楽しんでいたのに、いきなりこんなところに閉じ込められるなんて、悪い夢でも見ているみたい。牢屋で縛られて放置されているなんてまるで断罪後の悪役……。
(んぇ!? もしや、僕もう断罪されて!?)
急展開すぎて頭が追いつかない。心臓が痛いくらい脈打ってバクバクしている。冷や汗が止まらない。
(いやいや、それは、まだだよね。ユジンが入学してもいないのに断罪されるには早すぎる。)
暗いせいか、寒いせいか、独りなせいか、マイナス思考になってしまう。僕はフルフルと頭を横に振って嫌な思考を振り払った。
「しっかりして、僕。こういう時こそ冷静にならなくっちゃ。まずは、状況を整理しよ」
と一人しかいないから自分で自分に語りかけた。
ジュエリーショップに入った時、誰かにぎゅっと腕を握られた。なんだか嫌な予感がして、リリーを巻き込まないように咄嗟に繋いでいた手を離したら、その後自分の体がふわっと浮いて、これは転移魔法? と思ったところまでははっきり覚えている。口と鼻に布を当てられて意識がふわふわとして……気づいたら岩牢。
転移魔法で僕を連れ去った人物の顔は、青いフードを深く被っていたせいでよく見えなかった。ただ僕の腕を掴んだその手首が、キラッとブルーに光ったような……。でもそれが何かはわからない。犯人はきっと僕のことを嫌いな誰かなのだろうけど……。ん~誰?(悲しいことに自分を嫌う人間に心当たりがたくさんありすぎてわからない。)
ぴちゃん、ぴちゃんと規則正しい水音がする。うぅ、ここはとても…寒い。
そう、僕が震えているのはきっと寒いからだ。何かが目からこぼれ落ち、頬を伝った気がするけど、それは天井から落ちてきた水滴だ。怖くなんかない、泣いたりしない。だって僕は一人には慣れている。知らない場所で独りでいることなんて平気なの。
「よし、とにかく逃げよぅ」
誰が何のためにこんなことしたのかわからないけど、このままじゃやばいということだけはわかる。こんなところで意味不明に死んだりしたら、一緒にいたリリーが悲しむ。(そうだ、リリーは大丈夫だったかな? ここを出て早く彼の無事を確かめたい。)
手を色々動かしたり力を入れてみたりしたけれど、がっちり縛られているらしく手首が痛むだけで緩む気配すらない。
これは、魔法で何とかするしかない。
僕は水の初級魔法が3つ使える。一つは水の形を変える魔法(水の花を作ったのはこの魔法。)。もう一つは水を硬くする魔法。最後の一つは、硬くした水を、鋭く尖らせて刃にする魔法。魔力は20だから小型のナイフくらいの刃しかできないけれど、縄を切るには十分なはず。
全神経を手の平に集中させる。僕の魔力は大さじ一ちょっとしかない。失敗は許されない。
(僕の中の魔力集まれぇ~~! 薄くなって、硬く尖って!)
念じながら呪文を唱えると、手の中に硬い感触。見えないけれどできた気がする。試しに刃を自分の手に当ててみると、
「いぃったぁ!!」
思いのほか深く切ってしまったみたいで、大きな声が出てしまった。ふぇええん。めちゃくちゃ痛い。でもよかった。ちゃんと刃になってるってことだ。これなら縄が切れる。
よいしょ、よいしょと指の間に挟んだ刃を動かし縄を切っていく。後ろで見えないからその作業は想像以上に大変だった。
「いったぁ、また……」
見えないせいで何度も刃が手首に食い込む。縄だけを切るのが難しい。ぼろぼろと涙が溢れて顔はたぶんぐちゃぐちゃだ。でも我慢できる。こんなの後でクライスに治してもらえばすぐ元通り……。
ーーねぇ、クライス、会いたいよ。
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