いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第5章

第191話 ねこもこルームウェア

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学生に人気の繁華街。ココットタウン。
活気あふれる賑やかな街には、若者向けのおしゃれな服がショーウィンドウに飾られ、アクセサリーショップ、靴屋、文房具店、雑貨屋、本屋などさまざまな店が並んでいる。あちこちにカフェとティールームがあり、そこから漂う香ばしいコーヒーや紅茶の香りが胃を刺激してくる。明るくポップな店の入り口には生クリーム山盛りのカップケーキや、色とりどりのマカロンが並び、朝ごはんを食べてきたはずなのに、もうお腹が空いてきた。

「うわぁ、な、何あれ!? ぽんぽんぽんって丸い卵からなにか生まれてきてる。……猫かな?」
「ん? ああ、ムベルの卵だね。小さくて可愛いからとても人気のある魔法生物なんだ」

魔法生物学の授業で魔力の水を飲ませたことがあるから知ってる。ああやって卵から生まれるんだ。へぇ!! 

ムベルの展示をしている店は普通のペットショップかと思ったら違ったらしい。よく見ると店の看板には“魔法生物専門店”と書いてある。

そのほかにも色々な生物がいるようでもっと見てみたかったけど、リリーに止められてしまった。

「王子にいきなり魔法生物をあげるわけにはいかないでしょ」
「ん、たしかに。クライスは絶対動物好きだとは思うけど、飼うなら責任持って世話できるかよく考えてからじゃないとね」
「王子、動物好きなの?」

僕はうん、間違いないよ、ときっぱり断言した。

「だって前僕がコスプレ玉を食べて黒猫になった時、クライスすごく幸せそうに猫耳と尻尾を触っていたもの」

もこもこ生物に弱いんだ。きっと。

「いや、別にそれは動物が好きだからベタベタ触ってたわけじゃないと思うけど……。まぁ、どっちにせよ生き物を買うときは飼い主との相性確認が必要だから、本人がいないとそもそも購入できないんだよ。特に魔法生物は魔力が合わないと餌がやれないから」

「そっか。彼らは飼い主の魔力を食べて育つもんね」

「それに、必要ないんじゃないかな。王子はもうペットを飼ってるみたいだし。しかもものすっごい溺愛中の……」

僕の首元を見てなんだか意味深な表情をするリリー。なんだろ…? っていうかクライスもうペット飼ってるの? あんなに一緒にいるのに見たことないのだけれど。


ココットタウンは魔法学園の近くにあるということもあり、今まで行ったどの街よりも魔法色が濃い。いたるところに魔道具店というものがあり、さまざまな魔道具が売られている。どんな魔道具が売られているのだろう。せっかくだから見てみたい! と思って、適当に目についた“ジュリーの魔道具店”というところに入ってみた。

棚には普通のペン(に見えるもの)が所狭しと飾られている。

「これ、普通のペンじゃないのかな」
「速記ペンだね。魔力を込めると速く文字が書ける」
「へぇ! 便利」

ペンとかなら何本持っていてもいいし、プレゼントに良さげ、と思って手に取ってみる。

「試し書きしてみたら?」

とリリーに言われて試し書き用の白い紙に文字を書いてみたのだけど……。

「ん~何これ、読めない」

ベンスの作るシフォンケーキは最高! って書いたはずなのに文字が汚すぎて読めなかった。

「あんまり良くないね。質の悪いペンだとこんな感じで文字がブレて綺麗に書けないんだよ」

「なるほど……」

「違う店にも行ってみよう」

隣の“魔女っ子プリムの甘い夢“という魔道具屋に入ってみる。とにかく全体的に、モコモコ、フリフリ、可愛い! で埋め尽くされたガーリーな店ですぐに出たくなった。でもリリーは何か気に入るものを見つけたようで、どんどん奥へと入っていく。

「うわぁ、このルームウェア可愛い!!」

リリーが手に取った服は、もふもふで触り心地がいいルームウェア。ん~たしかに着心地は良さそうだけど……フードに猫耳がついてる!?

「それ、僕にくれたルームウェアによく似てるね。うさぎじゃなくてネコだけど」
「ああ、同じブランドなんだよ」

まさか! 貰ってからというもの、あまりの着心地の良さに毎日のように着ているあのルームウェアがこの可愛い専門店みたいな店の商品だったなんて。(恥ずかしさ倍増だよ!)

「ああ、でも、これちょっと高いからなぁ。今回は諦めるよ……」

リリーは値札を見て残念そうに服を元の棚に戻した。

「あ、あれも可愛い」

グラスや置物を見に行った彼の後ろ姿を見ながら、僕は急いでさっきの服を店員さんに渡す。

今日はお父様が“これは今までお前に渡すはずだった小遣いだ。好きに使いなさい”、という手紙と共に送ってくれたお金を持ってきている。結構な金額らしく、財布の中が見えないように気をつけろ、とクライスに言われた。ルームウェア一着なら少しくらい高くても買えるはず……。案の定、支払っても、財布の中身はほとんど減らなかった。

「あれ? メガネ何か買ったの?」
「うん、さっきのネコの服」

包み終わるのを待っていると、商品を見るのに夢中になっていた彼が戻ってきた。僕はゴスロリファッションの店員さんに、ベビーピンクの袋にラッピングしてもらったそれを、「はいっ」とリリーに渡した。袋の口に結ばれた大きなローズピンクのリボンが、今日のリリーの可愛い系のファッションによく合う。

「は? なんで? 僕の誕生日は12月だよ。まだ先だけど」
「ううん、これは誕生日プレゼントじゃなくて、前にうさぎのルームウェアを貰ったお返しなの」

彼は服が好きだけど、お金をかけることは滅多にない。人からサイズが合わなくなった服や着ない服をもらって自分でおしゃれにアレンジして着ているみたい。節約家なのに、僕に高い服をくれたりして……。(リリーのデレに僕はメロメロだ。)

「本当に…いいの?」
「いいよ。僕一人でうさぎの服を着てるのはなんだか恥ずかしいし、リリーも一緒にこれ着てくれたらうれしいよ」
「似合うんだから恥ずかしがらなくてもいいのに。でもうれしい。ありがとう、メガネ」

すっと目を細め、彼は僕に近付いて、頬にちゅっと触れるだけのキスをした。びっくりして彼を見ると、リリーはぱちっとウィンクし、王子には内緒ね、と言った。
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