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第5章
第180話 セントラSIDE 襲われる王子と襲う教え子(ちょっとだけ※)
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「理事長。大変です。クライス様が、襲われて…」
「場所は?」
「寮のクライス様とキルナ様の部屋です」
「わかりました。すぐに向かいます」
「いや、その。今は行かない方が良いかもしれなくて」
「……? 襲われているのですよね?」
「はい、でもその、襲っているのはーーー」
「……はい?」
早朝。ロイル=クルーゼンとギア=モークが慌てて理事長室に駆け込んできた。何事かと聞いてみるとクライス王子が襲われているという。
昨日王子が魔力制御について学びたいと相談に来た。彼は生まれつき多くの魔力を持っていたが、幸いなことに魔力制御の素質があり、これまで生活に困ることはなかったようだ。ただ、最近はそれがどうも難しくなってきたらしい。キルナ様を前にすると、自分でうまく制御できなくなるのだという。
「魔力は感情に大きく作用されますから、好きな人を前にすると通常通りいかなくなる、ということはよくあることです。わかりました。それなら、一つずつ段階を踏んで魔力制御の訓練をしていきましょう。言っておきますが、訓練するとなったら、私はあまり優しくはありませんよ」
「ええ、もちろん。わかっています。厳しくても大丈夫です。俺と、キルナの未来のためですから」
そう意気込む王子を見て、ふっと笑みが漏れた。この王子ならキルナ様のことを大事にしてくれるに違いない。同時に少し寂しく思った。あの泣き虫な彼を、慰める相手はもう、私ではないのか、と。
訓練は第一段階として5000の魔力を体に入れるところからはじめた。好きな相手を自分の魔力でいっぱいにしてマーキングしたいという要求は、魔力持ちなら誰しもあることだ。いわば本能。それに太刀打ちできるかどうかは、魔力をコントロールする力と、相手を思いやる意志にかかっている。だから魔力酔いの辛さを身をもって知ることで、相手に無茶な魔力を注ぎたくなる気持ちを抑える、という目的で今回の魔力譲渡を行った。
いつもの1.5倍の魔力が巡る体は思い通り動かないはず。そこを狙われたのだろうか。だとしたら相手はかなりの情報通だ。あなどることはできない。だが、王子はその気になれば魔法を使うことで魔力を放出することができる。簡単にやられはしないだろう。
今すぐに部屋に向かおうとしていると、なぜか止められる。敵がいるなら一刻も早く向かうべきでは? と首を捻ったが、彼らが止める理由はすぐに明らかになった。
「襲っているのはキルナ様なんです!!」
キルナ様が王子を襲っている。ふむ。
それは一体、どういう状況なのだろうか?
よくよく話をきくと、なんと襲う…というのはまさかの性的な意味だったようで、声から察するに、キルナ様が王子の魔力酔いを治そうとあれこれしているらしい。隣室にいたロイルとギアは異変に気づいたものの、部屋に踏み込むべきか否か迷い、私に助けを求めに来たという。
私はとりあえず待機という判断を下した。
それから数時間後。
息も絶え絶えなクライス王子が意識のないキルナ様を抱き抱えて理事長室にやってきた。
事後……というか真っ最中に転移したようで、王子ははだけたシャツに引き上げただけのズボン姿、キルナ様に至っては全裸で精液まみれという、淫靡な身なり。すかさず生徒たちの目に目眩しの魔法をかけた。
「助けて…くださ…。理事…長……」
王子はそれだけ言って、ふっと気を失った。最後の力を振り絞って転移してきたのだろう。彼らの額に手を当てると二人の記憶の断片が頭に流れ込んでくる。なんとか逃げようとする王子に自己流で看病しようと襲い掛かるキルナ様の姿を視て、私は自らの犯した重大なミスに気が付いた。
(しまった。キルナ様に閨事についてお教えするのを失念していた。)
両親はもちろんルゥやメアリーやベンスがそんなことを教えるとは思えない。彼が今回のような暴挙に出たのもその絶望的な無知によるものだろう。私が教えて差し上げるべきだった。
むしろこの展開でよく王子は我慢できたと思う。恐るべき忍耐力だ。魔力制御の力も、やはり天才といえる域。
「キルナを前にすると魔力を抑えられないのです。いつか彼を傷つけてしまいそうで怖い。どうか私に魔力を制御する方法を教えてください」と相談に来た彼だが、問題はキルナ様の方にもあるようだ。
魔力酔いを起こしている二人をベッドに並べて寝かせクリーンの魔法をかけ、自作の魔道具を使って魔力を吸い取る。
一時間ほどすると王子の方は目覚めた。キルナ様はまだ時間がかかりそうだ。元々多くの魔力を扱うことに慣れていない身体に大量の魔力が流れ、負担がかかっていることに加え、体力もまだまだ少ない彼は、どうしても回復に時間がかかる。
「先に戻って王子は授業を受けてください。キルナ様のことは私が預かりましょう」
王子は心配そうにキルナ様を見ながら「わかりました。よろしくお願いします」と頷き戻っていった。
(さてと、目が覚めたらお勉強ですね。)
自分の魅力に気づかず王子を翻弄している彼は、すやすやと眠り続けている。いつまでも幼く子どもらしい顔で眠っている可愛い教え子の柔らかな髪を、私はそっと撫でた。
「場所は?」
「寮のクライス様とキルナ様の部屋です」
「わかりました。すぐに向かいます」
「いや、その。今は行かない方が良いかもしれなくて」
「……? 襲われているのですよね?」
「はい、でもその、襲っているのはーーー」
「……はい?」
早朝。ロイル=クルーゼンとギア=モークが慌てて理事長室に駆け込んできた。何事かと聞いてみるとクライス王子が襲われているという。
昨日王子が魔力制御について学びたいと相談に来た。彼は生まれつき多くの魔力を持っていたが、幸いなことに魔力制御の素質があり、これまで生活に困ることはなかったようだ。ただ、最近はそれがどうも難しくなってきたらしい。キルナ様を前にすると、自分でうまく制御できなくなるのだという。
「魔力は感情に大きく作用されますから、好きな人を前にすると通常通りいかなくなる、ということはよくあることです。わかりました。それなら、一つずつ段階を踏んで魔力制御の訓練をしていきましょう。言っておきますが、訓練するとなったら、私はあまり優しくはありませんよ」
「ええ、もちろん。わかっています。厳しくても大丈夫です。俺と、キルナの未来のためですから」
そう意気込む王子を見て、ふっと笑みが漏れた。この王子ならキルナ様のことを大事にしてくれるに違いない。同時に少し寂しく思った。あの泣き虫な彼を、慰める相手はもう、私ではないのか、と。
訓練は第一段階として5000の魔力を体に入れるところからはじめた。好きな相手を自分の魔力でいっぱいにしてマーキングしたいという要求は、魔力持ちなら誰しもあることだ。いわば本能。それに太刀打ちできるかどうかは、魔力をコントロールする力と、相手を思いやる意志にかかっている。だから魔力酔いの辛さを身をもって知ることで、相手に無茶な魔力を注ぎたくなる気持ちを抑える、という目的で今回の魔力譲渡を行った。
いつもの1.5倍の魔力が巡る体は思い通り動かないはず。そこを狙われたのだろうか。だとしたら相手はかなりの情報通だ。あなどることはできない。だが、王子はその気になれば魔法を使うことで魔力を放出することができる。簡単にやられはしないだろう。
今すぐに部屋に向かおうとしていると、なぜか止められる。敵がいるなら一刻も早く向かうべきでは? と首を捻ったが、彼らが止める理由はすぐに明らかになった。
「襲っているのはキルナ様なんです!!」
キルナ様が王子を襲っている。ふむ。
それは一体、どういう状況なのだろうか?
よくよく話をきくと、なんと襲う…というのはまさかの性的な意味だったようで、声から察するに、キルナ様が王子の魔力酔いを治そうとあれこれしているらしい。隣室にいたロイルとギアは異変に気づいたものの、部屋に踏み込むべきか否か迷い、私に助けを求めに来たという。
私はとりあえず待機という判断を下した。
それから数時間後。
息も絶え絶えなクライス王子が意識のないキルナ様を抱き抱えて理事長室にやってきた。
事後……というか真っ最中に転移したようで、王子ははだけたシャツに引き上げただけのズボン姿、キルナ様に至っては全裸で精液まみれという、淫靡な身なり。すかさず生徒たちの目に目眩しの魔法をかけた。
「助けて…くださ…。理事…長……」
王子はそれだけ言って、ふっと気を失った。最後の力を振り絞って転移してきたのだろう。彼らの額に手を当てると二人の記憶の断片が頭に流れ込んでくる。なんとか逃げようとする王子に自己流で看病しようと襲い掛かるキルナ様の姿を視て、私は自らの犯した重大なミスに気が付いた。
(しまった。キルナ様に閨事についてお教えするのを失念していた。)
両親はもちろんルゥやメアリーやベンスがそんなことを教えるとは思えない。彼が今回のような暴挙に出たのもその絶望的な無知によるものだろう。私が教えて差し上げるべきだった。
むしろこの展開でよく王子は我慢できたと思う。恐るべき忍耐力だ。魔力制御の力も、やはり天才といえる域。
「キルナを前にすると魔力を抑えられないのです。いつか彼を傷つけてしまいそうで怖い。どうか私に魔力を制御する方法を教えてください」と相談に来た彼だが、問題はキルナ様の方にもあるようだ。
魔力酔いを起こしている二人をベッドに並べて寝かせクリーンの魔法をかけ、自作の魔道具を使って魔力を吸い取る。
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王子は心配そうにキルナ様を見ながら「わかりました。よろしくお願いします」と頷き戻っていった。
(さてと、目が覚めたらお勉強ですね。)
自分の魅力に気づかず王子を翻弄している彼は、すやすやと眠り続けている。いつまでも幼く子どもらしい顔で眠っている可愛い教え子の柔らかな髪を、私はそっと撫でた。
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