いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

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第5章

第177話 クライスSIDE たまご雑炊※

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じゃーぴちゃぴちゃぴちゃ

という水音で目が覚めた。ぼんやりしている頭にひんやりしたタオルが載せられる。

「あ、目が覚めたの? 体調はどう? 汗をいっぱいかいているし熱があるよ。布団をかぶらずに寝ていたから風邪を引いたのかも……。僕、今から医務室に行って先生を呼んでくるね」

焦って出て行こうとする彼の腕を握り、俺は首を横に振った。

「呼ばなくていい」
「でも……」

心配そうにする婚約者に笑みが漏れる。
光魔法が使える俺が風邪などと……。たしかに免疫力を高めるためにわざと放置することもあるが、今回のこれは風邪じゃない。

――これは、だ。

体の中を適量以上の魔力が巡っているせいで、目がチカチカし、頭は熱に浮かされぼんやりする。

「風邪じゃないから、診てもらう必要はない。寝ていれば…治る」
「そうなの?」

キルナはまだ納得していない様子で、もしかしてクライスも薬が嫌いなのかな。とブツブツ呟いている。

「少し待て。今…朝食を…用意するから……」

そう言って魔法陣の敷いてある大理石のテーブルまで歩こうとすると、身体がよろけ倒れそうになった。キルナは、「いいから寝てて」と俺の体をベッドに押し込め、「ちょっとリリーとベルトのとこで食材をもらってくる」と出かけていった。


いつの間にか寝ていたようで、部屋に漂ういい香りに目が覚めると、彼がキッチンで何かを作っているのが見えた。

「あ、起きたの? 食べられそうなら、その、卵雑炊を作ったのだけど、食べる?」

ゾースイが何かはわからなかったが、頷いた。キルナが作るものは何でも美味しいに決まっている。リリーの家では毎日彼が作ってくれたが、どれもこれも王宮料理と比べても遜色ない、洗練された味だった。(もちろんキルナが作るものだったらたとえどんなにまずい料理でも全部おいしく食べられる自信がある。)

「ふ~ふ~」

サイドテーブルに小さな鍋を置き、小皿に移し一匙掬い、息を吹きかけて冷ましてくれている……天使……。

「よし、これで熱くないかな。はい、クライス。あ~ん」

(なんだこれ、キルナが…食べさせてくれるなんて。夢か?)
 
身体を少し起こし、言われるがまま口を開くと、出汁と卵の味が口の中に広がり優しい味がする。

「おいし?」

と聞かれ、

「ああ、とてもうまい」

と答えた。彼は微笑みながら「ん、よかった。これよくが作ってくれたの」という。

(聞き間違いか?) 

俺は表情には出さなかったが、内心首を傾げた。

彼の母親のことはフェルライト公爵から聞いている。母親とは思えない我が子への仕打ち。彼女は乳飲み子のキルナを殺そうとし、ユジンが生まれるとユジンだけを可愛がり、彼の存在を無視し続けた。その上彼に届けたはずの俺の手紙や贈り物を全て燃やし、別邸の予算を横領し、最終的には毒殺しようとした。

どう考えてもそんな母親が彼にゾースイを手作りするとは思えない。それも作ってくれた、なんて絶対にありえない。


「全部食べられたね」

そんなことをうつらうつら考えている間に食べ終えてしまった。ああ、もっと集中して食べるべきだった。と彼が皿を下げるのを名残惜しく見送る。

ゾースイを完食し、俺は再びベッドに横たわった。腹が満たされ体が温まったことでより眠気が増し、頭が朦朧とする。

(熱いし、だるい。思っていた以上に辛いな……)

ただ、魔力酔いを起こしているとはいえ、これは意図的に引き起こしているものだ。こうなることはわかっていたから、とくに問題があるわけではない。

昨日、理事長の元に魔力制御の相談に行くと、まずはことが必要だと言われ、彼から魔力を受け取った。5000の魔力を預かり、今日の夕方理事長室に行き、返すことになっている。
キルナが度々起こす魔力酔いというものがどんなものか。その辛さを身を持って体験しておけば、もっと抑えが効くようになるだろう、ということでこうしてあえて放出せずに耐えている。

「やっぱりしんどそう。僕、今日はずっとここにいる。看病させて欲しいの」
「俺のことは…心配ないから、学校へ…行け」
「……でも、すごい熱なのに」

泣きそうになりながら俺を見つめるキルナは、ベッド脇から動かない。

(困ったな。このままでは彼が学校にいけない。)

そう思った俺は、今自分は魔力酔い体験をしているだけで健康に支障はないこと。セントラ指導の元やっていることだから心配いらないことを説明した。説明しながらも猛烈な眠気が襲い、身体が重だるくなってくる。もう動けそうにない……。

「んぇ!? これ、魔力酔いなの?」
「ああ、すまない。もう眠くて起きていられない……。今日休むことはもう先生には伝えてあるから、お前は学校へ…いけ…。教室まではロイルとギアが…送る。昼食は…教室に届くようにしてある…から…」

それだけ言い、目を閉じようとしたのだが……。


じゃあ、と彼が取った行動に俺は目を疑った。

「え、……ま…」

待て…。なんで、俺のズボンを脱がせているんだ? しかも、俺のペニスを握って扱き始めた…!? 嘘だろ? 

「や…めろ…。うぁ、キルナ……っ、何して……」
「まりょくよいなんれひょ。じゃぁ、はやふださらいろ! んぅっ……」

ぬるりと温かく柔らかい粘膜にペニスが包み込まれる感触。咥えて…いるのか? まさか。

ぴちゃぴちゃ、じゅぶじゅぶじゅぶ……。


卑猥な水音と襲いくる快楽に眩暈がする。
誰かこいつを止めてくれ……。誰か……助けてくれ……。



「………ッ」

潤んだ金の瞳と目が合う。湿ったピンクの唇からは白濁が伝う。彼の吐息が熱い。
もうこれは……ダメかもしれない。
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