【完結】ねこの国のサム

榊咲

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〈本編〉

サム、長老から秘密を聞く

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 サムは長老の言うこの国の事を忘れるという事を信じられなくても、納得しなければならないという事はわかりますが、なぜ忘れなくてはいけないのかが、わからないので長老に聴きます。

「長老様、さっきも聞いたんですが、どうして忘れなくっちゃいけないんですか?」
「そうだのう、その事を言わなければならないかのう。……サムちゃんは《人の国》からこの国に帰って来られないのは知ってるじゃろ」
「は、調べた時に知りました」

「そうじゃ、帰って来られないからの、覚えているとあちらの生活に慣れるまで辛いことになるんじゃよ」
「何と無く分かります」
「だからの、忘れた方が幸せなんじゃよ。わかったかの、サムちゃん」

 サムは長老から理由を聞いてやっと、なぜこの国で暮らした事を忘れるのかわかりました。それとともに、兄弟や友達のことを忘れちゃうなんて寂しいと思いました。

 もしこの国に帰って来た時には兄弟は自分の事を覚えていてくれるのに、自分は忘れていて、あった時には知らない人として威嚇いかくしてしまうなんて……。悲しすぎると思い、長老に覚えている事は出来ないか聞きました。

「長老様、もしこの国に帰って来られた時も思い出せないんですか?」
「……サムちゃん、例外はないんじゃよ。もう一度この国に帰って来ても、思い出せないじゃろうな」
「そ、そんな~!!……なんとかならないんですか?」

「サムちゃん、調べたのならわかっているじゃろ。この国を出て、帰って来たものはいないんじゃよ。だからの、忘れた方がいいんじゃよ」
「どうしても忘れることが前提なんですね……」
「そうじゃ。寂しいし悲しくなるが、覚えていても幸せになれないからのう」

「そうなんですね。長老様」
「サムちゃん、わかっておくれ。じゃがな、忘れたからっと帰ってくるなと言っているわけじゃないんじゃ。だからのう、《人の国》の養子先の方が、この国に行こうと言ってくれたら、帰っておいで」

「はい、長老様。忘れてしまってもここが僕の故郷に変わりないですもん。機会があったら帰ってきます」
「そうじゃ、ここはサムちゃんの故郷なんじゃからの。いつでも帰っておいで。……おおそうじゃ、養子先が決まったんじゃよ」

「そうなんですか。いつになるんですか?」
「サムちゃん、ちょっと待っておくれ。《人の国》からのお迎えはまだじゃよ」
「えぇ、いつになるんですか?」

「そうじゃのう、年末になると聞いておるよ」
「え、そんなに先になるんですか?」
「そうなんじゃ。向こうの人の都合でな」

「長老様。じゃぁ、僕が行くのは年末になるって兄弟や友達に教えてもいいんですか?」
「そうじゃのう。この国の事を忘れてしまう事は秘密じゃが、サムちゃんがこの国を離れる時期を教える分にはいいよ」
「ありがとうございます。長老様。今日はありがとうございました。失礼します。」
「サムちゃん。気を付けてお帰り」

 サムは《人の国》ヘ行くまでにまだ時間がある事に安堵しました。しかし、この国を出た途端に兄弟も友人も忘れてしまう事は心が引き裂かれそうに辛い事でした。でも自分で決めたことです。長老にお礼を言って家に帰る事にしました。
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