【完結】ねこの国のサム

榊咲

文字の大きさ
上 下
99 / 135
〈本編〉

サムと長老【《人の国》の件】

しおりを挟む
 サムと長老だけが、部屋に残りました。長老はどこから話そうかと逡巡しゅんじゅんしました。そして、もう一度、帰って来ることが出来ない事の覚悟を聞こうと思いました。

「サムちゃんや、本当に《人の国》へ養子に行きたいのかね」
「はい、行きたいです!」
「帰っては来れないぞ。それでもかね」

「長老様、僕は将来《人の国》へ行きたいです」
「決心は堅いみたいだのう」
「長老様、僕は前々から興味があったんです」

「そうか、そうか。では、話そうかのう」
「はい、お願いします」

 長老はサムの決心が堅いことを確認してから話始めました。

「サムちゃんは、《人の国》については調べたと言っておったのう」
「はい、図書館で調べました」
「そうかそうか。頑張ったんじゃのう」

「でも長老様。養子の事はわかりませんでした。なぜですか?」
「それは、余りこの国にとっては良くない事じゃからじゃよ」
「それは禁忌になるんですか?」

「イヤ、禁忌とまではいかぬよ。ただ、この国に帰って来れなくなるしの、あとはこの国と《人の国》の間には結界が貼ってあるからの、余り人に知られたくないんじゃよ」
「え、結界が貼ってあるんですか?」

「ああ、そうじゃよ。この事は秘密じゃ。シィーじゃ」
「はい、誰にも言いません。約束します」
「うん、うん。よろしく頼むな」

「でも、どうして結界の事は秘密なんですか?僕、前にアゴ母さん達と一緒に《人の国》へ行きましたよ」
「ああ、それはじゃ、わしがアゴさんに頼まれて、結界を解除しておいたから行く事が出来たんじゃよ」
「そうだったんですね。じゃぁ、どうして結界を張る様になったんですか?」

「それはのう、遙か昔は結界は無かったそうじゃ。《人の国》とは自由に行き来が出来たそうじゃよ。ある時、《人の国》からこの国に来た者がこの国の子どもをさらう様になったんじゃ……」
「え、さらう?」
「そう、誘拐じゃよ。親から無理矢理、子どもを引き離す事じゃな」

 長老はサムに昔あった《人の国》との確執を話始めました。サムは、まさか昔にそんなことがあったとは思っておらず、呆然としてしまいました。そして何故、そんな事が起こったのか知りたくなりました。

「長老様、どうして《人の国》の人はそんな酷い事をしたの?」
「昔はこの国も栄えておってな。この国にも人は沢山おった。そこに目を付けられた様じゃ。《人の国》では当時、ネズミが大繁殖しておったと記録されとるからのう」

「長老様、僕が調べた書物にはその様な事は書いてありませんでしたよ?」
「ほんに、サムちゃんは勉強家じゃなぁ。そう表の図書館にはその様な事が書いてある書物はないよ」
「どうしてですか?」

「そうさな、この様な事は余り表沙汰にはしたくないからじゃよ。代々の長老が隠してきたんじゃよ」
「そうなんですね。じゃぁ、僕もナイショにします」
「そう、しぃーじゃよ。サムちゃんは賢いなぁ」

「長老様、《人の国》へ行ったらこの国に帰って来れないのは、結界があるからなんですね」
「そうじゃよ。ただ、《人の国》からは《人の国》の人と一緒なら帰って来れるんじゃよ。だから、養子に行った先の人が良い人なら、帰って来れるかもわからないのじゃ」

「そっかぁ。帰って来れるのは養子先の人によるんだぁ。……長老様、この国に帰ってきた人はいるんですか?」
「わしが知る限りは、無いのう」
「そうなんですね。本当に《人の国》の人はによるんですね」

「そうなんじゃよ。だからの、もし考え直すなら今のうちじゃよ。サムちゃんはどうするかね」
「それでも、僕は行きたいです」
「ここまで聞いても、決心は変わらずか……。じゃぁ、もしサムちゃんが行く時はわしが養子先を探してやろうかのう。どうじゃな?」

「え、長老様が探してくれるんですか?」
「ああ、わしが探してやろう」
「本当に…!長老様、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 サムは長老から昔あった話を聞いても、《人の国》へ行く事を諦められませんでした。そんなサムの決心を聞いた長老はサムの養子先を探す事を約束しました。それを聞いたサムは、大喜びしました。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」 ソフィア・クラリスの婚約者である デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると 周囲の雰囲気は大笑いに包まれた 彼を賞賛する声と共に 「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」 周囲の反応に喜んだデイモンドだったが 対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした 「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」 彼女の言葉の意味を 彼はその時は分からないままであった お気に入りして頂けると嬉しいです 何より読んでくださる事に感謝を!

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

能力者主義と無能力者正義の世界へようこそ

高桐AyuMe
ファンタジー
 人間と共に進化していった能力。次第に強力になっていくに連れ、世界は能力者主義に変貌した。 そんな中、世界の無能力者の中でも異端児、イレギュラーとも言える無能力者、零はのんびりと少し変わった学校で過ごしていた。  だが、そんな平穏は事件に巻き込まれるうちに失われていく。  更に、零をつけ狙う組織にも狙われながら、能力者VS無能力者の反乱に参戦していく。  反乱の先に零が求めるものとは一体……?  そして、零の抱える秘密とは……?  それが明かされるとき、二人の少年少女の活躍は限りある人にしか知られることとなる。  史上最高で最悪の戦いが、今始まる……!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...