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16. 演奏会
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静かな喫茶店に流れる音楽はショパン。今日はクラシックの音楽が一日流れていた。
マスター翼は音楽が好きで時々自分でもピアノを弾いている。
実はこの喫茶店の奥の部屋にはグランドピアノが置かれていて、たまに演奏会も開かれているのだ。永い時を生きている妖怪の中には音楽に造詣が深く、素晴らしい演奏をするモノもいる、が、そういう妖怪は表には出てこないので、たまに演奏会を開いて仲間内で音楽を楽しんでいる。
「今度の日曜は『クラシックの夕べ』をしますから良かったら聞きに来ませんか。スタッフとしてですけど」
「えっ、本当ですか」
「でも、リーちゃん、ピアノ弾いてくれるのは見た目がどう見てもぬりかべのおっさんだよ。壁の真ん中から腕がニュッって出てきてさ、二本じゃなくて三本とか四本とか出してきて弾くから超絶技巧の曲でも軽々弾いてしまうんだ。見ないで聞いている分にはいいけどさ」
「その超絶技巧の曲、聞いてみたいです」
「いつものメンバー以外の人が聞いてくれると本人も喜ぶと思います」
「可愛い女の子だしね」
「えっ、そんな」
初めてそのピアノを見た時、リナはビックリして思わずそっと撫でてしまった。
懐かしいピアノ。リナは子供の頃、少しだけ母の知り合いのところに習いに行った事がある。自宅でピアノを教えていたその人は厳しい人で、まだ5歳のリナの手首をすぐに叩いた。それも物差しで。多分、リナの母が無理に頼んだせいであまり気乗りがしなかったのだろう。
大人しいリナなら何か言っても丸め込めると思ったのかもしれない。リナは痛いのが嫌でその家に行く途中で時間をつぶしてから帰った。母から行かなくて良いと言われた時は嬉しかった。
でも、学校でピアノを見た時に弾いてみたいと思ってこっそり放課後に練習をした。誰も居ない音楽室から聞こえてくるピアノの音は学校の怪談になってしまったが、簡単な曲なら弾けるようになったのは嬉しかった。ずっとピアノには触っていない。このグランドピアノはピカピカで触ったら指紋が付きそうだ。だのに、撫でてしまった……。
「リナちゃんはピアノを弾くんですか?」
「えっ、いいえ。学校で少し、触った程度です」
「良かったら弾いてみて。猫ふんじゃったとか結構皆、弾いていますから」
「そうそう、俺だって猫ふんじゃったぐらいなら弾けるよ」
「いいんですか」
「かまいませんよ。時々鳴らしてあげないとこのピアノ、すねるんです」
「すねる……ですか?」
「ピアノのくせにね」
「付喪神とも言えますが、このピアノ勝手に鳴るんです。自動演奏機能付きですね」
「自動演奏ができるくせに人に弾かれたがる、変なピアノなんだ」
マスター翼の好意に甘えてリナは時々ピアノを弾かせてもらうようになったが、物凄く弾きやすくて綺麗な音が出てくるのが楽しい。
翼が楽譜を持ってきて教えてくれるのも嬉しかった。
「でも、マスター、タダでピアノを教えてもらうのは申し訳ないです」
「いや、いいんですよ。リナちゃんは筋がいいですし、暇なときはBGMとしてお店に音を流してもらえれば」
「ええっ、そんなレベルじゃないですよ」
「いや、多分リナちゃんは才能がありますよ。耳コピしているでしょう?」
「えっ」
「一応、楽譜を見ていますけど、目線より手のほうが早いですし、見てない時もありますよ」
「えっ」
「そういえば、ピアノの音からリーちゃんの気持ちも何となく伝わってくるし」
「音楽に気持ちを乗せられるのも才能ですよ」
というやり取りがあって、何時の間にかリナは喫茶「AYASHI」でピアノを弾くようになってしまった。まだ人前に出せるほどではないと思うが、簡単な曲でも聞いていると癒されると言って貰えるのは面映ゆいけど嬉しい。
リナは本当にこの喫茶店に巡り合えて良かったと思う。赤い靴と兜と籠手はどうかと思うけど、変化してくれるのでこれ以上余計なモノが現れないように祈っている。
『クラシックの夕べ』に集まったのは見た目が紳士、淑女の皆さんだった。服装もマナーも申し分ないように見える。
各テーブルにアフタヌーンティースタンドが置かれ、上段には一口サイズのケーキや色取り取りのゼリー、小さなプリンアラモード、中段にはスコーンとミートパイ、卵のミニグラタン、下段には各種サンドイッチと一口サイズのハンバーガーが置かれていた。
スープはコーンスープとコンソメスープに飲み物は水とシャンパンにワインが置いてある。また、シャンパンフルーツがキラキラした透明な器に入れてあった。
「まるでホテルの食事のようですね」
「うーん。ホテルより美味しいと思うよ。材料がちがうし、何でもマスターの手作りだから」
「それは確かに」
集まりが始まる前にスタッフは先に味見を兼ねて食事を取らせてもらったが、こんな美味しいモノは生まれて初めてだと店員Kが感激していた。
リナも美味しくてこれが食べられるのが役得というか食べる喜びだとテンションが上がっていたせいで、翼が何やら言っていたのを聞き逃してしまった。
ピアノを弾くのは柔和な顔をしたおじ様だった。縦にも横にも大きいが顔つきが優しいせいでそんなに威圧感はなかった。
だがしかし、ピアノを引き出すと真剣な顔になり、その両手から醸し出される音額は素晴らしかった。
そして、彼は最初、人間だったのにリストの曲を弾いている途中にその姿が壁になり、その壁から手がニュッと4本出てきて素晴らしい速さで曲を弾き始めた時は客席からどよめきが起こった。それはいつも彼が本気を出し始めた時に見られる事だったので、観客はその音に酔いしれ、シッポや耳が出て来たり、中には本性に戻ってしまったモノもいた。
(ウソ。さっきまで人間だったのに、今や妖怪屋敷だわ)
素晴らしい音楽とそれに酔いしれる妖怪たち。リナの目の前に普段は見られない光景が広がっていた。
マスター翼は音楽が好きで時々自分でもピアノを弾いている。
実はこの喫茶店の奥の部屋にはグランドピアノが置かれていて、たまに演奏会も開かれているのだ。永い時を生きている妖怪の中には音楽に造詣が深く、素晴らしい演奏をするモノもいる、が、そういう妖怪は表には出てこないので、たまに演奏会を開いて仲間内で音楽を楽しんでいる。
「今度の日曜は『クラシックの夕べ』をしますから良かったら聞きに来ませんか。スタッフとしてですけど」
「えっ、本当ですか」
「でも、リーちゃん、ピアノ弾いてくれるのは見た目がどう見てもぬりかべのおっさんだよ。壁の真ん中から腕がニュッって出てきてさ、二本じゃなくて三本とか四本とか出してきて弾くから超絶技巧の曲でも軽々弾いてしまうんだ。見ないで聞いている分にはいいけどさ」
「その超絶技巧の曲、聞いてみたいです」
「いつものメンバー以外の人が聞いてくれると本人も喜ぶと思います」
「可愛い女の子だしね」
「えっ、そんな」
初めてそのピアノを見た時、リナはビックリして思わずそっと撫でてしまった。
懐かしいピアノ。リナは子供の頃、少しだけ母の知り合いのところに習いに行った事がある。自宅でピアノを教えていたその人は厳しい人で、まだ5歳のリナの手首をすぐに叩いた。それも物差しで。多分、リナの母が無理に頼んだせいであまり気乗りがしなかったのだろう。
大人しいリナなら何か言っても丸め込めると思ったのかもしれない。リナは痛いのが嫌でその家に行く途中で時間をつぶしてから帰った。母から行かなくて良いと言われた時は嬉しかった。
でも、学校でピアノを見た時に弾いてみたいと思ってこっそり放課後に練習をした。誰も居ない音楽室から聞こえてくるピアノの音は学校の怪談になってしまったが、簡単な曲なら弾けるようになったのは嬉しかった。ずっとピアノには触っていない。このグランドピアノはピカピカで触ったら指紋が付きそうだ。だのに、撫でてしまった……。
「リナちゃんはピアノを弾くんですか?」
「えっ、いいえ。学校で少し、触った程度です」
「良かったら弾いてみて。猫ふんじゃったとか結構皆、弾いていますから」
「そうそう、俺だって猫ふんじゃったぐらいなら弾けるよ」
「いいんですか」
「かまいませんよ。時々鳴らしてあげないとこのピアノ、すねるんです」
「すねる……ですか?」
「ピアノのくせにね」
「付喪神とも言えますが、このピアノ勝手に鳴るんです。自動演奏機能付きですね」
「自動演奏ができるくせに人に弾かれたがる、変なピアノなんだ」
マスター翼の好意に甘えてリナは時々ピアノを弾かせてもらうようになったが、物凄く弾きやすくて綺麗な音が出てくるのが楽しい。
翼が楽譜を持ってきて教えてくれるのも嬉しかった。
「でも、マスター、タダでピアノを教えてもらうのは申し訳ないです」
「いや、いいんですよ。リナちゃんは筋がいいですし、暇なときはBGMとしてお店に音を流してもらえれば」
「ええっ、そんなレベルじゃないですよ」
「いや、多分リナちゃんは才能がありますよ。耳コピしているでしょう?」
「えっ」
「一応、楽譜を見ていますけど、目線より手のほうが早いですし、見てない時もありますよ」
「えっ」
「そういえば、ピアノの音からリーちゃんの気持ちも何となく伝わってくるし」
「音楽に気持ちを乗せられるのも才能ですよ」
というやり取りがあって、何時の間にかリナは喫茶「AYASHI」でピアノを弾くようになってしまった。まだ人前に出せるほどではないと思うが、簡単な曲でも聞いていると癒されると言って貰えるのは面映ゆいけど嬉しい。
リナは本当にこの喫茶店に巡り合えて良かったと思う。赤い靴と兜と籠手はどうかと思うけど、変化してくれるのでこれ以上余計なモノが現れないように祈っている。
『クラシックの夕べ』に集まったのは見た目が紳士、淑女の皆さんだった。服装もマナーも申し分ないように見える。
各テーブルにアフタヌーンティースタンドが置かれ、上段には一口サイズのケーキや色取り取りのゼリー、小さなプリンアラモード、中段にはスコーンとミートパイ、卵のミニグラタン、下段には各種サンドイッチと一口サイズのハンバーガーが置かれていた。
スープはコーンスープとコンソメスープに飲み物は水とシャンパンにワインが置いてある。また、シャンパンフルーツがキラキラした透明な器に入れてあった。
「まるでホテルの食事のようですね」
「うーん。ホテルより美味しいと思うよ。材料がちがうし、何でもマスターの手作りだから」
「それは確かに」
集まりが始まる前にスタッフは先に味見を兼ねて食事を取らせてもらったが、こんな美味しいモノは生まれて初めてだと店員Kが感激していた。
リナも美味しくてこれが食べられるのが役得というか食べる喜びだとテンションが上がっていたせいで、翼が何やら言っていたのを聞き逃してしまった。
ピアノを弾くのは柔和な顔をしたおじ様だった。縦にも横にも大きいが顔つきが優しいせいでそんなに威圧感はなかった。
だがしかし、ピアノを引き出すと真剣な顔になり、その両手から醸し出される音額は素晴らしかった。
そして、彼は最初、人間だったのにリストの曲を弾いている途中にその姿が壁になり、その壁から手がニュッと4本出てきて素晴らしい速さで曲を弾き始めた時は客席からどよめきが起こった。それはいつも彼が本気を出し始めた時に見られる事だったので、観客はその音に酔いしれ、シッポや耳が出て来たり、中には本性に戻ってしまったモノもいた。
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