赤い靴から始まるAYAKASHI殺人事件

サラ

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5. 喫茶『AYASHI』

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 そうして、リナは無事にコールセンターのバイトを辞めて、喫茶『AYASHI』でアルバイトをする事になった。
 喫茶店でのリナの呼び名は『RI』。普段はリーちゃんと呼ばれる事となった。

 この喫茶店では皆、本名ではなくアルファベットの頭文字で名前を呼び合っている。何故かというと、本名を力の強い妖怪に知られると良くないから。
 たまに、ハグレの妖怪がフラリとこの喫茶店に立ち寄る事があって、店員を気に入るとそのまま連れて行こうとすることがあるそうだ。

 店員Aは妖狐だが皆から店員Aと呼ばれているし、アルバイトも不定期に現れるものもいるので、新しく採用されたら欠番になっているアルファベットを選ぶ。なので、リナは欠番からRを選び、Iを付けてリーにした。

「リーちゃん、って可愛い呼び方ですね」
「猫みたいだけど、猫、飼っていた?」
「猫、飼いたかったんですけど、実家はマンションで飼えなかったんです」
「それで、自分が猫になったのか」
「いえ、呼び名がリーになっただけで」
「ひょっとすると、猫系の変化をするかもしれないね」
「化け猫とか?」
「ええっ! 止めて下さい」

 喫茶店のアルバイト達は新しく入った初々しいリナの事を気に入って、色々と構ってくるので、リナはかなり、戸惑っていた。

「全く、さぼってばかりいないで、仕事しろ。店員AとB! ほら、コーヒーとミートソース」
「あーっ、すみません。普通のコーヒーで良いですか? 今日はマスターがいないので」
「ああ、構わん。お前も少しは飲めるコーヒーを淹れられるようになってきたからな」
「ナキンさん以外だと美味しいって言って貰えるんですよ」

 店員Aはそう言いながら手際よくコーヒーをセットして、リナにミートソースの準備を頼んだ。
 ミートソースは大量に作って冷凍してあるので温めて出すだけだが、ここのミートソースはかなり美味しい。リナも作った時に味見させてもらったが、ケチャップから手作りしているし、どうも、材料の野菜からして違うらしい。ここの喫茶店の軽食は物凄く美味しい。

「ここのパンとかパスタとかも全部手作りで余計なモノは入ってないし、卵も肉も専門牧場から運んでいるから、普通とは違うんだ」
「こんなに、美味しいと行列ができて満員御礼になりそうなものですけど、程々にしかお客様は来ないんですね」
「そりゃ、いつもケルベロスのナキンさんがいるから、小物は来られないよ。そうでなくても、他の常連も力のあるモノばかりだから、いくら美味しくてもビビッてしまって味がしないんじゃないかな」

 ミートソースのスパゲッティには小さなサラダと野菜スープが付く。
 今日のサラダはレタスにポテトサラダがのっているが、大き目の角切りハムがゴロゴロしていた。ざっくり切ったゆで卵が入っているのも美味しそうだ。スープは透き通ったコンソメに色取り取りの千切り野菜が浮いている。
 リナが来る夕方に、仕込みをする事はないが、ほとんどの下ごしらえはマスターの自宅で行っているそうだ。

「りーちゃん、家で料理をしている? 割と手際がいいね」
「はい。自炊していますから」
「じゃぁ、ここの材料を持って帰ると良いよ。マヨネーズも手作りだから日持ちはしないけど美味しいから」
「いいんですか。有り難うございます。ほんと、ここの材料とか料理とか凄いですね。こだわりの逸品とかもありそう」

「マスターが料理好きで凝り性だから、時々、手の込んだ料理も出すんだ。それに月に一度だけどフルコースの食事会があるよ。完全予約制で2年先まで予約は埋まっているけど」
「フルコースって、あの、お高いんでしょう? 材料費もかかってそうだし」
「ここ、普段は時価だけど、一応、フルコースは5万円って事になっているんだ。ただ、ここの会計が時価なのはお金がなくて払えない人外もいるし、裕福な人外もいるから、相互助け合いって感じになっているせい」

「あの、普通の人間と人外の人とは同じ物をたべるんでしょうか?」
「人外の種類によるね。俺とかは基本、食べなくても平気。食事は単に味を楽しむだけ。高位の人外は割と食事はいらないのが多い。ナキンさんも食事はいらないはずだよ。よく色々食べているけど」
「そして、ナキン様は必ず試食に現れるお得意様」
「バイトは試食ができるのが役得だけど、食事会の時は忙しくて大変なんだ。リーちゃんもいずれ、食事会の時は手伝いに入ると思うけど、人型じゃない、まさに妖怪って言う風体の人外もいるからその時は驚かないでね」

「あの、普通の人間はいないんですか?」
「マスターは人間だよ。後、いわゆる突然変異の超能力者もたまに来る。マスターの知り合いだけど人間らしいよ。でも、見た目が人型だったらそんなに人外って言っても気にならないでしょ」
「ええ、そうですね。刑事の御大さんなんて、大柄な人にしか見えません」
「ああ、あれは鬼だから、角さえ隠せば人をそんなに変わらない。ところで、何か、連絡あった?」
「いえ、時々、電話がきますけど、元気ならいいって」

 リナは一応、殺人事件の重要参考人だけど、担当が鬼の御大で、多分巻き込まれただけだろう、という事で特に何もなく過ごしている。
 ただ、赤い靴を渡してきた知人女性と殺害の犯人の繋がりがわからないので、万が一、赤い靴の関連で何かあるといけないので、わざわざ毎日、店員Aが大学と喫茶店、自宅までの送り迎えをしてくれている。
 申し訳ないと遠慮するリナにこれは通勤手当だから、と言う店員Aは人がいない所でこっそり転移をしているので特に負担はない。

 リナは喫茶店の人外たちのおかげで今の所、平穏な日々を過ごしていた。
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