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1. 赤い靴
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今年の夏は暑い。
しかし、喫茶店の中は心地よい温度だし、ボリュームを絞ったクラシックの音楽が流れて常連客はノンビリとした一時を過ごしていた。
「アイスティー! 下さい」
女の子は勢いよく店に入って来たかと思うと片手を振り回しながら大きな声でオーダーを叫んだ。
外は暑い、けどそれ以上に彼女は興奮していた。
女の子の名前はリナ。長く艶のある黒髪にくっきりとした目が可愛らしい。ワインレッドのワンピースに同色のボレロを合わせているのがオシャレで良く似合っている。
静かな店の中に彼女の声は大きく響き、これから先の予定を考えながらタブレットでホテルの予約をしていたナキンの眉をひそめさせた。
「いらっしゃいませ。アイスティーでございますね。レモンとミルク、どちらにいたしましょうか?」
店員Aが音もたてずに寄って行き小さな声で尋ねると、リナもハッとしたように辺りを見回し、同じように小さな声でミルクと答えながら困ったような顔をした。自分が静かな店を騒がしたことに気づいたようだ。そっと近くのソファー席に座ると、
「ごめんなさい。大きな声で……」
「よろしいですよ、お気になさらず」
「嬉しくて、つい大きな声が出てしまったの」
「何か良い事があったのですか?」
「ええ、靴が脱げたの!」
「く、靴がですか?」
「そう、このお店に入ろうとしたら入口で急に靴が脱げたの」
店員Aがリナの足元にさりげなく視線を送るとリナは裸足だった。
「靴は外に置いたままで、よろしいのでしょうか?」
「できれば、捨ててしまいたいの」
そうきっぱりと言いながらリナは目を泳がせた。
「何か、事情がおありのようですね。よろしければ、こちらで処分いたしましょうか」
「お、お願いできれば……。で、でもとても困った靴なの」
「どうぞ、アイスティーです」
マスターの翼がスッとアイスティーを差し出した。
「あっ、すみません。マスター……」
「どういたしまして。何か事情がおありのようですね?」
リナは悩まし気な顔をすると
「私、赤い靴に取り憑かれてしまったんです」
「靴に、憑りつかれ?」
「ええ、友達が「この靴、綺麗だけど履きやすいから履いてみて」って言うから気軽に履いてみたんです」
リナはその靴が足にピッタリして歩きやすかったので、「赤い靴って初めて履いたけど意外といいかも」って言いながら振り返ったらそこには誰も居なかった。
そして、それまで履いていた靴も無くなっていた。
「靴だけ取り換えて消えてしまったってこと?」
「そうなんです。びっくりしてしばらくその辺を探したんですけど見当たらなくて」
「居なくなっていたんですか?」
「ええ、ラインしてみたら……『ごめん。それ、呪われた靴なの。脱げないけど、お風呂と寝る時だけは外れるから安心して。自分より靴にふさわしい人にあったらピカッと一瞬輝くから、そうしたらその人に履いてもらえたら譲ることができるよ。でも、ありがとう』って……」
「ピカッと光ったんですか?」
「わかりません。光ったところは見ていないんです。詳しい話を聞こうとしてもそれ以降、連絡がつかなくて住所はわからないし……」
「友達、何ですよね」
「ええ、バイト先が一緒で仲良くなったんです」
リナはバイト先で友人の連絡先を聞いてみたが、個人情報とかで何処に行ったのかも調べられなかった。バイト先で一緒だっただけだから実家とかもわからなくて、もうずっとこの靴を履きっぱなしになっている。
「本当に脱げなくて家の中でも履いたまま。靴のまま家に上がると靴裏はなぜかきれいになるんですけど、どうしても外れないんです。お風呂と寝る時だけは脱げるんですけど、遠くに放り投げてもお風呂から出ると勝手に寄ってきて足に嵌るんです」
リナは一気に話すとため息をついた。
「ずっと履きっぱなしですか?」
「ええ、ベッドに上がると脱げるので、家ではベッドで過ごしています」
「でも、ストッキングとかはどうしてるの? スカートだと普通は履いてますよね?」
「履いてないです。でも、履いているように見えるんです。履いてないのに、なんだかストッキング履いているように見えるし、履いているような感触はあるんです。何だろう? 脚だけ薄いバリヤーが張られているような感じがします」
「確かに。今はストッキング履いているようにみえないですね。素足に見える。うーん。ちょっと待ってて下さい。その赤い靴、見てきます。あったら持ってきます」
「えっ、でももう見たくないような」
「この店に入る時に脱げたんですよね?」
「ええ、はい」
「多分、この店は普通の人には認識しづらいですし、靴も勝手に相手の領域に入るのを遠慮したんだと思います。ですから、お嬢さんの話を聞いた限りでは、お店を出るとまた、靴に憑かれますね」
「また、ですか……」
「とりあえず、その靴を見てみましょう」
そう言いながら店員Aは店の前においてあるという赤い靴を取りに行った。赤い靴は店の前にきちんと揃えておいてあった。
出入りの邪魔にならない位置だが、つま先を外に向けているのは、リナが出てきたら直ぐに履けるように、との気遣いかもしれない。
しかし、喫茶店の中は心地よい温度だし、ボリュームを絞ったクラシックの音楽が流れて常連客はノンビリとした一時を過ごしていた。
「アイスティー! 下さい」
女の子は勢いよく店に入って来たかと思うと片手を振り回しながら大きな声でオーダーを叫んだ。
外は暑い、けどそれ以上に彼女は興奮していた。
女の子の名前はリナ。長く艶のある黒髪にくっきりとした目が可愛らしい。ワインレッドのワンピースに同色のボレロを合わせているのがオシャレで良く似合っている。
静かな店の中に彼女の声は大きく響き、これから先の予定を考えながらタブレットでホテルの予約をしていたナキンの眉をひそめさせた。
「いらっしゃいませ。アイスティーでございますね。レモンとミルク、どちらにいたしましょうか?」
店員Aが音もたてずに寄って行き小さな声で尋ねると、リナもハッとしたように辺りを見回し、同じように小さな声でミルクと答えながら困ったような顔をした。自分が静かな店を騒がしたことに気づいたようだ。そっと近くのソファー席に座ると、
「ごめんなさい。大きな声で……」
「よろしいですよ、お気になさらず」
「嬉しくて、つい大きな声が出てしまったの」
「何か良い事があったのですか?」
「ええ、靴が脱げたの!」
「く、靴がですか?」
「そう、このお店に入ろうとしたら入口で急に靴が脱げたの」
店員Aがリナの足元にさりげなく視線を送るとリナは裸足だった。
「靴は外に置いたままで、よろしいのでしょうか?」
「できれば、捨ててしまいたいの」
そうきっぱりと言いながらリナは目を泳がせた。
「何か、事情がおありのようですね。よろしければ、こちらで処分いたしましょうか」
「お、お願いできれば……。で、でもとても困った靴なの」
「どうぞ、アイスティーです」
マスターの翼がスッとアイスティーを差し出した。
「あっ、すみません。マスター……」
「どういたしまして。何か事情がおありのようですね?」
リナは悩まし気な顔をすると
「私、赤い靴に取り憑かれてしまったんです」
「靴に、憑りつかれ?」
「ええ、友達が「この靴、綺麗だけど履きやすいから履いてみて」って言うから気軽に履いてみたんです」
リナはその靴が足にピッタリして歩きやすかったので、「赤い靴って初めて履いたけど意外といいかも」って言いながら振り返ったらそこには誰も居なかった。
そして、それまで履いていた靴も無くなっていた。
「靴だけ取り換えて消えてしまったってこと?」
「そうなんです。びっくりしてしばらくその辺を探したんですけど見当たらなくて」
「居なくなっていたんですか?」
「ええ、ラインしてみたら……『ごめん。それ、呪われた靴なの。脱げないけど、お風呂と寝る時だけは外れるから安心して。自分より靴にふさわしい人にあったらピカッと一瞬輝くから、そうしたらその人に履いてもらえたら譲ることができるよ。でも、ありがとう』って……」
「ピカッと光ったんですか?」
「わかりません。光ったところは見ていないんです。詳しい話を聞こうとしてもそれ以降、連絡がつかなくて住所はわからないし……」
「友達、何ですよね」
「ええ、バイト先が一緒で仲良くなったんです」
リナはバイト先で友人の連絡先を聞いてみたが、個人情報とかで何処に行ったのかも調べられなかった。バイト先で一緒だっただけだから実家とかもわからなくて、もうずっとこの靴を履きっぱなしになっている。
「本当に脱げなくて家の中でも履いたまま。靴のまま家に上がると靴裏はなぜかきれいになるんですけど、どうしても外れないんです。お風呂と寝る時だけは脱げるんですけど、遠くに放り投げてもお風呂から出ると勝手に寄ってきて足に嵌るんです」
リナは一気に話すとため息をついた。
「ずっと履きっぱなしですか?」
「ええ、ベッドに上がると脱げるので、家ではベッドで過ごしています」
「でも、ストッキングとかはどうしてるの? スカートだと普通は履いてますよね?」
「履いてないです。でも、履いているように見えるんです。履いてないのに、なんだかストッキング履いているように見えるし、履いているような感触はあるんです。何だろう? 脚だけ薄いバリヤーが張られているような感じがします」
「確かに。今はストッキング履いているようにみえないですね。素足に見える。うーん。ちょっと待ってて下さい。その赤い靴、見てきます。あったら持ってきます」
「えっ、でももう見たくないような」
「この店に入る時に脱げたんですよね?」
「ええ、はい」
「多分、この店は普通の人には認識しづらいですし、靴も勝手に相手の領域に入るのを遠慮したんだと思います。ですから、お嬢さんの話を聞いた限りでは、お店を出るとまた、靴に憑かれますね」
「また、ですか……」
「とりあえず、その靴を見てみましょう」
そう言いながら店員Aは店の前においてあるという赤い靴を取りに行った。赤い靴は店の前にきちんと揃えておいてあった。
出入りの邪魔にならない位置だが、つま先を外に向けているのは、リナが出てきたら直ぐに履けるように、との気遣いかもしれない。
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