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小話5 お月見団子(リーナ視点)
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「お兄様、アルファント殿下から白玉粉と上新粉、餅粉が届いたのよ。お米と一緒に取り寄せたみたい。呼び名は違うんだけど、説明書が付いていて内容的には同じだから色々作れるわ」
「団子か! やったー!」
「殿下はアンコが好きだからお汁粉かおぜんざいが食べたいのかなって思ったんだけど、ほら、明後日は中秋の名月でしょ?」
「お月見団子!」
「こっちの世界では中秋の名月とかお月見の風習はないけど」
「でも、満月見ながらお酒は飲むよ。楽器を奏でながら」
「そうね。大人の世界ではお月見酒宴と言っているらしいわ。この間、グリーンさんからお月見団子が欲しいって言われたの」
「まさかそれで、白玉粉?」
「そうかもしれないわ。殿下とグリーンさん、ブラックさんは仲がいいもの」
「あれは持ちつ持たれつって関係だな。ひょっとしてススキとかススキもどきとか手に入れてそうだ」
「ありえるわね」
お兄様は嬉しそうだし、アルファント殿下には期待されてそうだし、グリーンさんとブラックさんは待ち構えているような気がして……。という事で私はせっせとお月見団子を作った。
おぜんざいとお汁粉に白玉を入れるのも良いなぁと思ったので、その分は多めに作ってしまっておいた。
せっかくなのでお月見のお供えをするために三方も白木で作ってもらった。アルファント殿下に連絡すると、王室御用達の職人を紹介してくれたので、お兄様と一緒に工房に訪ねてササっと作ってもらえた。
変わった形なので首を傾げられたけど、何も聞かれなかったのは良かった。だって、異世界のお供えの風習でなんて説明しづらいんですもの。
さて、お月見当日。嬉しそうな面々を前にしてとりあえずお供え用の準備をしたけど、ススキもどきもちゃんとあった。ススキにソックリだけど、名前はスーキーというらしい。
「あっ、団子とススキがあればお月見と思っていたけど、そういえばこんなのに団子を積んでた」
「そうだ。そうだ。懐かしいな。今日は月見酒だと思っていたけど、ちゃんとお月見になっている。これ、何て言ったんだっけ?」
「三方だよ。ほら、団子も全部で15個あるんだ。積み方も決まっているんだ」
「へぇ、詳しいな!」
「フフン、そうでもないけど」
お兄様は偉そうに胸を張った。「へぇ、三方って言うんだ」って物珍しそうに眺めていたくせに。
どういうわけか王室の面々に神殿の人達に王家の側近の皆さま、警護の人たち、大勢がワイワイしている。何だか季節の行事が恒例のパーティーになってしまっているような、その度に私が色々と料理をしているような気がするけど、良いんだろうか。
「やっぱり、お月見にはキノコの炊き込みご飯があうなぁ」
「ああ、この鳥肉のハムも良い。それとこの燻製卵はアークが作ったんだろう?」
「いつもリーナにばかり作ってもらっているから悪いかなと思って」
「アークは燻製の腕を上げたよ。燻製チーズ、ウマッ!」
「このほんのりとした香りが良いなぁ。あの桜のチップを使っているんだろう? 何か、後利益がありそうじゃないか」
お兄様、褒められて鼻高々。いつも作ってもらってばかりじゃ悪いからって、ちょっと前から燻製づくりを始めたんだけど、燻製器を手作りしたのはビックリした。昔、テレビで見たのをいつか作ろうって覚えていたんだって。この世界で燻製が食卓に出た事はないからひょっとして、燻製はないのかもしれない。塩漬けはよく見るけど。
「そういえば、ラクアートは前より持ち直していたぞ」
「ああ、グリーンさんとブラックさんはウオーター家の依頼を受けていたんだっけ。希少なマリリケの花を採取してきたんだろう?」
「そうなんだ。あれは魔力の回復を促す花だから。ウオーター家としては大事な跡取りがあんなになって必死だな」
「ラクアートもあの後は憑き物が落ちたみたいに性格も大人しくなったみたいだから」
「あれから、アルファント殿下は会いにいったの?」
「一応ね。ピンクの事がショックみたいだったけど、少しずつ回復しているようだ。あれもピンクに会うまではそこまで変じゃなかったから」
「茶ピンクさんの事は?」
「茶ピンクからは洗脳されて魔力も取られて、散々な目にあわされたくせに良く覚えてないみたいなんだ」
「茶ピンクの魔道具はすごかったから」
「あいつ、何処から魔道具を拾って来たんだろう? 乙女ゲームの中にそんな設定はあったっけ?」
「ないよ。俺たちだって魔族についてはそんなに詳しいわけじゃないし」
「今は魔族と龍族は特に争っていないから」
「今はな」
「時折、乱暴な魔王が出てくると戦争状態になるみたいだから、アークもそれに備えて鍛えておかないと」
「止めてくれよ。俺には攻撃手段はないんだ」
「パンがあるじゃないか」
「そうだ。アークのパンは無敵だ」
お兄様は皆に揶揄われて涙目になっていたけど、私が「問題は先送り」と囁くと「そうだな」と頷いて元気になった。だって、お兄様が卵になるのはずっと先の事だし。だったら、今の人生を楽しまなくちゃ。
「とりあえず月がきれいだ」
「お月見団子も美味い」
この世界でも空に輝く月はまん丸で綺麗だった。
「団子か! やったー!」
「殿下はアンコが好きだからお汁粉かおぜんざいが食べたいのかなって思ったんだけど、ほら、明後日は中秋の名月でしょ?」
「お月見団子!」
「こっちの世界では中秋の名月とかお月見の風習はないけど」
「でも、満月見ながらお酒は飲むよ。楽器を奏でながら」
「そうね。大人の世界ではお月見酒宴と言っているらしいわ。この間、グリーンさんからお月見団子が欲しいって言われたの」
「まさかそれで、白玉粉?」
「そうかもしれないわ。殿下とグリーンさん、ブラックさんは仲がいいもの」
「あれは持ちつ持たれつって関係だな。ひょっとしてススキとかススキもどきとか手に入れてそうだ」
「ありえるわね」
お兄様は嬉しそうだし、アルファント殿下には期待されてそうだし、グリーンさんとブラックさんは待ち構えているような気がして……。という事で私はせっせとお月見団子を作った。
おぜんざいとお汁粉に白玉を入れるのも良いなぁと思ったので、その分は多めに作ってしまっておいた。
せっかくなのでお月見のお供えをするために三方も白木で作ってもらった。アルファント殿下に連絡すると、王室御用達の職人を紹介してくれたので、お兄様と一緒に工房に訪ねてササっと作ってもらえた。
変わった形なので首を傾げられたけど、何も聞かれなかったのは良かった。だって、異世界のお供えの風習でなんて説明しづらいんですもの。
さて、お月見当日。嬉しそうな面々を前にしてとりあえずお供え用の準備をしたけど、ススキもどきもちゃんとあった。ススキにソックリだけど、名前はスーキーというらしい。
「あっ、団子とススキがあればお月見と思っていたけど、そういえばこんなのに団子を積んでた」
「そうだ。そうだ。懐かしいな。今日は月見酒だと思っていたけど、ちゃんとお月見になっている。これ、何て言ったんだっけ?」
「三方だよ。ほら、団子も全部で15個あるんだ。積み方も決まっているんだ」
「へぇ、詳しいな!」
「フフン、そうでもないけど」
お兄様は偉そうに胸を張った。「へぇ、三方って言うんだ」って物珍しそうに眺めていたくせに。
どういうわけか王室の面々に神殿の人達に王家の側近の皆さま、警護の人たち、大勢がワイワイしている。何だか季節の行事が恒例のパーティーになってしまっているような、その度に私が色々と料理をしているような気がするけど、良いんだろうか。
「やっぱり、お月見にはキノコの炊き込みご飯があうなぁ」
「ああ、この鳥肉のハムも良い。それとこの燻製卵はアークが作ったんだろう?」
「いつもリーナにばかり作ってもらっているから悪いかなと思って」
「アークは燻製の腕を上げたよ。燻製チーズ、ウマッ!」
「このほんのりとした香りが良いなぁ。あの桜のチップを使っているんだろう? 何か、後利益がありそうじゃないか」
お兄様、褒められて鼻高々。いつも作ってもらってばかりじゃ悪いからって、ちょっと前から燻製づくりを始めたんだけど、燻製器を手作りしたのはビックリした。昔、テレビで見たのをいつか作ろうって覚えていたんだって。この世界で燻製が食卓に出た事はないからひょっとして、燻製はないのかもしれない。塩漬けはよく見るけど。
「そういえば、ラクアートは前より持ち直していたぞ」
「ああ、グリーンさんとブラックさんはウオーター家の依頼を受けていたんだっけ。希少なマリリケの花を採取してきたんだろう?」
「そうなんだ。あれは魔力の回復を促す花だから。ウオーター家としては大事な跡取りがあんなになって必死だな」
「ラクアートもあの後は憑き物が落ちたみたいに性格も大人しくなったみたいだから」
「あれから、アルファント殿下は会いにいったの?」
「一応ね。ピンクの事がショックみたいだったけど、少しずつ回復しているようだ。あれもピンクに会うまではそこまで変じゃなかったから」
「茶ピンクさんの事は?」
「茶ピンクからは洗脳されて魔力も取られて、散々な目にあわされたくせに良く覚えてないみたいなんだ」
「茶ピンクの魔道具はすごかったから」
「あいつ、何処から魔道具を拾って来たんだろう? 乙女ゲームの中にそんな設定はあったっけ?」
「ないよ。俺たちだって魔族についてはそんなに詳しいわけじゃないし」
「今は魔族と龍族は特に争っていないから」
「今はな」
「時折、乱暴な魔王が出てくると戦争状態になるみたいだから、アークもそれに備えて鍛えておかないと」
「止めてくれよ。俺には攻撃手段はないんだ」
「パンがあるじゃないか」
「そうだ。アークのパンは無敵だ」
お兄様は皆に揶揄われて涙目になっていたけど、私が「問題は先送り」と囁くと「そうだな」と頷いて元気になった。だって、お兄様が卵になるのはずっと先の事だし。だったら、今の人生を楽しまなくちゃ。
「とりあえず月がきれいだ」
「お月見団子も美味い」
この世界でも空に輝く月はまん丸で綺麗だった。
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