辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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91. 聖女

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「殿下はもう大丈夫なのですか?」
 ランディ様の心配そうな声に

「大事無い。不覚を取ってしまった」
「私も役に立たず……」
「いや、あれは想定外だし、しょうがない」

 殿下の声も普通に戻って一安心。

「いや、本当に安心した」
「本当だよ。あの威力の『水魔法の加護』の上位版が悪い奴に移ると考えたら恐ろしい」
「良かった」
「良かったです」

 皆が安心したのかホッとしたような空気が流れた。そっと、殿下にポーション入りのリンゴジュースを出してあげた。

「美味しい。ありがとう。リーナ。もう、どうなる事かと思って、正直、怖かった」
「どういたしまして」
「本当に良かった。君を失わずに済んで。もっとも、いざとなればリーナを連れて逃げるつもりだった」
「そうじゃないかと思っていました。良かったです。聖女があんなのでなくて」

 ランディ様の声に殿下は静かに肯いた。殿下、本当に私の事、その、す、好きなのですね。嬉しい。そっとアイテムボックスから聖女の杖を取り出すと、杖は喜んで光り輝いた。私の気持ちが伝わったようだ。

「リーナ!」
「リーナ様」
「おお、聖女の杖だ」

 どこからどう見ても枝なんだけど、ピカピカと輝いている杖は空中に浮くと、私の周りをクルクルと回った。
 枝からの嬉しい、よろしく、との気持ちが流れ込んでくる。
 そして、私は聖女に成った。
 と同時に髪の色が七色に輝きレインボーカラーの髪色になった。金髪が七色に輝きピカピカしている。これはない! 私の髪がまるでイルミネーション。

「ウソ! ありえない髪色」
「おおー、久々に見る聖女の髪。でもちょっと、光り過ぎ!」
「いや、虹色の髪はいいけど、なんでそんなにピカピカしているんだ?」
「聖女の杖が張り切っているせいじゃないか」
「リーナ、きれいだ」

 アルファント殿下、可笑しい! どうしてこの髪で綺麗なんて言えるの!? ピカピカなのよ!

「リーナ! 聖女の杖に光るのは止めて! って言えば」
「ピカピカ、止めて!」

 ピカピカ光っていた私の髪は落ち着いたレインボーカラーに変わった。虹色は変わらないのね。聖女がお役目の後、直ぐ引退する訳が分かったわ。こんな髪だと凄く落ち着かない。

「あーっ、動揺している所、悪いが魔王、じゃない魔女を封印してくれるか」
「封印、どうやって?」
「聖女の杖持って〈封〉っていえば杖が何とかしてくれる」
「〈伐〉でもいいけど、取り合えず動かなくしてほしい。また、何かされると困るし」

 ブラックさんの言葉を受けて聖女の杖に

「お任せします。あの二人、動けなくしてください」

 と頼むと茶ピンクさんが呆けてこちらを見ていたのが大声で喚きだした。

「何よ! なんで聖女の杖があんたんとこにあるの!」
(なんで、ピカピカ!?)
「私が聖女よ! 私が聖女に成るの!」
(違う! あたし!)

 聖女の杖がまたピカピカと輝き、茶ピンクさんのところに飛んでいくと王座? の周りをクルクル回りだした。
 すると、これまでは茶ピンクさんだけが見えていたのに、ピンクさんが重なって見えだして、最終的には王座の前に立っている二人の表は茶ピンクさん、裏はピンクさんというように背中同士がくっ付いた状態になってしまった。
 二人は一体だけど、お互いは見えない。これは、……見えなくても同化しているほうが良かったかもしれない。
 見ているうちに二人は凍り付いて氷像になってしまった。ただし、まだ、顔の部分はそのままで凍っていない。

「何よ! これ! どういう事!?」
「やだ! なんで氷!」
「君たちはこれまでの行いの報いを受けている。その、君たちの魂はかなり濁っているから今世だけでなく、前世やその前も悪行を重ねているんじゃないかな」
「本来なら、氷で封印された後はその精神だけは転生できるんだが、無理だな」

「イヤよ! 助けて!」
「その魂の濁りが薄れたら、また輪廻の輪に入れると思う」
「イヤよ! どうしろというの!」
「反省して良い行いをシミュレーション?」
「何よ! 悪い事なんか何もしてない!」
「ウソ! 自覚ないの! 君たち、二人とも凄い濁りだよ。ああ、もう封印してしまったほうが良いか?」
「色々聞き出さなくていいのか?」
「いや、もう封じてしまえば悪さはできないし」

 という事で申し訳ない気もするけど、お二人を完全に氷像にしてしまった。ちょうど喚いていたのでひどい顔で固まってしまったのは気の毒だと思う。

「フゥー、これで一旦片付いた。さて、異次元との裂け目だけど、どうする? 完全に塞ぐか?」
「どうしましょう? アルファント殿下?」
「うーん。俺らだけでは判断がつかないな。陛下とノヴァ神官に相談するか」
「お二人とも、驚くでしょうね。リーナ様の髪色を見て。でも、喜ばしい事です。これで殿下も王太子に」
「ランディ!」

「あの、聖女と王太子の関係って?」
「いや、リーナが気にする事は」
「殿下! いつまでも内緒にしていないで、打ち明けるべきです」
「そうだな。でも、それは場所を変えて」
「そうですね」
「その前にさっきアイツら、いや、茶ピンクだったか、あれが飛ばした魔物を片付けておかないと」
「それは一応、穴を塞いだので今は出て来てないようですが」
「いや、あれは仮止めのようなものだから完全に塞いでしまわないといけないと思う」
「仮止め、ですか?」

「リーナ、俺、お腹空いちゃたよ」
「もう、お兄様ったら」

 お兄様は通常運転。色々あって、何か食べたくなったのね。
 でも、突然、突然にお兄様が光った。そして

「リーナ!」

 と一声、叫ぶと消えてしまった。跡形もなく。

 ウソ! お兄様、何処へ消えたの?!


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