上 下
72 / 103

72. 桜が!?

しおりを挟む
「お兄様、どう思う? なんだか凄く疲れてしまったわ」
「いや、ほんと。あいつらの頭の中はどうなっているんだ。この世界は現実なのにピンク頭と茶ピンクにとってはゲームの世界で、多分、俺たちはゲームの中のどうでも動かせる駒だと思っている、のかな」
「そうね。そして、私は彼女たちにとって都合のいい女、扱い」

「リーナから『水魔法の加護』を譲られるのがゲーム攻略の一つのカギ、しかし、リーナの加護は『水魔法の加護』じゃない」
「そこなのよね。確かに魔王封印には氷の魔法が必要みたいだけど、特に『水魔法の加護』でなくても氷の魔法は使えるし、歴代聖女も皆が『水魔法の加護』を持っていたわけではないし」
「まぁ、何か裏技的なモノを使われてもまさか加護が『液体の加護』とは思わないだろうから、そこはしっかり黙って置こう」

「アルファント殿下に内緒にしているのは心苦しいんだけど」
「名称が違うだけで中身はたいして違わないじゃないか。敵を騙すにはまず味方からというから、今まで通りで良いと思う」
「でもね、お兄様、大神殿の本水晶にはウソは通じないのよ。これまでは簡易の水晶だったから良かったけど」
「ああ、王族の結婚式は大神殿か! 加護もレベルもバレてしまう!」
「やっぱり、私、逃げなくちゃ」
「いや、待て。リーナの隠蔽のレベルのほうが大神殿に勝つかもしれないだろ」
「そんな都合のいい事……」

「リーナ、問題は先送りだ。まだまだ時間はある。乙女ゲームのほうは待ったなしだけど」
「そうよ、ゲームは始まっているの。ピンクさんは休場しているけど、茶ピンクさんは魔王討伐って言っているから封印の解き方を知っているのかもしれないわ! それに殿下は攻略対象なのよ!」
「まぁ、落ち着いて。リーナ、羊羹でも食べて。ムッ、この羊羹美味いな」
「この間、もち米と一緒に寒天が届いたの。お兄様も見ていたでしょう?」
「そうだっけ。イヤ、これ栗が入ってて美味い。あっちの大陸にも一度、行ってみたいな。他にも何か良いモノがありそうだ」

 私達はリビングで栗羊羹とミルク入り麦茶を頂いていた。朝食を食べた後だけど何だか甘いモノが食べたくなったから。お兄様が好きなせいで最近はミルク入り麦茶をすぐ出してしまう。とりあえず麦茶で後からゆっくり他のモノをいただくけど、次は何を出そう?

「お兄様、何か飲みたいものある?」
「そうだな。久しぶりにコーラでも」
「炭酸はさっぱりするものね」

 コーラを出そうとしていると、アルファント殿下からご連絡鳥が飛んできた。

「アーク、リーナ、大変だ。桜が枯れそうだ」
「えっ? 桜が!」
「まさか、桜が?」

 私達は慌てて支度をすると王宮の神殿へ駆けつけた。
 昨日まで元気に咲き誇っていた桜の花が今日は全体的にしんなりと下を向いていて、胴咲き桜のうち、5つほどが茶色く変色、というか花びらが枯れていた。
 枝から咲いている花も所どころ茶色のシミができている。
 アルファント殿下とノヴァ神官が神妙な顔をしている。

「うわーっ、ウソ! 花が枯れてる? 何があったんですか」
「今朝、神官が見に来たらこの状態になっていたそうだ」
「それで、神官が言うには昨夜、神殿長が茶ピンクを連れて桜の木を見に来たらしくて。で、歌声が聞こえたので急いで駆けつけてみると、神殿長が立ち会ってラクアート様とキミカ・タチワルーイ嬢が儀式を行っていたそうです」
「まさか、儀式を行ったのですか? 黙って!」
「どうして、そんな勝手な真似を」

「普通は国王陛下もしくは王家の代表者と神殿の代表者、立ち合いの元で儀式を行うのだが……、今の神殿長は前国王の王弟なんだ。つまり、王家と神殿の代表であるとこじつけたらしい」
「ノヴァ神官は?」
「私は昨夜、神官長と一緒に王宮の禁書室で聖女の儀式に付いて調べていました。神殿長は地方に出かけていて、2日後に帰る予定だったのです。ですから油断していました」
「昨夜のうちに茶ピンクと神殿長が会って、直ぐに桜の木の下で勝手に儀式を行ったという事か」
「神殿長は桜の花が満開だからすぐに儀式を行わなくてはいけなかった、と言っております。すでにアルファント殿下との顔合わせも済んで後は神殿長待ちだったそうなので、急いで義務を果たしたと」

「それで、歌を歌って虹色の宝玉は落ちてきたのですか?」
「神官の話によると、虹色ではなくマーブル模様であったとの事です。しかも、本来3日に分けて歌を歌うはずなのに一度に3回、歌を歌って3個のマーブル模様の宝玉を手に入れたそうです。そして、直ぐに口に入れて、ラクアート様と力を合わせて氷の塊を出したそうです」
「ラクアート様と?」
「はい。そして、桜の木から枝を折って葉を千切り、桜の花を氷の塊二つに飾り付けて聖女の杖を手に入れました」
「聖女の杖が出てきたのですか?!」
「はい。杖の先に丸い透明な水晶が付いたスティックだそうです」
「ピンク頭と同じじゃないですか! 加護はどうだったんです?」

 神官の話によると、茶ピンクさんは

「加護と聖女の杖を手に入れたわ。私が聖女よ! 桜の花も満開! もう魔王の封印も解けているし、仲間を集めなくちゃいけません。神殿長、お約束どおり、協力してくださいね」

 と大声で笑い、大神殿に戻って行ったそうだ。本来、王宮の神殿には許可を得た者しか入れないが、許可を与える立場にある神殿長が案内してきたので、そのまますんなりと桜の元に行けたらしい。
 そして、夜、遅かったせいか茶ピンクさんはまだ寝ているそうだ。
 神殿長はその出自から責任ある立場についているが、実際にはお飾りで普段は何もしないのに、王家の複雑な事情にはちょっかいを出してくる扱いずらい人でもあるらしい。

「これはまずいなぁ」
「桜の花が枯れたことなんて一度もなかったのに、一体、茶ピンクは何をしたんだ」
「何か、生命力を吸い取るような事をしたのかもしれません。それに本来の聖女の杖はキラキラと輝きますが、タチワルーイ嬢のスティックは輝かなかったそうですから」
「それにしても、桜の花がこんな状態になったのは歴史上、初めてだ。神殿長は何と言っている?」
「昨夜、儀式を行った時には何ともなかったし、もう、桜はその役割を果たしたから枯れていくんだろう、と」

 それにしても、桜の花は七分咲きのまま枯れてしまう? それとも枯れた状態で全開になる?
 昨日までの美しい桜の花はもう、見る影もなかった。

 何だか、見ていると悲しくなってくる。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

魔力無しの聖女に何の御用ですか?〜義妹達に国を追い出されて婚約者にも見捨てられる戻ってこい?自由気ままな生活が気に入ったので断固拒否します〜

まつおいおり
恋愛
毎日毎日、国のトラブル解決に追われるミレイ・ノーザン、水の魔法を失敗して道を浸水させてしまったのを何とかして欲しいとか、火の魔道具が暴走して火事を消火してほしいとか、このガルシア国はほぼ全ての事柄に魔法や魔道具を使っている、そっちの方が効率的だからだ、しかしだからこそそういった魔力の揉め事が後を絶たない………彼女は八光聖女の一人、退魔の剣の振るい手、この剣はあらゆる魔力を吸収し、霧散させる、………なので義妹達にあらゆる国の魔力トラブル処理を任せられていた、ある日、彼女は八光聖女をクビにされ、さらに婚約者も取られ、トドメに国外追放………あてもなく彷徨う、ひょんなことからハルバートという男に助けられ、何でも屋『ブレーメンズ』に所属、舞い込む依頼、忙しくもやり甲斐のある日々………一方、義妹達はガルシア国の魔力トラブルを処理が上手く出来ず、今更私を連れ戻そうとするが、はいそうですかと聞くわけがない。

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

パーティをクビにされた聖女は、親が最強故に自分が規格外という自覚がない!!!

三月べに
ファンタジー
 リヴィア・ヴァルキュールは、聖女の称号を持つ。母親は大聖女、父親は大魔法使い。  勇者クラスと謳われるほどのパーティからクビを通告されたリヴィアは、落ち込みつつ仕事を探して冒険者ギルドへ相談に行く。  すると、回復役としてパーティに加わってほしいとダークエルフの少年に頼まれた。  臨時で組んだシルバーランクの冒険者パーティと、フェンリルの森に行くとーーーー?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...