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66. タウンハウスにて
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風薫る心地よい5月になった。
もうすぐお兄様はこのタウンハウスから引っ越しする。と言っても、私の護衛になって毎日通うからそんなに変わらないとは思うけど、でも、何だか寂しい。
成人のお祝いは加護の儀と同様に半年に一度、8月15日と2月15日に行われて、平民の皆さんは都市や街、町や村の長からお祝いのメッセージと記念品が贈られる。居住地の財力によって頂けるものに多少の差はあるらしいけど、国からの補助がかなりあるし、記念品の内容やリストには毎年の監査が入るから割といいモノが頂けるようだ。
そして、貴族は王宮で成人の儀と立食パーティーが行われるが、出席するのは成人する本人だけで親も婚約者も呼ばれない。大人抜きの本当に成人だけのパーティー。
貴族は魔法学園以外にも普通の学園や騎士学校もあるし、魔力の強い高位貴族は魔法学園を卒業したら魔法大学校に行く人も多い。
そして、社交デビューは魔法学園を卒業してからで、それでも魔法大学校に行っているうちは学業が優先される。魔法大学校を卒業するのは18歳なので、そこから本格的な社交界の一員として扱われるそうだ。
アルファント殿下と私は今、婚約者という関係だけど、本格的な社交界へのお披露目は私が魔法学園を卒業してから。
そして、け、結婚は私が魔法大学校を卒業したら直ぐ、3月の終わりに行われることになっている。アルファント殿下も私も魔法大学校に行くのは決定事項らしい。
もう、結婚式の日にちも決まっていて、大神殿も王宮もアプリコット家も結婚の準備に入っているとの事。
どうしよう、結婚なんてまだ早いと思うのだけど、結婚まで後、4年弱あるし問題は先送りにしよう。うん。そうしよう。
という事で私達はリビングでバナナケーキを食べている。
バナナ、私達の命をつないでくれた大切な相棒。だけど、食べ過ぎてしばらく見たくなくてご無沙汰していました。
アイテムボックスにはたたき売りしてもいいくらいの大量のバナナが入っているけど、これまで本当にお蔵入りしていた。
久々に取り出してバナナ入りケーキを作ってみた。バナナ本体もそのまま出してミルク入り麦茶を添える。
「美味いなぁ。凄く久々にバナナを食べたよ。俺たち、毎日のようにバナナを食べていたなぁ」
「本当にね」
「バナナだけ食べても、アプリコット家のバナナって前世のバナナより美味しいんじゃないか」
「そうね。加護が関係しているせいかもしれないわ」
「でも、このバナナケーキは美味い。外はカリっと程よくこんがり、中はしっとりフワフワでこれはいいなぁ。アルファント殿下の分はある?」
「ええ、キチンと 取ってあるわよ。本当にお兄様は殿下が好きね」
「そりゃ、本当に義兄弟になるし。あれ、妹の旦那って義理の弟になるのか。うっ、あのアルファント殿下が弟、可愛がれない」
「もう、義弟って、名前だけだし実質は殿下がお兄様のお兄様ね。あれ、私、殿下と結婚!? ああ、如何しよう」
「おう、問題は先送りだったっけ。ほら、結婚するとしてもまだ何年もあるからダイジョウブだ」
「そうね。まだまだ先のことね」
私達、ここから逃げ出そうとしていたのに、いつの間にかアルファント殿下という存在が、殿下の存在が大きくなって私の中で殿下がいつも微笑んでいる。
「リーナ、リーナまた、ボーッとしている」
「えっ、そう?」
「そうだよ。そういえば、3年生のトイレに茶ピンクが出没したんだって?」
「そうなの、4年生なのに3年の階にいたのよ。驚いたわ」
お兄様に茶ピンクさんと会った時の事を話すとお兄様は凄く怒ってくれた。
「ねぇ、お兄様、どう思う?」
「やっぱり、あの茶ピンク、ほら、ドッペルゲンガーってあったろう? それじゃないか」
「でも、ドッペルゲンガーって自分の分身みたいなものでしょう? ピンクさんと茶ピンクさんは性格が全然違うみたいなの。茶ピンクさん、ものすごく強気で言葉もきついし、その、何だか底意地が悪いって言うか」
「ああ、アルファント殿下に対しても凄くハキハキしてて、でも、人当たりは良さそうな感じで、殿下はやり手のセールスマンみたいなうさん臭さを感じたって言っていた。あれは、世間ずれしてないとコロッと騙されるのもいるんじゃないかって。相手を見て態度を変えるみたいだし」
「つまり、私の事は下に見ていいと判断したって事?」
「そうだろうな。あれ、転生者じゃないか。魔力量がかなり多いらしいし。これまでは病弱なせいで表には出てこれなかったけど、一気に成りあがってやろうとか考えてたりして」
「それで、どうして私を見下すの? 私って乙女ゲームの原作で一体どう、扱われているのかしら? ピンクさんも私の事をかなり軽く見ていたし、」
「リーナは優しいよ。優しすぎるから、何とでもできるって甘く見られているんじゃないか。それにしてもピンク頭と茶ピンク、どうしても重なってみえるんだよな~。どうなっているんだろう」
という話をしていたら、アルファント殿下からご連絡鳥がきた。
今から直ぐにこちらに来たいという事だったので、私は慌てて着替えに走った。ラシーヌ様と侍女の方にも来ていただいて、急いでリビングを整える。
後から考えると、1階だったらいつでも誰でも迎えられるようになっているのにどうして2階のリビングを片付けたのかしら。
やっぱり私達の中で殿下はすでに身内になっているから、かもしれない。
もうすぐお兄様はこのタウンハウスから引っ越しする。と言っても、私の護衛になって毎日通うからそんなに変わらないとは思うけど、でも、何だか寂しい。
成人のお祝いは加護の儀と同様に半年に一度、8月15日と2月15日に行われて、平民の皆さんは都市や街、町や村の長からお祝いのメッセージと記念品が贈られる。居住地の財力によって頂けるものに多少の差はあるらしいけど、国からの補助がかなりあるし、記念品の内容やリストには毎年の監査が入るから割といいモノが頂けるようだ。
そして、貴族は王宮で成人の儀と立食パーティーが行われるが、出席するのは成人する本人だけで親も婚約者も呼ばれない。大人抜きの本当に成人だけのパーティー。
貴族は魔法学園以外にも普通の学園や騎士学校もあるし、魔力の強い高位貴族は魔法学園を卒業したら魔法大学校に行く人も多い。
そして、社交デビューは魔法学園を卒業してからで、それでも魔法大学校に行っているうちは学業が優先される。魔法大学校を卒業するのは18歳なので、そこから本格的な社交界の一員として扱われるそうだ。
アルファント殿下と私は今、婚約者という関係だけど、本格的な社交界へのお披露目は私が魔法学園を卒業してから。
そして、け、結婚は私が魔法大学校を卒業したら直ぐ、3月の終わりに行われることになっている。アルファント殿下も私も魔法大学校に行くのは決定事項らしい。
もう、結婚式の日にちも決まっていて、大神殿も王宮もアプリコット家も結婚の準備に入っているとの事。
どうしよう、結婚なんてまだ早いと思うのだけど、結婚まで後、4年弱あるし問題は先送りにしよう。うん。そうしよう。
という事で私達はリビングでバナナケーキを食べている。
バナナ、私達の命をつないでくれた大切な相棒。だけど、食べ過ぎてしばらく見たくなくてご無沙汰していました。
アイテムボックスにはたたき売りしてもいいくらいの大量のバナナが入っているけど、これまで本当にお蔵入りしていた。
久々に取り出してバナナ入りケーキを作ってみた。バナナ本体もそのまま出してミルク入り麦茶を添える。
「美味いなぁ。凄く久々にバナナを食べたよ。俺たち、毎日のようにバナナを食べていたなぁ」
「本当にね」
「バナナだけ食べても、アプリコット家のバナナって前世のバナナより美味しいんじゃないか」
「そうね。加護が関係しているせいかもしれないわ」
「でも、このバナナケーキは美味い。外はカリっと程よくこんがり、中はしっとりフワフワでこれはいいなぁ。アルファント殿下の分はある?」
「ええ、キチンと 取ってあるわよ。本当にお兄様は殿下が好きね」
「そりゃ、本当に義兄弟になるし。あれ、妹の旦那って義理の弟になるのか。うっ、あのアルファント殿下が弟、可愛がれない」
「もう、義弟って、名前だけだし実質は殿下がお兄様のお兄様ね。あれ、私、殿下と結婚!? ああ、如何しよう」
「おう、問題は先送りだったっけ。ほら、結婚するとしてもまだ何年もあるからダイジョウブだ」
「そうね。まだまだ先のことね」
私達、ここから逃げ出そうとしていたのに、いつの間にかアルファント殿下という存在が、殿下の存在が大きくなって私の中で殿下がいつも微笑んでいる。
「リーナ、リーナまた、ボーッとしている」
「えっ、そう?」
「そうだよ。そういえば、3年生のトイレに茶ピンクが出没したんだって?」
「そうなの、4年生なのに3年の階にいたのよ。驚いたわ」
お兄様に茶ピンクさんと会った時の事を話すとお兄様は凄く怒ってくれた。
「ねぇ、お兄様、どう思う?」
「やっぱり、あの茶ピンク、ほら、ドッペルゲンガーってあったろう? それじゃないか」
「でも、ドッペルゲンガーって自分の分身みたいなものでしょう? ピンクさんと茶ピンクさんは性格が全然違うみたいなの。茶ピンクさん、ものすごく強気で言葉もきついし、その、何だか底意地が悪いって言うか」
「ああ、アルファント殿下に対しても凄くハキハキしてて、でも、人当たりは良さそうな感じで、殿下はやり手のセールスマンみたいなうさん臭さを感じたって言っていた。あれは、世間ずれしてないとコロッと騙されるのもいるんじゃないかって。相手を見て態度を変えるみたいだし」
「つまり、私の事は下に見ていいと判断したって事?」
「そうだろうな。あれ、転生者じゃないか。魔力量がかなり多いらしいし。これまでは病弱なせいで表には出てこれなかったけど、一気に成りあがってやろうとか考えてたりして」
「それで、どうして私を見下すの? 私って乙女ゲームの原作で一体どう、扱われているのかしら? ピンクさんも私の事をかなり軽く見ていたし、」
「リーナは優しいよ。優しすぎるから、何とでもできるって甘く見られているんじゃないか。それにしてもピンク頭と茶ピンク、どうしても重なってみえるんだよな~。どうなっているんだろう」
という話をしていたら、アルファント殿下からご連絡鳥がきた。
今から直ぐにこちらに来たいという事だったので、私は慌てて着替えに走った。ラシーヌ様と侍女の方にも来ていただいて、急いでリビングを整える。
後から考えると、1階だったらいつでも誰でも迎えられるようになっているのにどうして2階のリビングを片付けたのかしら。
やっぱり私達の中で殿下はすでに身内になっているから、かもしれない。
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