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63. 新学期に備えて
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「お兄様」
「ん……」
「お兄様はアプリコット家から逃げる事が出来た、と言えるのかしら」
「ん……そうなのかな~。自分の事なんて考えたことがなかった。俺、自分の事はリーナのオマケみたいに思っていたんだ」
「オマケ……」
「バカだよな。リーナが逃げるなら一緒に逃げて、そこでパン屋でも開けばいいと思っていた。でも、アルファント殿下が俺を側近にしようと考えていたなんて思ってもみなかった」
「殿下も前もって言ってくれたらいいのに」
「そうだな。でも、多分まだ、俺の誕生日まで間があるからこんなに早く領主が伝えるなんて思わなかったんじゃないか」
「お兄様にとってお父様は領主なのね」
「リーナだって一応、お父様と呼んでいるだけだろう」
「そうね。私の家族はお兄様だけだわ」
「俺、リーナとだけは離れたくない。だから、成人なんて頭になかったけど、これまでと変わらずリーナといられるのは有難いと思う」
「私もお兄様が従僕でなくなるって聞いた時はショックで頭が真っ白になったもの」
「俺もショックだった。家族と引き離される! とか思って。母さんが消えた時より衝撃だった。そういえば、何故、あの時は割と平気だったんだろう? 幼い子供にとって母親は絶対なはずなのに。生存本能が何かしたのかな」
「そうかもしれないわね」
私たちはため息をつくと、同時にため息をついた事に何だか可笑しくなって顔を見合わせて笑ってしまった。
「お兄様、おはぎを食べる?」
「うん。食べる。俺、おはぎとボタ餅の違いが良く判らないんだけど、どう違うんだ?」
「良く判らないけど大して違いはないと思うわ。地方とか、季節とか中身で多少の違いはあるみたいだけど私はおはぎのほうが言い慣れているし」
「うん。俺もおはぎのほうが聞きなれているかも。これ、美味いな」
「ええ、美味しいわね」
「衣食住に困らなくて、しかも、美味いものが食える、それは何よりの幸せだと思う」
「そうね。どうしてもこの世界だって、困っている人は居るものね」
「うん」
そうして、私達は黙々とおはぎを食べ、ほうじ茶を飲んだ。久しぶりに飲んだほうじ茶は香ばしくて美味しかった。
「アーク、リーナ、話があるので良ければ王宮迄来てくれないか」
翌日の朝、アルファント殿下からご連絡鳥がきて王宮に呼び出された。
一応、型通りのご挨拶をしてから、殿下は私を見て顔を綻ばせた。
「あぁ、リーナに会えて嬉しいな。相変わらず可愛い」
「殿下」
ランディ様のあきれたような声に殿下は顔を引き締めると
「実は、君たちは今年度から3年生になるが5月と7月に成人を迎える。魔法学園在学中は成人を迎えてもまだ半成人のような扱いだが、兄弟であっても領主の加護が成人と共に切れるので男女は一緒に居られない。前世の記憶がある俺たちにとっては窮屈な決まりだが、このままでは二人は別れて暮らすことになるので、アークには俺の従僕という立場でリーナの護衛を任命したい」
「はい」
「それと同時に将来の側近としてアプリコット家から出て俺、個人に仕えてもらいたいと思う。もちろん、しっかりと給料もでるぞ」
「ありがとうございます」
「ただ、アプリコット辺境伯からは、アークの加護が『バナナの加護』に進化した場合は返してほしいと契約書に明記された。もし、『バナナの加護』が発現した場合は次期領主の側近としてそれなりの地位を約束するそうだ」
「バナナの加護ですか」
「ああ、いまだに『バナナの加護』を得た者が出てないので、そこは絶対に譲れないそうだが、俺の側近になる件については喜んで了承したそうだ。直ぐに領主から話が来ると思うが」
「実は昨日、呼び出されて話を聞きました」
「早いな。昨日、宰相から話が行ったばかりだぞ」
「アプリコット辺境伯はかなりのやり手ですから仕事や伝達もすぐ行うようですよ。ところで、アーク、これからは同僚としてよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。よろしくお願いいたします」
その場にはノームル様もいらっしゃって、5月から護衛も兼ねて同じタウンハウスで生活をするという話をされた。
これまでは学園までの送り迎えと学園での護衛だったが、明日からは通いでタウンハウスに来て下さるそうだ。
ただ、私達が転生者である為、どうしても家族以外の人がいると寛げないだろうという事でノームル様も新しく侍女として王宮から派遣される方も普段は1階に控えて下さるそうだ。
だので、2階のリビングでは今までと変わらず、だらける事ができるぞと殿下に言われてしまった。
殿下は流石に王族なのでどこでも侍従が付いてきてしまうのが面倒だ、とランディ様を見た。
ランディ様は殿下にお互い様です、と言い返していたので二人はやはり仲が良いのだろう。
お兄様の寝る場所は殿下のタウンハウスか王宮になるけど、お兄様と入れ替わりにノームル様が2階に来て下さるし、侍女の方も1階に寝泊まりしてくださるのでまるで貴族の令嬢のような扱いだな、とお兄様が呟いた。
色々秘密のある私だけど、というか聖女の杖と聖女の加護の事はもう、ノームル様には知らせてあるので、最大の秘密は『液体の加護』だけど、これは『水魔法の加護』とダブる部分が多いし、お茶が出せる事もお出し汁やポーションの件についても『水魔法の加護』から派生したものと認識してくださっているから、後はお兄様の軽い口が問題だと思う。
「よし、これからは沈思黙考。無口な考える人キャラで行こう」
「無理だと思うわ。お兄様って親しい人の前だとすごく気を許してしまうから。それに割とおしゃべりじゃない」
「えっ、おしゃべり?」
「ええ、居るだけでまわりを明るくするタイプね。金髪だし」
「そうか。じゃぁ、まあいいか。リーナの秘密に関しては絶対に口を割らないから安心してくれ」
「お願いね」
心配だけど、お兄様は『液体の加護』という言葉はきっと口に出さないと思う。信じよう。うん。
シオはアプリコット家から監査というか、監督の人が来るときだけタウンハウスに来ていたけど、翌日、連絡を入れると直ぐにやってきて凄く文句を言われた。
どうしてこれまでと同じように侍女にしといてくれないのか、とか民の暮らしを調べる為に市井に出している事にすればいいじゃないかとか、一応私は仕える主人なのに敬意の欠片もない物言いと態度だった。
明日にも王宮から侍女が派遣されるから、取り合えずアプリコット家に話を聞きに行くようにというと、王宮という言葉に驚き、どうして、何故というので、
「リーナはアルファント殿下の婚約者になったからこれからは護衛と護衛を兼ねた侍女たちが付く事になったんだ」
「私がこれからは側にいてお世話をさせていただきますから、あなたはさっさと荷物を纏めて下さる?」
「あんた、誰よ」
「リボンヌ伯爵家のノームルと申します。リーナ様はいずれは王妃になられる方です。控えなさい」
側についていてくれたノームル様がシオを諫めてくれた。
シオは放心したように「まさか、王妃ですって」
と呟いていたが、いつの間にか呼ばれていたタウンハウスの護衛にそのまま外へ連れていかれた。
「ざまぁ」
とお兄様が呟いていたけど、聞かなかったことにしよう。
「ん……」
「お兄様はアプリコット家から逃げる事が出来た、と言えるのかしら」
「ん……そうなのかな~。自分の事なんて考えたことがなかった。俺、自分の事はリーナのオマケみたいに思っていたんだ」
「オマケ……」
「バカだよな。リーナが逃げるなら一緒に逃げて、そこでパン屋でも開けばいいと思っていた。でも、アルファント殿下が俺を側近にしようと考えていたなんて思ってもみなかった」
「殿下も前もって言ってくれたらいいのに」
「そうだな。でも、多分まだ、俺の誕生日まで間があるからこんなに早く領主が伝えるなんて思わなかったんじゃないか」
「お兄様にとってお父様は領主なのね」
「リーナだって一応、お父様と呼んでいるだけだろう」
「そうね。私の家族はお兄様だけだわ」
「俺、リーナとだけは離れたくない。だから、成人なんて頭になかったけど、これまでと変わらずリーナといられるのは有難いと思う」
「私もお兄様が従僕でなくなるって聞いた時はショックで頭が真っ白になったもの」
「俺もショックだった。家族と引き離される! とか思って。母さんが消えた時より衝撃だった。そういえば、何故、あの時は割と平気だったんだろう? 幼い子供にとって母親は絶対なはずなのに。生存本能が何かしたのかな」
「そうかもしれないわね」
私たちはため息をつくと、同時にため息をついた事に何だか可笑しくなって顔を見合わせて笑ってしまった。
「お兄様、おはぎを食べる?」
「うん。食べる。俺、おはぎとボタ餅の違いが良く判らないんだけど、どう違うんだ?」
「良く判らないけど大して違いはないと思うわ。地方とか、季節とか中身で多少の違いはあるみたいだけど私はおはぎのほうが言い慣れているし」
「うん。俺もおはぎのほうが聞きなれているかも。これ、美味いな」
「ええ、美味しいわね」
「衣食住に困らなくて、しかも、美味いものが食える、それは何よりの幸せだと思う」
「そうね。どうしてもこの世界だって、困っている人は居るものね」
「うん」
そうして、私達は黙々とおはぎを食べ、ほうじ茶を飲んだ。久しぶりに飲んだほうじ茶は香ばしくて美味しかった。
「アーク、リーナ、話があるので良ければ王宮迄来てくれないか」
翌日の朝、アルファント殿下からご連絡鳥がきて王宮に呼び出された。
一応、型通りのご挨拶をしてから、殿下は私を見て顔を綻ばせた。
「あぁ、リーナに会えて嬉しいな。相変わらず可愛い」
「殿下」
ランディ様のあきれたような声に殿下は顔を引き締めると
「実は、君たちは今年度から3年生になるが5月と7月に成人を迎える。魔法学園在学中は成人を迎えてもまだ半成人のような扱いだが、兄弟であっても領主の加護が成人と共に切れるので男女は一緒に居られない。前世の記憶がある俺たちにとっては窮屈な決まりだが、このままでは二人は別れて暮らすことになるので、アークには俺の従僕という立場でリーナの護衛を任命したい」
「はい」
「それと同時に将来の側近としてアプリコット家から出て俺、個人に仕えてもらいたいと思う。もちろん、しっかりと給料もでるぞ」
「ありがとうございます」
「ただ、アプリコット辺境伯からは、アークの加護が『バナナの加護』に進化した場合は返してほしいと契約書に明記された。もし、『バナナの加護』が発現した場合は次期領主の側近としてそれなりの地位を約束するそうだ」
「バナナの加護ですか」
「ああ、いまだに『バナナの加護』を得た者が出てないので、そこは絶対に譲れないそうだが、俺の側近になる件については喜んで了承したそうだ。直ぐに領主から話が来ると思うが」
「実は昨日、呼び出されて話を聞きました」
「早いな。昨日、宰相から話が行ったばかりだぞ」
「アプリコット辺境伯はかなりのやり手ですから仕事や伝達もすぐ行うようですよ。ところで、アーク、これからは同僚としてよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。よろしくお願いいたします」
その場にはノームル様もいらっしゃって、5月から護衛も兼ねて同じタウンハウスで生活をするという話をされた。
これまでは学園までの送り迎えと学園での護衛だったが、明日からは通いでタウンハウスに来て下さるそうだ。
ただ、私達が転生者である為、どうしても家族以外の人がいると寛げないだろうという事でノームル様も新しく侍女として王宮から派遣される方も普段は1階に控えて下さるそうだ。
だので、2階のリビングでは今までと変わらず、だらける事ができるぞと殿下に言われてしまった。
殿下は流石に王族なのでどこでも侍従が付いてきてしまうのが面倒だ、とランディ様を見た。
ランディ様は殿下にお互い様です、と言い返していたので二人はやはり仲が良いのだろう。
お兄様の寝る場所は殿下のタウンハウスか王宮になるけど、お兄様と入れ替わりにノームル様が2階に来て下さるし、侍女の方も1階に寝泊まりしてくださるのでまるで貴族の令嬢のような扱いだな、とお兄様が呟いた。
色々秘密のある私だけど、というか聖女の杖と聖女の加護の事はもう、ノームル様には知らせてあるので、最大の秘密は『液体の加護』だけど、これは『水魔法の加護』とダブる部分が多いし、お茶が出せる事もお出し汁やポーションの件についても『水魔法の加護』から派生したものと認識してくださっているから、後はお兄様の軽い口が問題だと思う。
「よし、これからは沈思黙考。無口な考える人キャラで行こう」
「無理だと思うわ。お兄様って親しい人の前だとすごく気を許してしまうから。それに割とおしゃべりじゃない」
「えっ、おしゃべり?」
「ええ、居るだけでまわりを明るくするタイプね。金髪だし」
「そうか。じゃぁ、まあいいか。リーナの秘密に関しては絶対に口を割らないから安心してくれ」
「お願いね」
心配だけど、お兄様は『液体の加護』という言葉はきっと口に出さないと思う。信じよう。うん。
シオはアプリコット家から監査というか、監督の人が来るときだけタウンハウスに来ていたけど、翌日、連絡を入れると直ぐにやってきて凄く文句を言われた。
どうしてこれまでと同じように侍女にしといてくれないのか、とか民の暮らしを調べる為に市井に出している事にすればいいじゃないかとか、一応私は仕える主人なのに敬意の欠片もない物言いと態度だった。
明日にも王宮から侍女が派遣されるから、取り合えずアプリコット家に話を聞きに行くようにというと、王宮という言葉に驚き、どうして、何故というので、
「リーナはアルファント殿下の婚約者になったからこれからは護衛と護衛を兼ねた侍女たちが付く事になったんだ」
「私がこれからは側にいてお世話をさせていただきますから、あなたはさっさと荷物を纏めて下さる?」
「あんた、誰よ」
「リボンヌ伯爵家のノームルと申します。リーナ様はいずれは王妃になられる方です。控えなさい」
側についていてくれたノームル様がシオを諫めてくれた。
シオは放心したように「まさか、王妃ですって」
と呟いていたが、いつの間にか呼ばれていたタウンハウスの護衛にそのまま外へ連れていかれた。
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とお兄様が呟いていたけど、聞かなかったことにしよう。
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