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54. ピンク襲来とコケピンク
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新学期が始まる前の日にピンクさんが駆け込んできた。先ぶれと共に。
それは先ぶれをしたとは言いません。
「リーナ! あんた、何か知らない?」
「えっ、何でしょうか」
「あんたんとこの桜の木が無くなってたのよ。それも跡形もなく。つまり、前にあたしが聖女になってスグに切り倒されて根っこ迄持っていった、って事は引っこ抜いてどこかに植え替えたって事か、じゃぁ、どこかに桜の木は植えてあるんだ、きっと。どこに植え替えた! 早く教えて!」
「えっ、何を言われているのか、意味が解りません」
「桜の木が無くなったんだってば!」
「はい?」
「桜の木をどこにやった?!」
「あの、私は忙しくて、ずっとアプリコット辺境伯領には帰っておりません」
「ウソ!」
「本当です」
「うゔーん。じゃぁ、だれが桜の木を盗んだんだろう」
「あの、桜の木って、フレグランス様のものなんですか?」
「そうよ。あたしがヒロインだから桜の木はあたしのものに決まっているじゃない」
「……」
「でも、ひょっとして、桜の花が咲いているのを見つけた盗人が売るために引っこ抜いていったのかも。許せない。あれ、一応あんたんとこの土地に生えていたんだから盗難届だして、見つけたらあたしに返して! ああ、もう信じられない。ちゃんとした聖女の加護と聖女の杖に取り換えようと思っていたのに」
「ちゃんとした……」
「もう、リーナは知らないだろうけどね。本チャンのゲームが始まるのよ。それなのに、こんなショボい杖なんて」
と言いながらピンクさんが取り出した杖はスティックの上についている水晶がピンク色にギラついていた。キラキラではなく濁った光がギラッという感じだろうか。あまり見た目がいいとは言えない光だった。
「もう、虹色に光る綺麗なスティックだったはずなのに! これじゃ人前で自慢できないじゃない! とにかく、盗難届を出して行方を捜して! 急ぐから早くして! 見つかったらすぐにあたしに知らせて!」
「……」
ピンクさんは喚き終わるとムッとした顔をしながら手を差し出した。
「ほら、早く出しなさいよ!」
「……何を、ですか?」
「プレゼントよ。あたしの誕生日プレゼント」
「はぁ、お待ちください」
念のために用意しておいたピンクさんへのプレゼントを渡すと彼女はベリベリと包装紙を破り中身を取り出した。
「やだ、可愛い。なに、これあたし?」
「そうですね。ピ、フレグランス様をイメージして作りました」
「フウーン、わりとよくできているじゃない。貰ってあげるわ。お菓子もちょうだい」
ピンクさんは嬉しそうに紙袋に入ったお菓子とプレゼントの人形を抱えて帰って行った。まるで、ハリケーンのようだった。
「あれ、なんだ?」
「誤解しているというか、何というか」
「まさか、あんな理不尽な事を平気で言えるなんて、ある意味凄い」
「桜の木は監視の人の目の前で消え去りました、なんて本当の事は言えないし、桜の木の盗難届なんてどこへ出せと言うのかしら」
「そもそも、アプリコットの庭というか、森に生えていた桜の所有権がピンク頭にあるわけないだろうに。あいつ、本当に頭、湧いてんじゃないの?」
「でも帰る時は機嫌をなおしていたわ」
「アイツのドレスでつくった人形抱えてな。あの人形の中に治癒の魔石とポーション入り水玉、潜ませているんだろう?」
「ええ、乱暴に扱うと割れて、人形から治癒とポーションの効果が溢れる、みたいな」
「ピンク教の洗脳には効果があるけど、大元にも効くといいな」
「効果、効果あるのかしら。まぁ、喜んでいたからいいけど」
私達はピンクさんの襲来で一気に疲れてしまった。
なので、大福とお抹茶で一息ついた。
お米やもち米が手に入るようになってから、食生活のバリエーションが広がったと思う。大福の中には栗の甘露煮を丸ごと入れてある。
お兄様はお餅が食べられるようになったのが嬉しかったみたいで暇さえあればお餅つきをしている。ラシーヌ様が学園の送り迎えをして下さるので、お茶をお出ししているのだけど、年末には帰る前にお兄様とお餅つきを毎日されていた。
その間に私は年末年始のお料理を作っていたのだけど、かなりの量をつくったにも関わらず、ほとんど殿下に持っていかれてしまった。
代わりに現金は入ってきたけど。「まるで年末の料理屋のようだな」とお兄様が言うように、自分たちのストックよりも殿下の料理に追われる日々だった。
「なんですの? あれは」
「どういうおつもりでしょう」
私達、フルール様と侍女のエラーナ様、ラシーヌ様と私は戸惑っていた。
学園の新学期が始まって妙な事が度々起きるようになった。
というかピンクさんが私たちの前で転ぶ。わざと転ぶ。わざわざ、側に寄ってきて転ぶ。
遠目でピンクさんを見つけて避けても近づいてきて転ぶ。
すごく迷惑。
そして、
「やめて、そんなつもりじゃ」
とか
「ごめんなさい、許して!」
とか大きな、それも悲痛な声でわざとらしく頭を下げて去っていくピンクさん。
何故か必ずピンク教の人が見ているところでコケて、怒ってこちらへ寄って来ようとするピンク教の人の腕にすがって泣きそうな顔をしながら
「あたしが悪いの。多分、気に障る事をしたのよ、きっと」
と、目をウルウルとさせている。
この、ワザとらしい自作自演は何のためにしているのでしょう。
ほんと、見るだけで疲れる。
それは先ぶれをしたとは言いません。
「リーナ! あんた、何か知らない?」
「えっ、何でしょうか」
「あんたんとこの桜の木が無くなってたのよ。それも跡形もなく。つまり、前にあたしが聖女になってスグに切り倒されて根っこ迄持っていった、って事は引っこ抜いてどこかに植え替えたって事か、じゃぁ、どこかに桜の木は植えてあるんだ、きっと。どこに植え替えた! 早く教えて!」
「えっ、何を言われているのか、意味が解りません」
「桜の木が無くなったんだってば!」
「はい?」
「桜の木をどこにやった?!」
「あの、私は忙しくて、ずっとアプリコット辺境伯領には帰っておりません」
「ウソ!」
「本当です」
「うゔーん。じゃぁ、だれが桜の木を盗んだんだろう」
「あの、桜の木って、フレグランス様のものなんですか?」
「そうよ。あたしがヒロインだから桜の木はあたしのものに決まっているじゃない」
「……」
「でも、ひょっとして、桜の花が咲いているのを見つけた盗人が売るために引っこ抜いていったのかも。許せない。あれ、一応あんたんとこの土地に生えていたんだから盗難届だして、見つけたらあたしに返して! ああ、もう信じられない。ちゃんとした聖女の加護と聖女の杖に取り換えようと思っていたのに」
「ちゃんとした……」
「もう、リーナは知らないだろうけどね。本チャンのゲームが始まるのよ。それなのに、こんなショボい杖なんて」
と言いながらピンクさんが取り出した杖はスティックの上についている水晶がピンク色にギラついていた。キラキラではなく濁った光がギラッという感じだろうか。あまり見た目がいいとは言えない光だった。
「もう、虹色に光る綺麗なスティックだったはずなのに! これじゃ人前で自慢できないじゃない! とにかく、盗難届を出して行方を捜して! 急ぐから早くして! 見つかったらすぐにあたしに知らせて!」
「……」
ピンクさんは喚き終わるとムッとした顔をしながら手を差し出した。
「ほら、早く出しなさいよ!」
「……何を、ですか?」
「プレゼントよ。あたしの誕生日プレゼント」
「はぁ、お待ちください」
念のために用意しておいたピンクさんへのプレゼントを渡すと彼女はベリベリと包装紙を破り中身を取り出した。
「やだ、可愛い。なに、これあたし?」
「そうですね。ピ、フレグランス様をイメージして作りました」
「フウーン、わりとよくできているじゃない。貰ってあげるわ。お菓子もちょうだい」
ピンクさんは嬉しそうに紙袋に入ったお菓子とプレゼントの人形を抱えて帰って行った。まるで、ハリケーンのようだった。
「あれ、なんだ?」
「誤解しているというか、何というか」
「まさか、あんな理不尽な事を平気で言えるなんて、ある意味凄い」
「桜の木は監視の人の目の前で消え去りました、なんて本当の事は言えないし、桜の木の盗難届なんてどこへ出せと言うのかしら」
「そもそも、アプリコットの庭というか、森に生えていた桜の所有権がピンク頭にあるわけないだろうに。あいつ、本当に頭、湧いてんじゃないの?」
「でも帰る時は機嫌をなおしていたわ」
「アイツのドレスでつくった人形抱えてな。あの人形の中に治癒の魔石とポーション入り水玉、潜ませているんだろう?」
「ええ、乱暴に扱うと割れて、人形から治癒とポーションの効果が溢れる、みたいな」
「ピンク教の洗脳には効果があるけど、大元にも効くといいな」
「効果、効果あるのかしら。まぁ、喜んでいたからいいけど」
私達はピンクさんの襲来で一気に疲れてしまった。
なので、大福とお抹茶で一息ついた。
お米やもち米が手に入るようになってから、食生活のバリエーションが広がったと思う。大福の中には栗の甘露煮を丸ごと入れてある。
お兄様はお餅が食べられるようになったのが嬉しかったみたいで暇さえあればお餅つきをしている。ラシーヌ様が学園の送り迎えをして下さるので、お茶をお出ししているのだけど、年末には帰る前にお兄様とお餅つきを毎日されていた。
その間に私は年末年始のお料理を作っていたのだけど、かなりの量をつくったにも関わらず、ほとんど殿下に持っていかれてしまった。
代わりに現金は入ってきたけど。「まるで年末の料理屋のようだな」とお兄様が言うように、自分たちのストックよりも殿下の料理に追われる日々だった。
「なんですの? あれは」
「どういうおつもりでしょう」
私達、フルール様と侍女のエラーナ様、ラシーヌ様と私は戸惑っていた。
学園の新学期が始まって妙な事が度々起きるようになった。
というかピンクさんが私たちの前で転ぶ。わざと転ぶ。わざわざ、側に寄ってきて転ぶ。
遠目でピンクさんを見つけて避けても近づいてきて転ぶ。
すごく迷惑。
そして、
「やめて、そんなつもりじゃ」
とか
「ごめんなさい、許して!」
とか大きな、それも悲痛な声でわざとらしく頭を下げて去っていくピンクさん。
何故か必ずピンク教の人が見ているところでコケて、怒ってこちらへ寄って来ようとするピンク教の人の腕にすがって泣きそうな顔をしながら
「あたしが悪いの。多分、気に障る事をしたのよ、きっと」
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