辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

文字の大きさ
上 下
54 / 103

54. ピンク襲来とコケピンク

しおりを挟む
 新学期が始まる前の日にピンクさんが駆け込んできた。先ぶれと共に。
 それは先ぶれをしたとは言いません。

「リーナ! あんた、何か知らない?」
「えっ、何でしょうか」
「あんたんとこの桜の木が無くなってたのよ。それも跡形もなく。つまり、前にあたしが聖女になってスグに切り倒されて根っこ迄持っていった、って事は引っこ抜いてどこかに植え替えたって事か、じゃぁ、どこかに桜の木は植えてあるんだ、きっと。どこに植え替えた! 早く教えて!」

「えっ、何を言われているのか、意味が解りません」
「桜の木が無くなったんだってば!」
「はい?」
「桜の木をどこにやった?!」
「あの、私は忙しくて、ずっとアプリコット辺境伯領には帰っておりません」
「ウソ!」
「本当です」
「うゔーん。じゃぁ、だれが桜の木を盗んだんだろう」
「あの、桜の木って、フレグランス様のものなんですか?」
「そうよ。あたしがヒロインだから桜の木はあたしのものに決まっているじゃない」

「……」
「でも、ひょっとして、桜の花が咲いているのを見つけた盗人が売るために引っこ抜いていったのかも。許せない。あれ、一応あんたんとこの土地に生えていたんだから盗難届だして、見つけたらあたしに返して! ああ、もう信じられない。ちゃんとした聖女の加護と聖女の杖に取り換えようと思っていたのに」
「ちゃんとした……」
「もう、リーナは知らないだろうけどね。本チャンのゲームが始まるのよ。それなのに、こんなショボい杖なんて」

 と言いながらピンクさんが取り出した杖はスティックの上についている水晶がピンク色にギラついていた。キラキラではなく濁った光がギラッという感じだろうか。あまり見た目がいいとは言えない光だった。

「もう、虹色に光る綺麗なスティックだったはずなのに! これじゃ人前で自慢できないじゃない! とにかく、盗難届を出して行方を捜して! 急ぐから早くして! 見つかったらすぐにあたしに知らせて!」
「……」

 ピンクさんは喚き終わるとムッとした顔をしながら手を差し出した。

「ほら、早く出しなさいよ!」
「……何を、ですか?」
「プレゼントよ。あたしの誕生日プレゼント」
「はぁ、お待ちください」

 念のために用意しておいたピンクさんへのプレゼントを渡すと彼女はベリベリと包装紙を破り中身を取り出した。

「やだ、可愛い。なに、これあたし?」
「そうですね。ピ、フレグランス様をイメージして作りました」
「フウーン、わりとよくできているじゃない。貰ってあげるわ。お菓子もちょうだい」

 ピンクさんは嬉しそうに紙袋に入ったお菓子とプレゼントの人形を抱えて帰って行った。まるで、ハリケーンのようだった。

「あれ、なんだ?」
「誤解しているというか、何というか」
「まさか、あんな理不尽な事を平気で言えるなんて、ある意味凄い」
「桜の木は監視の人の目の前で消え去りました、なんて本当の事は言えないし、桜の木の盗難届なんてどこへ出せと言うのかしら」
「そもそも、アプリコットの庭というか、森に生えていた桜の所有権がピンク頭にあるわけないだろうに。あいつ、本当に頭、湧いてんじゃないの?」

「でも帰る時は機嫌をなおしていたわ」
「アイツのドレスでつくった人形抱えてな。あの人形の中に治癒の魔石とポーション入り水玉、潜ませているんだろう?」
「ええ、乱暴に扱うと割れて、人形から治癒とポーションの効果が溢れる、みたいな」
「ピンク教の洗脳には効果があるけど、大元にも効くといいな」
「効果、効果あるのかしら。まぁ、喜んでいたからいいけど」

 私達はピンクさんの襲来で一気に疲れてしまった。
 なので、大福とお抹茶で一息ついた。
 お米やもち米が手に入るようになってから、食生活のバリエーションが広がったと思う。大福の中には栗の甘露煮を丸ごと入れてある。

 お兄様はお餅が食べられるようになったのが嬉しかったみたいで暇さえあればお餅つきをしている。ラシーヌ様が学園の送り迎えをして下さるので、お茶をお出ししているのだけど、年末には帰る前にお兄様とお餅つきを毎日されていた。
 その間に私は年末年始のお料理を作っていたのだけど、かなりの量をつくったにも関わらず、ほとんど殿下に持っていかれてしまった。
 代わりに現金は入ってきたけど。「まるで年末の料理屋のようだな」とお兄様が言うように、自分たちのストックよりも殿下の料理に追われる日々だった。



「なんですの? あれは」
「どういうおつもりでしょう」

 私達、フルール様と侍女のエラーナ様、ラシーヌ様と私は戸惑っていた。
 学園の新学期が始まって妙な事が度々起きるようになった。

 というかピンクさんが私たちの前で転ぶ。わざと転ぶ。わざわざ、側に寄ってきて転ぶ。
 遠目でピンクさんを見つけて避けても近づいてきて転ぶ。
 すごく迷惑。

 そして、

「やめて、そんなつもりじゃ」
 とか

「ごめんなさい、許して!」

 とか大きな、それも悲痛な声でわざとらしく頭を下げて去っていくピンクさん。
 何故か必ずピンク教の人が見ているところでコケて、怒ってこちらへ寄って来ようとするピンク教の人の腕にすがって泣きそうな顔をしながら

「あたしが悪いの。多分、気に障る事をしたのよ、きっと」
 と、目をウルウルとさせている。

 この、ワザとらしい自作自演は何のためにしているのでしょう。
 ほんと、見るだけで疲れる。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

婚約破棄感謝します!~え!?なんだか思ってたのと違う~

あゆむ
ファンタジー
ラージエナ王国の公爵令嬢である、シーナ・カルヴァネルには野望があった。 「せっかく転生出来たんだし、目一杯楽しく生きなきゃ!!」 だがどうやらこの世界は『君は儚くも美しき華』という乙女ゲームで、シーナが悪役令嬢、自分がヒロインらしい。(姉談) シーナは婚約破棄されて国外追放になるように努めるが……

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...