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50. 食欲の秋

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新学期はまだ暑い。
夏休みは新しいダンジョンがいくつかできてその対処で忙しかったし、新学期が始まっても行事や雑事で忙しい。合間を見てお茶会も開かなくてはならないし。

お茶会は公爵令嬢のエーアリア様が卒業されてしまったので、規模と回数を減らして開催している。
4年生に侯爵令嬢がいらっしゃるので彼女を中心に企画し、エーアリア様と一緒に卒業されたとはいえ、服飾関係を一手に握っているグラース家のファリア様がタウンハウスの皆さまのドレスを変わらずに見て下さる事になった。
グラース家の商会がドレスを手配し、一度着た後は引き取ってタウンハウスのお茶会ドレスという名目で転売しているらしい。

タウンハウスの皆さまと高位貴族の方とは相変わらず仲良くしてもらっている。
しかし、問題はピンク教の人たちで、彼らからは私に対して冷たい視線が送られてくるようになった。
ヒソヒソとこちらを見て話しているしこの間は通りすがりに舌打ちをされた。

「殿下に媚びを売っている」
「学生会に無理やり入った」
「大人しそうな顔をして実は意地が悪い」

聞こえるように悪口を言ってくるピンク教の人達にはまいってしまう。悪口って堪える。これってピンクさんが私の悪口を言っているんだと思うけど、彼女は知らん顔して時々お菓子を食べにくる。

相変わらず悪口と愚痴と自慢話だけど、最近はいかにピンク教の人たちからチヤホヤされているか、得意げに話してくる。

「恋の季節だからモテモテなんだ~。もう、ラクアートが焼きもち焼いちゃって煩いから器を大きく持つように、って説教したりして。あの連中ってあたしの熱烈なファンクラブだから、あたしはアイドルのようなものね。あたしのハンカチ、大人気なんだ。ほら、リーナもこのハンカチを肌身離さず持っていてよ」

と言いながらまた、使い古しのレースのハンカチをくれた。
やっぱり、あの臭い香水がタップリとかかっていたので、直ぐに水球に包んでアイテムボックスの危険物置き場に入れておいた。
もう、ピンクさんが来ると部屋が臭くなるから喚起と掃除をしないといけないから面倒。でも、水球の周りに水を纏わせて部屋を掃除すると直ぐ綺麗になるから、まぁ、いいけど。私の水魔法の腕は確実に上がっている。

「ねぇ、お兄様、アッという間に日々は過ぎるモノね」
「本当だよ。夏休みはダンジョン攻略で忙しかったし、2学期は行事が目白押し。俺は学生会の一員じゃないのに忙しいったらないね。ピンク頭があまり来なくなったのは良いけど」
「ホント、それでも時々は顔を出すのよね。来なくて良いのに」
「ほんと、アイツ臭いから。でも、ピンク教の奴らはピンク頭の臭いハンカチの切れ端をロケットペンダントに入れて持ち歩いているらしいよ。気持ち悪い」
「うそ! 見たの?」
「ペンダントから出して臭いをかいでいるところをランディが見たって言っていた」
「そうなんだ。それはちょっと引くわね」
「だろう。しかも「フレグランス様の良い臭いだ」って何人かでウットリと話していたって、ドン引きだよ」

「そうね。でも、ピンク教は下級貴族を中心に広がりつつあるみたい」
「何故だろう。そういえば、リーナ、この間ピンク教の奴に絡まれてなかったか?」
「ええ、何だか凄い誤解をしているみたいで困ったわ。私がピンクさんに迷惑をかけているんですって。逆なのに。借りっぱなしになっているモノを早く返してやってくれですって」
「ピンク頭からは何にも借りてなんかないのに、あっ、まさか『水魔法の加護』の事か?」
「どうやって加護の貸し借りなんてするのか、わからないわ。それなのに、真面目な顔して早く返せっていうの」

「第一、『水魔法の加護』なんて持っていないのに。バカだな、あいつら。でも、ピンク教の奴らはなんか臭いからピンク頭の奴、臭いで操ってないか? この世界で人を操るアイテムなんてあるのか、いや、乙女ゲームの世界の課金アイテムとかで手に入れた? どっかでそんな怪しいアイテム、売っているのか? 前に好意がカンストしたアイテムとか喚いていたし」
「でも、ピンクさんには王家の影が付いていてその行動はチェックされているのよ。特に怪しい事はしてないみたい。でも、あの香水をつけだしたのは、というか香水はどこで買っているのかしら?」

私達はイモ羊羹と冷たい抹茶オレでオヤツを食べていた。

夏休みにダンジョンを攻略した時にダンジョンから魔虫が出てくるのを駆除してくれたからと、近所の農家の人がサツマイモを沢山お土産に持たせてくれたのだ。アルファント殿下は良い笑顔で

「サツマイモの炊き込みご飯とサツマイモのコロッケとスイートポテトが食べたいから頼むね。お米の手配はできたからお米と植物油は届けるし。面倒かけて悪いけど助けると思って作ってくれないか。リーナ、頼むよ」

私に大量のサツマイモを渡してきた。そう、出し汁とお醤油が私の加護で出せる事がばれてしまったのだ。お兄様のせいで。
もっとも『水魔法の加護』から派生したと思い込んでいるので、そこはそのままにしておいた。多分、『液体の加護』から出した材料が良いモノのせいだとは思うんだけど、私が料理すると、とても美味しくなるのだ。

「私達もご相伴に預かれるのがとてもラッキーだと喜んでいます。もう、ダンジョン攻略もリーナ様がいるおかげで美味しいモノが食べられるし、アークのおかげで焼き立て熱々の美味しいパンが食べられるし、前は面倒だったダンジョン攻略が今はとても楽しみです」
「楽しみです」

ランディ様とトーリスト様もすごく料理を褒めてくれる。トーリスト様は無口なので一言だけだけど。
私を除いた4人はこのダンジョン攻略の間にすっかり仲良くなって名前で呼び合っている。
でも、私の事はアルファント殿下とお兄様だけがリーナと呼び捨てでランディ様とトーリスト様は様を付けてくる。
様でなくても、とお話したけど、聖女様に恐れ多いと言われてしまった。その後、殿下にまだ聖女に成ってないと訂正されて、お菓子の女神様と言い直していた。
聖女より、女神様のほうが上なんですけど。

王宮の桜は変わらず一輪だけ元気に咲いている。
このままゲームの始まりを迎えると桜の花にも何か変化が出てくるのだろうか。
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