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45. 春の嵐
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翌日は嵐で強い風が吹き荒れていたので、学園は臨時休校。春の嵐には少し早いけど、こんな日もたまにはあるらしい。
私の心の中も春の嵐だったけど、無我の境地で座禅を組んでみた。筆はないけど写経もしてみよう。般若心経は最初しかわからないけど、とりあえずペンで心を落ち着かせて知っている言葉だけでも写経しよう。
「平常心、平常心。そして、問題の先送り。私は何も見なかった。私は何も聞かなかった」
お兄様はあきれた顔で見ていた。
「リーナ、それ、心の声? 問題の先送りって何さ」。
「お兄様、私、たこ焼きを焼いてみようと思うの」
「えっ、突然何? たこ焼き?!」
「ええ、この世界にもタコがいるでしょう。カルパッチョで食べるけど。ソースもウスターソースに似たものがあるし、それにお出汁にケチャップとかお砂糖とかを足してたこ焼きソースみたいなのを作ってみたの」
「マジ!?」
「ええ、それにこれを見て」
「なにこれ! タコ焼き器!?」
「タウンハウスの先輩で領地が鋳物とか工芸品を特産にしている方がいて、その方が下さったの。これで丸い一口ケーキを焼いてみてはどうかしらって」
「いつの間に?」
「お兄様が楽しくお出かけしている間に、私もちゃんと社交しているのよ。タウンハウスの中では恒例の大きなお茶会だけではなくて、女子会みたいにお茶会をしているから」
タウンハウスの先輩たちとの仲は良好で、学園の中でもよく声をかけられたり気遣ってもらっている。
恒例となったテーマを決めた高位貴族を中心としたお茶会もテーマにあわせて中、低位の貴族たちを招待しているので、お茶会にお呼ばれするのが一種のステータスみたいになって来ている。そして振る舞われる私のお菓子が学園では話題になっているらしくて、一部ではお菓子の女神様と呼ばれているらしい。
……恥ずかしい。美味しいのは『液体の加護』で手に入れている材料が良いせいなんだけどね。
特別ゲストで平民の方も順番にお招きしている。万遍なく少しずつお呼びしているので、いつかお呼ばれされるだろうと皆さま、期待して待ってくださっているらしい。
ピンクさんはなるべくお呼びしたくないので、ラクアート様がご実家に呼ばれた時とか、『高位子息が集まる会』にお茶会の開催は合わせている。アルファント殿下は居たら気を遣うだろうとの事で『高位子息が集まる会』には出席を控えているけどピンクさんは男性陣が多いせいかそちらに参加している。
ピンクさん、同性のお友達がいないらしくて、私の事を親友だと言いふらしているらしい。
でもね、「リーナはいずれ、あたしに仕えてくれるから」とか「リーナはずっとあたしとラクアートの側で働く事になるから大事にしないと」
って人様に言っているけど、それ、私の事を下に見ているよね。せめて、人前では取り繕うという事を覚えてほしいと思う。
「ゴホン、とにかく早くたこ焼きを食べよう。問題は先送りするためにある。リーナは初心だから仕方ない」
「なーにをおっしゃる、のだか」
「いや、ほんと。リーナ様。早くたこ焼きを焼いてください」
という事で熱々のたこ焼きができたけど、外はこんがりカリっと中はとろっとフンワリ、とても上手にできたのは自分でもびっくり。お兄様、また涙目になっている。
「俺さぁ、この世界に転生してまた、たこ焼きが食べれるなんて思わなかった。本当にリーナに出会えたことは感謝だよ」
「どういたしまして。私もこの『液体の加護』のおかげで美味しい思いをさせてもらって本当に良かったわ」
「美味いなぁ」
「ええ、本当に」
しばらく黙って二人でたこ焼きを黙々と食べていると、ご連絡鳥がやってきた。
この世界の連絡はご連絡鳥が手紙を届けたり、時には声を届けたりするのが一般的だ。
けれど、そのご連絡鳥は鏡を出してきた。鏡を通すと直接テレビ電話のように相手と話しをする事ができるのだ。
「アーク、リーナ、大変だ」
アルファント殿下の麗しいお顔がアップで出てきてしまった。よし、平常心、平常心、先送り、先送り。
「嵐が止んだ後、神殿の桜の木に花が咲いているのが見つかった」
「えー!」
「うそ!?」
まさか、そんな、私とお兄様は顔を見合わせた。先送りはどうしよう。魔王、復活? まさかこんなに早く?
ピンクさん、何かしたの?!
「で、殿下、まさか、まさかの復活! ですか」
「落ち着いてくれ、アーク。咲いたのは一輪だけだ」
「一輪?」
「それも通常の咲き方ではなく、普通は枝に咲くのに幹から直接、花が咲いている。一輪だけ」
「一輪だけ……」
「通常は枝に一斉に蕾がついて、ついたかと思うといっきに花が満開になる。そのまま咲き続けて、魔王が封印されると一斉に散っていく。咲くのも散るのも同時なんだ。こんな、一輪だけ、それも幹から咲くなんて初めてのことで皆、困惑している」
「幹から一輪だけ?」
「ああ、こんなのは初めて見た。嵐はもう止んでいるから二人で神殿まで来てもらえないか。もう、迎えは出している」
「わかりました。伺います」
私達は急いで出かける支度をし、迎えを待った。
ピンクさんの動向は王宮の影が把握しているはずだから、何かイレギュラーな事が起こったという事だろうか。
何をどうしたらいいかわからないのに、どうしたらいいのだろう。
気が付くと私はまた、たこ焼きを焼いていた。
側でお兄様がお皿を差し出している。
「リーナ、大丈夫。役に立たないけど俺がいるから」
「何それ、お兄様」
「枯れ木も山の賑わいっていうだろ。俺とアルファント殿下もいるし、どうしようもなければ逃げちゃえばいい」
もう、お兄様の言う事はわけわかんない。
でも、ちょっと頭が冷えてきた、かもしれない。
私の心の中も春の嵐だったけど、無我の境地で座禅を組んでみた。筆はないけど写経もしてみよう。般若心経は最初しかわからないけど、とりあえずペンで心を落ち着かせて知っている言葉だけでも写経しよう。
「平常心、平常心。そして、問題の先送り。私は何も見なかった。私は何も聞かなかった」
お兄様はあきれた顔で見ていた。
「リーナ、それ、心の声? 問題の先送りって何さ」。
「お兄様、私、たこ焼きを焼いてみようと思うの」
「えっ、突然何? たこ焼き?!」
「ええ、この世界にもタコがいるでしょう。カルパッチョで食べるけど。ソースもウスターソースに似たものがあるし、それにお出汁にケチャップとかお砂糖とかを足してたこ焼きソースみたいなのを作ってみたの」
「マジ!?」
「ええ、それにこれを見て」
「なにこれ! タコ焼き器!?」
「タウンハウスの先輩で領地が鋳物とか工芸品を特産にしている方がいて、その方が下さったの。これで丸い一口ケーキを焼いてみてはどうかしらって」
「いつの間に?」
「お兄様が楽しくお出かけしている間に、私もちゃんと社交しているのよ。タウンハウスの中では恒例の大きなお茶会だけではなくて、女子会みたいにお茶会をしているから」
タウンハウスの先輩たちとの仲は良好で、学園の中でもよく声をかけられたり気遣ってもらっている。
恒例となったテーマを決めた高位貴族を中心としたお茶会もテーマにあわせて中、低位の貴族たちを招待しているので、お茶会にお呼ばれするのが一種のステータスみたいになって来ている。そして振る舞われる私のお菓子が学園では話題になっているらしくて、一部ではお菓子の女神様と呼ばれているらしい。
……恥ずかしい。美味しいのは『液体の加護』で手に入れている材料が良いせいなんだけどね。
特別ゲストで平民の方も順番にお招きしている。万遍なく少しずつお呼びしているので、いつかお呼ばれされるだろうと皆さま、期待して待ってくださっているらしい。
ピンクさんはなるべくお呼びしたくないので、ラクアート様がご実家に呼ばれた時とか、『高位子息が集まる会』にお茶会の開催は合わせている。アルファント殿下は居たら気を遣うだろうとの事で『高位子息が集まる会』には出席を控えているけどピンクさんは男性陣が多いせいかそちらに参加している。
ピンクさん、同性のお友達がいないらしくて、私の事を親友だと言いふらしているらしい。
でもね、「リーナはいずれ、あたしに仕えてくれるから」とか「リーナはずっとあたしとラクアートの側で働く事になるから大事にしないと」
って人様に言っているけど、それ、私の事を下に見ているよね。せめて、人前では取り繕うという事を覚えてほしいと思う。
「ゴホン、とにかく早くたこ焼きを食べよう。問題は先送りするためにある。リーナは初心だから仕方ない」
「なーにをおっしゃる、のだか」
「いや、ほんと。リーナ様。早くたこ焼きを焼いてください」
という事で熱々のたこ焼きができたけど、外はこんがりカリっと中はとろっとフンワリ、とても上手にできたのは自分でもびっくり。お兄様、また涙目になっている。
「俺さぁ、この世界に転生してまた、たこ焼きが食べれるなんて思わなかった。本当にリーナに出会えたことは感謝だよ」
「どういたしまして。私もこの『液体の加護』のおかげで美味しい思いをさせてもらって本当に良かったわ」
「美味いなぁ」
「ええ、本当に」
しばらく黙って二人でたこ焼きを黙々と食べていると、ご連絡鳥がやってきた。
この世界の連絡はご連絡鳥が手紙を届けたり、時には声を届けたりするのが一般的だ。
けれど、そのご連絡鳥は鏡を出してきた。鏡を通すと直接テレビ電話のように相手と話しをする事ができるのだ。
「アーク、リーナ、大変だ」
アルファント殿下の麗しいお顔がアップで出てきてしまった。よし、平常心、平常心、先送り、先送り。
「嵐が止んだ後、神殿の桜の木に花が咲いているのが見つかった」
「えー!」
「うそ!?」
まさか、そんな、私とお兄様は顔を見合わせた。先送りはどうしよう。魔王、復活? まさかこんなに早く?
ピンクさん、何かしたの?!
「で、殿下、まさか、まさかの復活! ですか」
「落ち着いてくれ、アーク。咲いたのは一輪だけだ」
「一輪?」
「それも通常の咲き方ではなく、普通は枝に咲くのに幹から直接、花が咲いている。一輪だけ」
「一輪だけ……」
「通常は枝に一斉に蕾がついて、ついたかと思うといっきに花が満開になる。そのまま咲き続けて、魔王が封印されると一斉に散っていく。咲くのも散るのも同時なんだ。こんな、一輪だけ、それも幹から咲くなんて初めてのことで皆、困惑している」
「幹から一輪だけ?」
「ああ、こんなのは初めて見た。嵐はもう止んでいるから二人で神殿まで来てもらえないか。もう、迎えは出している」
「わかりました。伺います」
私達は急いで出かける支度をし、迎えを待った。
ピンクさんの動向は王宮の影が把握しているはずだから、何かイレギュラーな事が起こったという事だろうか。
何をどうしたらいいかわからないのに、どうしたらいいのだろう。
気が付くと私はまた、たこ焼きを焼いていた。
側でお兄様がお皿を差し出している。
「リーナ、大丈夫。役に立たないけど俺がいるから」
「何それ、お兄様」
「枯れ木も山の賑わいっていうだろ。俺とアルファント殿下もいるし、どうしようもなければ逃げちゃえばいい」
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